深夜のぶっちゃけ女子会
深夜の静寂に包まれた将軍の私室。普段なら地図や戦略書が並ぶ質素な円卓の上には、今、場違いなほど香ばしい油の匂いと、淡い琥珀色の酒瓶が置かれていた。
「ねぇ、ぶっちゃけさー。ヴィーちゃんって好きな人いないの?」
ユアが「異世界の果実酒」をぐいっと煽り、芋の揚げ菓子をサクサクと咀嚼しながら身を乗り出す。
「こんだけ美人でスタイルいいのに、色恋沙汰ゼロとか。逆に国宝級の無駄遣いなんだけど!」
シルヴィアは戸惑ったように視線を泳がせた。彼女が纏っているのは、戦場での重厚な鎧ではなく、薄手の寝間着だ。あらわになった鎖骨やしなやかな四肢は、確かに「戦場の鬼神」と恐れられる軍人であることを忘れさせるほどに艶やかだった。
「……恋愛、か。考えたこともないな。私は剣に生き、盾に死ぬ身。部下たちからも『鉄の処女』と呼ばれているのだぞ? 女として見られるなど……万死に値する。というか、想像もつかん」
「あー、出た! その『万死』禁止! 兵士たちもさ、リスペクトしてるんだろうけど、ヴィーちゃんのこと『推し』か『女神様』だと思ってるでしょ。もっとこう、一人の女子として扱われたくない?」
ユアの直球すぎる言葉に、シルヴィアはわずかに頬を染め、手元の杯を見つめた。
「……おし?そうなのだろうか。……実は先日、隣国の視察に来た若き外交官、エルンスト殿に……『その瞳は夜明けの星のように美しい』と言われてな。どう返すべきか分からず、つい無言で剣の柄を握りしめてしまったのだが……」
「キターーー!! 脈アリじゃん! 優勝!! ヴィーちゃん、それ恋の予感だよ!」
翌日。ユアの猛烈なプロデュースにより、緊急作戦「全方位モテ将軍」が発動された。
ターゲットは例の外交官、エルンスト。舞台は「両国の親睦を深めるためのティータイム(という名の合コン)」である。
「いい? ヴィーちゃん。鎧は厳禁。でもドレスでガチガチにするのも引かれるから、この『キレイめカジュアル』で行くよ。ちょっとした隙を見せるのがコツなんだから!」
鏡の前で、シルヴィアは落ち着かない様子で自らの姿を眺めていた。柔らかなブラウスに、ラインの出るタイトなスカート。ユアに仕込まれた「上目遣い」と「首を傾げるポーズ」を、彼女は戦場での型を確認するかのような真剣な眼差しで練習する。
「……こうか? 『エルンスト殿、このお菓子……あ、あ〜ん……してほしい……デス?』」
たどたどしく、しかし破壊力抜群の破壊力(破壊的可愛さ)を放つシルヴィアの台詞。
その時、執務室のドアが勢いよく弾け飛んだ。
「か、閣下ぁーーーッ!! 何を……一体何をされているのですか!」
乱入してきたのは、シルヴィアの副官ゼクスである。彼は顔を真っ青にし、今にも泡を吹いて倒れそうな勢いで叫んだ。
「汚らわしい! その……その軟弱な男に『あーん』など、このゼクス、断じて許しません! 閣下の聖なる唇から放たれるべきは、突撃の号令のみ! ああ、なんという冒涜か……!」
「ゼクス君、うるさーい! 邪魔者は帰った帰った!」
ユアがポテチの袋を投げつけて応戦する中、シルヴィアは頬を赤らめたまま、鏡の中で「首を45度に傾ける角度」を再確認し、小さく溜息をつくのだった。




