038 ネコと東京ミッドタウンと、さようなら(下)
どーも。
――久しぶりのドントコイ上田です。
随分前に、飼いネコの手術と看病で、一週間ほど仕事を休んだ女性社員のお話を書きました。
◎『026 ネコと東京ミッドタウンと、さようなら(上)』
https://ncode.syosetu.com/n2397lb/26
ネコも元気になり、本人も無事に職場復帰。
お客様も現場の仲間たちも、温かく迎えてくれました。
いやぁ。
世の中、捨てたもんじゃありませんね。
……。
まあ。
うちの会社の売上は、ちょっと減ったけど。
今回は、その後のお話です。
――◇――
先日。
六本木の東京ミッドタウンへ行ってきました。
目的は、お客様先に常駐しているチームへのヒアリング。
ここは、あのネコの一件があった現場です。
もともと他部署が主管している案件なので、レイジさん自身は、これまで一度も足を運んでいませんでした。
おまけに、昨年末から別の大型プロジェクトのトラブル救援で現場に張りついていたので、なかなか時間も取れなかったんですよね。
そしてやっと落ち着いたんで、今回、ようやく初訪問。
……。
なんだ、ここ。
すげぇ。
東京ミッドタウン。
六本木。
おしゃれ。
しかも、お客様はここに堂々と自社オフィスを構えている。
エントランスからして違う。
いつもレイジさんが出入りしている、古いオフィスビルとは何かが違う。
いや。
何かどころじゃない。
全部違う。
ビルの横に出ている非常階段すら、隠されている。
こいつら、こんなおしゃれなところで仕事してんのか。
いいなぁ。
……。
まあ、トラブルが起きれば、どんなにおしゃれなビルでも中は地獄になるんだけどね。
それは知ってる。
嫌というほど。
――◇――
この日、初めて直接顔を合わせたのが、前回のネコの女性社員でした。
年齢は、まだ三十歳手前。
レイジさんより、一回り以上も若い。
しかも。
美人。
……。
いや。
無駄に美人。
何が無駄なのか、自分でもよく分からんけど。
服装も、髪型も、立ち居振る舞いも、なんというか、すごく洗練されている。
IT業界の技術者というより、飛行機の中で見かけるCAさんとか、百貨店の化粧品売り場にいる美容部員さんとか。
そんな雰囲気。
英語もペラペラ。
仕事もきちんとこなす。
……。
なんだ、この人。
俺の知っているIT業界と、ちょっと色が違うんだけど。
まあ。
だからといって、レイジさんが何かするわけではありません。
当然です。
俺にはカミさんがいる。
娘も二人いる。
立派な家庭持ち。
しかも、この子は自分の部下。
仕事をするために来ているのである。
……。
うん。
分かってる。
誰に言い訳してるんだ、俺(汗)。
――◇――
定時を少し過ぎて、現場メンバー全員のヒアリングは、特に問題もなく終了。
現場リーダーとも話ができたし、今後の課題も確認できました。
では、帰りますか。
お客様のビルを出ると、辺りはすっかり暗くなっていました。
ミッドタウンのイルミネーションが、きれいに輝いています。
おお。
これは、なかなか。
せっかくなので、スマホを取り出して写真を撮ることにしました。
昨年から始めたブログにでも載せようかな。
そんなことを考えていると。
「レイジさーん!」
後ろから声。
振り返ると、あの子が小走りでこちらへ来る。
「お疲れさまです!」
「ああ、お疲れ」
……。
ん?
なんで?
あれ?
ほかの連中は?
気づけば、二人きり。
いや。
別に二人になったからといって、何かあるわけじゃない。
分かってる。
分かってるけど。
一回り以上も年下の美人と、夜の六本木。
しかも、目の前には眩しいほどのイルミネーション。
……。
おい。
なんだ、このシチュエーション。
どこかのTVドラマで見たような感じ。
いや俺、仕事しに来たんだよね?
