037 こんな上司はイヤだぁぁぁぁ~!【その②】
前回の『020 こんな上司はイヤだぁぁぁぁ~!』。
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思っていたより反響がありました。
いやぁ。
世の中、しょうもない上司の話が好きな人って、意外と多いんですね。
……。
ん?
それ、俺のことか。
まあ、いいや。
調子に乗って、今回はその第2弾ですw
――◇――
四月から、うちのグループに若手社員が三人ほど異動してきました。
まだ二十代半ば。
みんな真面目で、仕事も一生懸命。
レイジさんとしても、若い連中が増えるのは嬉しい。
なにしろ、最近は周りを見渡しても、俺より年下の管理職が増えてきた。
……。
いや。
まあ、俺自身が管理職ではなく、専門職の道を選んでいるので、仕方ないんだけど。
それでも、ちょっと悲しい。
そんな五月のある日の朝。
自席でメールを確認しながら、コーヒーを飲んでいると、その若手三人組のうち、一人が近づいてきました。
「レイジさん、今ちょっとよろしいですか?」
「ん? どうした?」
「あの、お願いがあるんですけど……」
お。
なんだ。
仕事の相談か。
いいぞ、若者。
社員の模範みたいな、このレイジさんに、何でも聞きたまえ。
「レイジさんが以前作成された議事録を、どれでもいいので送っていただけませんか?」
「議事録?」
「はい。昨日の課会の議事録を、課長から頼まれまして」
「ああ、昨日のやつね」
「先輩に相談したら、レイジさんの書いた議事録を参考にするといいって言われたので……」
ほう。
なるほど。
誰だか知らんが、その先輩。
分かってるじゃないか。
レイジさん。
朝から、ちょっとだけ気分がいい。
……。
いや。
こういうところで調子に乗るから、ろくなことにならない。
今回は、ちゃんと真面目に対応しよう。
「いいよ。適当なの送ってやるから」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、お前のメールアドレス教えて」
「はい!」
――◇――
若手くん。
俺の横に立ったまま、元気よく答えました。
「アイ・ケー・イー・ジェイ・ユー・エヌ、アットマーク……です」
「……ん?」
聞き慣れない並びだった。
俺はメールの宛先欄に手を置いたまま、顔を上げてコーヒーを一口。
「ごめん。もう一回」
「ikejun@……です」
……。
イケジュン?
「今、なんて?」
「イケジュンです」
……。
え?
「……ぶっ!」
危なっ!!
コーヒー噴き出すところだった!!
いや、待て。
イケジュン?
イケジュンって、あれか?
イケてるジュンくん?
イケメンのジュン?
なんだ、その自己紹介みたいなメールアドレスは!!
「……ちょ、ちょっと待ってw」
「はい?」
若手くん。
真顔。
いや。
なんでそんなに真面目な顔してんの?
そんな真剣な顔で見ないでw
こっちは今、コーヒーを飲み込むだけで精一杯なんだけど。
「ぼくの、アドレスは……」
「いや、待て!」
そして。
胸を張って。
もう一度。
「イケジュンです!」
――ぶはっ!!
ダメだぁぁぁぁ!!
腹痛いぃぃぃ!!
お願いだから!!
朝から笑わせないでくれぇぇぇ!!
――◇――
ここで、ちょっと説明しておきます。
うちの会社のメールアドレスは、入社時に会社から割り当てられるものです。
例えば、久保零時という名前なら、
「kuborei@……」
みたいな感じ。
本人が好き勝手に決められるわけではありません。
だから、この若手くんも、別に自分で、
「俺、イケてるからイケジュンにしよう」
なんて考えたわけではない。
それは分かっている。
分かっているんだけど。
……。
頭の中で、さっきの声が再生される。
『ぼく、イケジュンです!』
ダメだwww
もう、かんべんしちくれぇぇぇw
しかも、この若手くん。
二十六歳にしては、妙に貫禄がある。
腕を組んで顎に手を当てたら、若手社員というより、どこかの部署のベテラン主任である。
そんな男が、真剣な顔で。
『ぼく、イケジュンです!』
……。
ダメだ。
もう、このアドレスを見るたびに笑う自信がある。
――◇――
「レイジさん……?」
「あ、ああ。ごめん、ごめんw」
若手くん。
困惑している。
そりゃそうだ。
ふと顔を上げると、窓を背にした課長も、チラチラこっちを見ている。
やばいやばい。
若手くんは、議事録を参考にしたくて、先輩に言われた通り相談に来た。
メールアドレスを聞かれたから、ちゃんと答えた。
なのに。
目の前の上司が、突然コーヒー片手に笑い始めた。
……。
なんだ、この職場。
「いや、悪い。分かったからw」
「はい……?」
「イケジュンね。了解w」
宛先を入力。
過去の課会議事録を探して、内容を確認する。
個人名や余計な情報が入っていないものを選んで、添付。
送信。
よし。
仕事は完了。
「送ったよ。参考にして」
「ありがとうございます!」
若手くん。
丁寧に頭を下げて、自分の席へ戻っていきました。
……。
真面目な子だなぁ。
ちゃんと先輩に相談して。
資料を参考にして。
仕事を覚えようとしている。
うん。
実にいい若者だ。
それに比べて。
……。
朝から人のメールアドレスで爆笑している上司。
こっちの方が、よっぽど問題じゃね?
――◇――
しばらくして。
コーヒーをもう一口。
ふと、さっきのやり取りを思い出す。
真剣な顔。
『ぼく、イケジュンです!』
……ぷっ。
ダメだ。
まだ笑える。
しかも。
何が一番おかしいって。
本人は一度も冗談を言っていない。
一生懸命、仕事の話をしていただけ。
それなのに。
俺だけが勝手にツボへ入って、勝手に酸欠で苦しんでいる。
……。
ああ。
こんな上司。
俺だってイヤだわ。
――◇――
【今日の教訓】
・若手社員が真面目に仕事の相談へ来たら、真面目に対応しましょう。
・会社から割り当てられたメールアドレスに、本人の責任はありません。
・コーヒーを飲んでいる時に、予想外の自己紹介をされると危険です。
・そして――こんな上司はイヤだと思ったら、自分のことだった。
……。
いや。
ちゃんと議事録は送ったんだけどね。
仕事はしてる。
仕事は。
ただ、ちょっと笑っただけで。
……。
ちょっと?
まあ。
イケジュンには、勝てなかった。
それでは。
今回も、みなさんご一緒に――
「こんな上司はイヤだぁぁぁぁ~~~!!」
はい、ありがとうございました♪
【了】




