032 世界の理の外からやってきた言葉
みなさん。
趣味で小説を書いている時に、
――とんでもない日本語を発見してしまいました。
いや、マジで。
ちょっと怖いやつです。
しかも。
あなたも、たぶん人生で一度は食らってる。
だからもう、
誰かに言いたくて、言いたくて……。
異世界ファンタジーで例えるなら――
次元の臨界を軋ませ、
世界の理の外側から、
ぶっこまれたような“異物”。
そんな感じの言葉。
いや。
漢字が難しいとか、
敬語がややこしいとか、
そういう話じゃないんです。
もっと怖い。
“何も言ってないのに、全部言ってる言葉”。
それが、日本語には存在する。
――◇――
しかも、その言葉。
具体的な説明は、一切ない。
主語もない。
状況説明もない。
怒っているのか。
悲しんでいるのか。
呆れているのか。
それすら曖昧。
明確に何かを伝えているようで、
中身を開けてみると、
びっくりするくらい空っぽなんです。
なのに――
言われた側だけは、なぜか絶対に意味が分かる。
怖くないですか。
――◇――
しかも、もっと怖いのが。
この言葉。
ぴったり対応する英語が、ない。
近いものはあります。
“Why are you like this?”→ “問い”
(どうしてあなたはこんな風なの?)
“You’re better than this.”→ “期待”
(あなた、こんなんじゃないでしょう!)
でも。
違う。
なんか違う。
英語にすると、
“責め”が強すぎる。
あるいは、
“問い”として成立しすぎる。
日本語のそれは、
もっと曖昧なんです。
応援にも聞こえる。
呆れにも聞こえる。
怒りとも、
悲しみとも、
断定できない。
もっとこう、
ぐちゃっとした感情の塊なんですよね。
――◇――
たとえば。
それを言われた瞬間。
「あ……」
ってなる。
心当たりが、
勝手に脳内へ浮かぶ。
しかも厄介なのが。
“理屈”じゃなく刺さる。
説明されてないのに、
なぜかダメージだけ入る。
主語もない。
具体的に傷つける単語もない。
なのに。
感情そのものを、
直接ぶつけられたみたいに重い。
――◇――
そして、その言葉は――
疑問文みたいな顔をしています。
「?」の形をしている。
でも、あれは質問じゃない。
感情が、
疑問文のコスプレをしてるだけだ。
聞いているようで、聞いていない。
答えを求めているようで、
本当は説明なんか欲しがっていない。
じゃあ、何を投げているのか。
たぶん――
“理解できなくて苦しい”
そんな感情そのもの。
――◇――
さて。
その、
正体不明の日本語。
それが――
『なんでそうなの』
これです。
――◇――
いやいや。
冷静に考えてください。
この言葉、
具体的には何も言ってないんです。
俺も、
カミさんからこれを言われた時は、
慌てて脳内Zipファイルの高速解凍に全力を尽くします。
(あ、昨日のケンタのゴミか?)
(サッポロポテト踏んだ件か?)
――って。
――◇――
しかも、この言葉。
本当に凄いのは――
“責め切っていない”ところなんです。
「最低」でもない。
「嫌い」でもない。
まず、
“なんで”を探している。
つまりこれは、
関係を切る言葉じゃない。
まだ理解したい。
まだ期待している。
でも、
理解できない。
その苦しさが、
漏れてしまった言葉なんですよね。
――◇――
だから日本語のそれは、
感情が、
曖昧なまま存在している。
怒り。
悲しみ。
困惑。
呆れ。
期待。
諦めきれなさ。
あるいは――
「あなたは、
もっと出来る人でしょう」
そんな気持ちなのかもしれない。
――◇――
そして。
この言葉って、
相手を責めているようで――
実は、
相手の“欠けている部分”を見てしまった時に、
出てくる気がするんです。
優しさ。
想像力。
余裕。
愛情。
自信。
痛みへの理解。
人は、
欠けている場所から、
他人を傷つけることがある。
だから極端に言えば。
これは――
“あなたの欠乏は、なんですか?”
なのかもしれない。
……いや。
やっぱり、まだ違う気もする。
今、読者から、
あなたは――
「なんでそうなの」
って言われた気がする。(笑)
――◇――
異質な言葉。
たった七文字。
怒りも、
悲しみも、
期待も、
呆れも、
諦めきれなさも。
なのに――
人間関係が、全部入ってる。
どうでもいい相手なら、
こんな言葉、
わざわざ出てこない。
本当に大事な相手だから、
“理解できない苦しさ”が、
漏れてしまう。
そしてたぶん。
この言葉が一番刺さるのは――
本当に大事な相手から、
言われた時なんだろうな。
【了】