「レイジさん、結構ミーハーなんですね」
横から、スマホを覗き込んでくる。
「あ、いや。ちょっとブログに載せようかなって」
「へぇ~。ブログやってるんですか?」
「まあ、たまにね」
「そういえば、周りの人も結構写真撮ってますね」
「うん。きれいだしな」
すると、彼女が少し悪戯っぽく笑った。
「こうやって二人でいるところを、SNSにアップされちゃったりしてw」
「……え?」
「周りで撮っている人の」
……。
ちょ。
ちょっと待て。
何を言い出す、この子。
「いやいや」
「え~、何で離れるんですか?」
なんか楽しそう。
いや。
こっちは、全然楽しくないわけじゃないけど。
なんだか、妙に落ち着かない。
しかも、話しているうちに、いつの間にか距離が近い。
「……ちょっと近くねぇ?」
すると、彼女はこちらの顔を見上げて。
「なに照れてるんですかw」
……。
は?
いやいやいや。
照れてない。
照れてないぞ。
俺は。
……。
たぶん。
なんだ、この子。
いきなり謎のマウントを取ってきたんだけど。
さっきまで、あんなに上品で落ち着いた雰囲気だったのに。
笑うと、急に悪戯っ子みたいになる。
しかも、こっちが困っているのを、明らかに面白がっている。
……。
おい。
俺は上司だぞ。
一応。
いや、だから何だという話なんだけど。
――◇――
写真を撮り終えて、そろそろ帰ろうとしたとき。
「xxは、ここからどうやって帰るんだ?」
と聞いてみました。
「今日は、ちょっと渋谷に寄ろうと思ってるんです」
「ああ、そうなんだ」
「日比谷線でも大江戸線でも、どっちにしても乗り換えですから」
「そっか。俺は隣の青山まで、このまま歩くから。じゃあ」
よし。
自然だ。
完璧。
上司と部下の、実に普通のお別れである。
ところが。
「あー、じゃあ私も青山まで歩こうかな」
……。
え?
「渋谷にも近くなるし」
「いや、結構遠いぞ。ここから地下鉄で乗り換えた方が楽だから」
「大丈夫ですよ」
……。
はあ。
そうですか。
なら、仕方ないですね。
ということで。
なぜか。
夜の六本木から青山まで。
一回り以上も年下の美人と、二人でテクテク歩くことになりました。
……。
なんだ、これ。
いや。
本当に、なんでもないんですよ。
たまたま帰る方向が一緒になっただけ。
彼女も普通に話している。
何ひとつ、変なことはない。
ないんだけど。
俺だけが、なぜか落ち着かない。
だって、カミさんと娘が二人いる、いい年したオヤジですよ。
それなのに彼女は、まったく気にする様子もなく、隣を歩いてくる。
……。
なんか、近くで話しかけてくる。
肩が、たまに当たるんですけど。
この温度差。
なんとかならんのか。
――◇――
「どこによく呑みに行ったりするんですか?」
とか聞いてくる。
……。
いや。
この状況で、渋谷とかは言えない。
よし。
話を変えよう。
そうだ。
職場の健全な話だ。
「そういえば、ネコは元気か?」
「あ、はい。もうすっかり元気です」
「そか。よかったな」
「ありがとうございます。あのときは、本当にご迷惑をおかけしました」
「いや、現場のみんなもフォローしてくれたし。気にしなくていいよ」
「はい」
しばらく、仕事の話をしました。
今の現場の状況。
異動してきてからのこと。
周りのメンバーのこと。
話してみると、実にしっかりしている。
やっぱり、いい子なんだな。
そう思っていると。
「レイジさんって、誰にでも相手を緊張させないようにしていますよね」
「……え?」
突然、そんなことを言われました。
「そうか?」
「はい。話しやすいです」
「ああ、まあ。上下関係とか、あんまり好きじゃないからな」
これは、昔から意識していることです。
上司だろうが部下だろうが、なるべく普通に話す。
それは、うちに協力してくれているパートナー企業の社員の方へも同じ。
肩書きだけで相手を黙らせたところで、仕事がうまく進むとは思えない。
……。
まあ。
そのせいで、よく部下からガチ説教されたりするんだけど。
すると彼女が、少し笑って言いました。
「実は、気づいてないと思いますけど」
「ん?」
「レイジさんとは、初めてじゃないんですよ」
……。
え?
