使える武器
馬車に揺られながらも、シルヴィアの葛藤は続いていた。落ち着きなくドレスの裾を弄り、何度も自分の肩を隠そうとしては、ユアにその手を払いのけられる。
「……やはり、納得がいかん。私は、私は女であることを捨て、男たちの中で血を流して戦ってきたのだ! 周りを見ろ、敵も味方も屈強な男ばかり。女だとなめられれば、そこで終わりなのだ。強くなければ……鎧を纏い、剣を振るう圧倒的な強さがなければ、私はこの国を、民を守ることなどできんのだ!!」
それは、彼女が公爵家を継いでから今日まで、自分を律し続けてきた聖域とも言える「誇り」だった。悲壮感すら漂うその叫びに、同乗していたゼクスも思わず居住まいを正す。
だが、隣に座るギャルには、そんな「騎士の理屈」など一切通用しなかった。
「……あのさぁ、ヴィーちゃん」
ユアは履いていたサンダルを脱ぎ、座席に体育座りをしてシルヴィアを真っ向から見据えた。
「強くなきゃダメとか、男に負けたくないとか、そういうのは別にいいよ。カッコいいと思うし。でもさ、使えるもんは使わなくてどーすんの?!」
「……何?」
「ヴィーちゃんのその顔も、スタイルも、全部神様からもらったチート級の装備品でしょ? それを『女だから』って封印して、わざわざ重たい鉄着て苦労するとか、マジ効率悪すぎ。いい? ヴィーちゃんの女子力だって、立派な武器だよ!!」
戦場での怒号よりも鋭いユアの言葉に、シルヴィアは言葉を失った。
「剣で勝てない相手には、笑顔で懐に潜り込む。魔法が効かない相手には、この可愛いドレスで油断させる。最後にみんながハッピーなら、それが最強の戦術っしょ! 意地張って負けるとか、それこそ騎士道的に『詰み』なんじゃないの?」
「…………」
「いい? 相手は頑固なおじいちゃんなんでしょ。鉄の塊が来たら壁を作るけど、こんな可愛いお姉さんが『困ってるんです』って来たら、つい助けたくなるのが男ってもんでしょ! これ、ウチの世界じゃ常識だから!」
シルヴィアは、ぐうの音も出なかった。
自分が「弱さ」だと思って切り捨ててきたものが、ユアの目には「最強の武器」に見えている。そのあまりにも自由な考え方は、凝り固まっていたシルヴィアの軍略脳に、激しい衝撃を与えていた。
「……武器、か。この……『露出した肩』が、戦局を左右する一手になると?」
「そゆこと! ほら、着いたみたい。ヴィーちゃん、最上級の『ぶりっこ』かましてこーぜ!」
馬車の扉が開く。そこには、険しい顔で待ち構えるガバルド王と、完全武装の兵たちが並んでいた。
シルヴィアは深く息を吸い込み、ユアに教わった通り、優雅に、そして可憐に、ドレスの裾を摘んで馬車を降りた。その瞬間、出迎えた男たちが一斉に息を呑む音が聞こえた。
「……ふん。武器と言われれば、使わぬわけにはいかんな」




