029 その日、500円玉は無力だった
休日の午後。
欲しかったゲームが中古で安かったので、
2本まとめて買ってきた。
――いい買い物をした。
そう思いながら、財布を開くと。
紙幣、なし。
500円玉、ひとつ。
……まあ、いい。
帰るだけだし。
――◇――
駅に着いたあたりで、小腹がすいた。
いい仕事をすると、いつも腹が減る。
(なんかほしいな)
駅前のコンビニへ。
おにぎりを2つ手に取り、
ついでにポテトチップス(小)もカゴへ。
合計、450円。
(……いける)
(いや、むしろお釣りでブラックサンダーいける説まである)
そう確信して、レジへ。
バイト風のお兄さんが、いつもの笑顔で言った。
「673円です」
――え?
一瞬、時間が止まった。
そして、財布の中で500円玉をつかんだ指も止まった。
(いやいやいや)
頭の中で即計算。
・おにぎり2つ → 300円くらい
・ポテチ → 150円くらい
合計、450円。
(……あと、太っ腹で袋もつけてって言っちまった)
(いやいやいや)
(袋が200円のわけがない)
もう一度、表示を見る。
673円。
……。
(……負けてるやん)
――◇――
500円玉を握っていた指を、静かに離す。
慌ててケツのポケットからスマホを取り出す。
「PayPayで……」
封印を、破った。
そう、PayPay。
最初は使っていたが、
小遣い制の俺には危険すぎる存在。
クレジット連動で、
「どんだけでも買える」
という、悪魔のシステム。
一度、軽く地獄を見てから、
現金主義に戻したはずだった。
だが今回、やむなく再解禁。
ピッ。
(家計の崩壊音)
(※SE:ドォォォォン……)
――支払い完了。
(くっ……俺は今、未来の俺に借金した……)
――◇――
帰り道、考える。
まさか――
おにぎり2つで、500円を超える日が来るとは思わなかった。
コンビニのおにぎりなんて、
数年前は「軽く済ませる食事」だったはずだ。
それが今や、主役級の価格。
しかも俺は最近、
値段を見ないで買い物するようになっていた。
……いや、違う。
見えなくなっただけだ。
近くが。
そう、自然現象として。
――◇――
それにしても、色々と高くなった。
上がるのは物価。
下がるのは俺の可処分所得。
そして変わらないのは、小遣い。
……いや、むしろ体感では減ってる。
そんな中で思った。
食パン、強すぎないか?
あのクオリティで、150円。
6枚入り。
一方、おにぎり。
1個、250円。
(戦わせる相手、間違えてないか?)
もはや、
食パン=庶民の最終防衛ラインじゃね。
(俺の中の経済がバグってきた)
――◇――
【今日の教訓】
・PayPayは便利だが、
「今月あといくら使えるか分からない」のが一番怖い
・価格表示が(あえて)小さいのは、
たぶん気のせいじゃない(高齢社会の企業戦略?)
・おにぎり2つで300円の時代は、
静かに終わっていた
・そして――食パンは、最後まで俺たちの味方だった
……6枚切りなら1枚25円。
明日の朝は、食パンにしとこ。
(たぶん、ジャムはなしで)
【了】