「なにが?」
「お会いするのが、です」
……。
は?
初めてじゃない?
ちょっと待て。
俺、どこかで会ってた?
なんか、やらかした?
……。
いや。
落ち着け、俺。
仕事の話だろ。
「昨年の年末に、トラブっていたプロジェクトがあったじゃないですか」
「ああ」
「あのとき、レイジさんが途中からPMになりましたよね」
「……ああ、あれか!」
思い出した。
年末に大炎上していた大型プロジェクト。
途中からレイジさんが、他部署の主管案件だというのに放り込まれ、立て直しを任された案件です。
「あのプロジェクト、私もWeb側で参加していたんですよ」
「えっ、そうだったの?」
「はい。私はリーダーじゃなかったので、直接ご報告することはなかったんですけど」
「ああ、Web側は別部署へ任せてたからな」
「そうです」
「そこにいたんだ」
なるほど。
そりゃ知らなかった。
あの頃は、とにかく人が多かった。
現場のタスクリーダーたちとは毎日のように話していたけれど、参加していたメンバー全員の顔までは、正直覚えていない。
「でも、最初にレイジさんが来た日のことは覚えてます」
「最初の日?」
「はい。関係者を全員集めて、朝礼で話したじゃないですか」
……。
朝礼?
ああ。
あれか。
「二カ月で、ここを正常な稼働に戻すから。もう少しだけ、みんなの力を貸してほしい! って」
「……」
……。
ああ。
言ったな。
確かに。
あのときは、現場全体が疲れ切っていました。
連日の高稼働。
終わらないトラブル。
いつになったら帰れるのか。
そもそも、本当に終わるのか。
そんな空気の中へ、他部署から突然やってきた俺が、いきなり偉そうなことを言った。
「正直、あのとき思っちゃいました」
「なにを?」
「この人、この現場を何も知らないし、みんなとは初対面なのに、いきなり何を言ってるんだろうってw」
……。
おい。
それ、本人に言うか(笑)。
「だって、みんな相当疲れてましたから。上の人たちへの不信感もありましたし」
「まあ。そりゃそうだろうな」
「普通、上の人って、そんなこと自分から言わないじゃないですか」
「ん?」
「二カ月で正常に戻すなんて、できなかったら自分の責任になるのに」
「……まあな」
「でも、年が明けてから、本当に稼働が落ち着いてきたので」
……。
少しだけ、言葉に詰まりました。
いや。
別に褒められ慣れていないわけじゃない。
……。
いつだって感謝されてきた。
けど、今のこれは慣れてない。
そもそも、さっきまでイルミネーションの前で、妙なからかい方をされていたんですよ。
それが、今度は真面目な顔でそんなことを言う。
……。
なんだ、この子。
こっちの調子が狂うじゃないか。
「まあ、あんだけ追加で人を入れてもらえたら、誰がやっても何とかなるよ」
「いえ」
彼女は、すぐに首を振りました。
「その人員を追加してもらうために客先へ交渉して、上の人たちを納得させるのが大変なんじゃないですか」
「……」
……。
ああ。
そこまで見てたのか。
現場のメンバーとして参加していた彼女が、当時の俺の仕事を覚えている。
しかも、単に人数を増やしたことだけじゃなくて、その裏にあった調整まで理解してくれている。
……。
いやぁ。
参ったな。
さっきから、こっちばかりが調子を狂わされている。
――◇――
そんな話をしているうちに、青山まで来てしまいました。
「じゃあ、俺はこっちだから」
「はい。今日はありがとうございました」
「ああ。気をつけて帰れよ」
よし。
今度こそ、お別れである。
ところが。
最後に彼女が、またあの悪戯っぽい顔になりました。
「明日、現場のリーダーさんに言っちゃおうかな」
「……なにを?」
「レイジさんと、イルミネーションデートしたってw」
……。
は?
「マテ!!」
おい!!
何を言い出す!!
デートじゃない!!
ただ、同じ方向へ歩いただけ!!
しかも、俺は地下鉄で帰れって言っただろ!!
「ふふっ。冗談ですよ」
……。
いや。
分かってる。
分かってるんだけど。
そういう冗談は、やめてくれぇぇぇ!!
しかも、そんな悪戯っぽい目で笑うな!!
俺にはカミさんがいるんだ!
娘も二人いるんだぞ!!
……。
ああ。
なんか今日は、勝手に一人で疲れた。
現場の客先への挨拶やヒアリングより、帰り道の方が疲れた気がする。
――◇――
それにしても。
少し、不思議な気持ちでした。
PMをしていると、プロジェクトを通じて、本当に多くの人と出会います。
何十人。
ときには、何百人。
同じ現場で仕事をしていても、全員と直接話せるわけではありません。
特にトラブル対応で入った現場では、お客様と向き合い、目の前の問題を片づけるだけで精一杯です。
その後ろで、頑張ってくれている多くの人たちがいる。
俺が覚えているのは、リーダーたちの名前や、会議で何度も顔を合わせた人たち。
その一方で。
向こうは、俺のことを覚えている。
あの日、朝礼で何を言ったのか。
どんな約束をしたのか。
そして、そのあと何をしたのか。
俺自身が、もうほとんど忘れていたことまで。
彼女は覚えていました。
……。
なんだか、少し嬉しかった。
あのときは、誰かに褒めてもらおうと思って言ったわけじゃない。
それは、どこの現場でも一緒。
ただ、疲れ切っているみんなに、あと二カ月だけ力を貸してほしかった。
そのためには、まず自分が終わらせると約束するしかないと思った。
もう息切れしている現場では、期限の分からない頑張りは続きません。
ただ、それだけです。
でも。
あの日、俺の話を聞いていた一人が、今になってそんなことを言ってくれる。
俺が知らなかっただけで。
ちゃんと、届いていたんだな。
――◇――
そして。
この話には、もう少しだけ続きがあります。
あの東京ミッドタウンの夜から、半年ほど経った頃。
彼女から、相談を受けました。
退職を考えている、と。
……。
そっか。
そんなことを考えていたのか。
本社の会議室で、理由やこれからのことを一通り聞きました。
仕事もできるし、英語も堪能。自分の考えもしっかり持っている。
会社にとっては、間違いなく貴重な人材です。
もちろん、辞めてほしくはない。
でも、本人が考えた末に出した結論なら、それを尊重したい。
そんな話をしていると。
彼女が、不思議そうな顔をしました。
「レイジさんは、引き止めないんですか?」
「ん?」
「普通、こういうときって、引き止めますよね?」
「ああ、そうだな」
「……?」
「課長には内緒だけどさw」
「はい?」
「俺、今まで本気で退職を希望してる人を、引き止めたことがないんだよ」
「えっ、どうしてですか?」
「まだ聞くかw」
少し笑ってから、答えました。
「だってさ。俺が引き止めたとして」
「はい」
「この会社に残った先の人生が、辞めて新しい道へ進んだ人生よりも、絶対に幸せになるって約束できるか?」
「……」
「俺には、できないんだよ」
彼女は、黙って聞いていました。
「もちろん、残ってくれたら嬉しいよ。仕事もできるし、みんなだって助かる」
「はい」
「でも、それは俺たちの都合だろ?」
「……」
「xxの人生だからな。自分で考えて、自分が信じた道なら、そうした方がいいんじゃないか」
……。
こんな話を、退職を相談してきた本人へ明かしたのは初めてでした。
普段は、ここまで言いません。
なにしろ。
立場上、上にバレるとヤバいしw
しばらくして、彼女が笑いました。
「レイジさんって、やっぱり正直ですねぇ」
「そうか?」
「それに、部下にも上下関係をあまり意識させないし」
「ああ」
「……かなり変ですよねw」
……。
おい。
そこは褒めてるんだよな?
「まあ、よく言われるw」
「そうなんですか?」
「血液型も、みんなからよく分からないって言われるし」
「Bでしょ」
即答。
……。
おい。
早いな!!
「www。BとかABって、よく言われる」
「違うんですか?」
「言わないw」
「え~、なんでですかw」
さっきまで退職の話をしていたのに、いつの間にか血液型の話になっていました。
まったく。
この子と話していると、どうしてこうなるんだ。
でも。
少し安心しました。
彼女は、最初に俺が引き止めなかったことを、不思議に思ったようでした。
もしかしたら、自分だけ必要とされていないのかと、感じたのかもしれません。
そうだったら、それは違う。
辞めてほしくない気持ちがないわけじゃない。
むしろ、仕事のできる社員が辞めるのは、会社にとっても現場にとっても痛い。
ただ、それと、その人がこれからどう生きていくかは、別の話です。
彼女にも、それが伝わったようでした。
「まあ、そういうことだから」
「はい。ありがとうございます」
「頑張れよ」
「はい!」
……。
よし。
これで話は終わり。
と、思ったところで。
「あ、そうだ」
「はい?」
「課長にはさ」
「はい」
「レイジさんから、かなり強引に引き止められましたって言っといてくれw」
「ええっ!?w」
「いや、頼むって! 俺にも立場ってもんがあるんだよ!」
彼女は、声を出して笑っていました。
……。
まったく。
最後まで、上司の威厳がない。
いや。
いつもじゃないですよ。
――◇――
そして翌年。
彼女は、コンサルティング企業へ転職していきました。
英語もできる。
仕事もできる。
あの悪戯っぽい性格なら、新しい職場でも、きっと周りの人たちとうまくやっていくんでしょう。
……。
いや。
新しい上司も、からかわれているかもしれないけどw
それから、どうしているのか。
今は分かりません。
――◇――
PMを長くやっていると、本当に多くの人と出会います。
何年も同じ現場で働いた人もいれば、ほんの短い間だけ関わった人もいる。
そして、いつの間にか、それぞれが別の道へ進んでいく。
全員の顔を覚えているわけじゃないし、すべての出来事を覚えているわけでもありません。
でも。
あの日、彼女が俺の言葉を覚えていてくれたように。
俺も、彼女のことを覚えています。
ネコの看病で、一週間休んだ子。
東京ミッドタウンで、俺を散々からかった子。
青山までの帰り道に、昔のプロジェクトの話をしてくれた子。
そして、自分で新しい道を選んで、会社を去っていった子。
……。
そう考えると。
あの夜、二人で歩いた時間も、案外いい思い出だったのかもしれません。
いや。
イルミネーションデートじゃないからな!!
そこだけは、何度でも言っておく!!
――◇――
【今日の教訓】
・一回り以上も年下の美人部下と、夜のイルミネーションを見ても、仕事は仕事である。
・相手が何も意識していないのに、一人で勝手にドキドキしているオヤジは、だいたい悲しいくらいに滑稽である。
・自分では忘れてしまった言葉でも、誰かが覚えていてくれることがある。
・誰かの人生を応援することと、自分の都合で引き止めることは、同じではない。
・そして――部下の人生を尊重するのはいいが、自分の会社での立場も少しは考えましょう。
……。
そういえば。
あの夜、彼女が最後に言った、
「イルミネーションデートしたって、リーダーさんに言っちゃおうかなw」
という冗談。
結局、リーダーからそんな話を聞くことはありませんでした。
……。
よかったぁぁぁぁ!!
いや。
何もしてないんだけどね!!
ただ、一緒に歩いただけだから!!
……。
あっ。
肩は、ちょっと触れました。
いや、だから!!
何もないって!!
――◇――
あれから、何年経ったんだろう。
ネコは、元気にしているかな。
あの子も、元気でやっているかな。
東京ミッドタウンのイルミネーション。
青山までの帰り道。
そして。
俺自身も忘れかけていた、あの日の朝礼の言葉。
それを覚えていてくれた、一人の若い社員。
……。
いやぁ。
あの夜は、ずいぶんと振り回されたけど。
今では、いい思い出です。
さようなら。
東京ミッドタウン。
そして――
新しい場所でも、元気でな。
【了】




