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第4話 キュ・ウリ


この作業を始めてから三日目の水曜日まで

少し不思議に想う事があった。


 作業場の飲み物の自動販売機にビールがある?


 何故に? コーヒーとか紅茶があるのは理解できるけれども


 何故にビールが? 最初、とっても不思議だったのだが



 朝の作業前時間のモーニング・ティータイム休憩時間

 眠気覚ましコーヒーや紅茶を飲む人が多い中


 建設インフラ関係の同業者団体から雪崩れ込んだ人々が

 朝っぱらからビールの缶を開けて、一気に流し込みながら

 普通に打ち合わせをしています。


”職場で酒を飲んで酔っぱらっちゃいけません”


 という常識がインフラ建築の世界には無いのでしょうか?



 飲み物に関して居合わせた同僚に聞いてみると


  ビールが飲み水かわりに飲まれている国の人が

  インフラ建設の世界では偉かったり有能だったりして

  色んな常識を作っているので


  飲み物に関しても、ビールは紅茶やコーヒーと

  同じようなものとなっている。


 という事らしく、なのでビール自販機があるワケらしい。

 


  飲まなきゃやってられないじゃあああああああああッ!!!

  あやしい薬に手を出してないだけマシだ


 と主張した管理職がいたワケでは決して無いらしい。


 凄いなあ、アルコールに弱い人間は、どうしているんだろう

 あ、一緒になって飲まないと駄目なワケじゃないから

 弱い人は飲まないだけかあ




 などという、たわいのない朝の数分間を過ごした後

 歴史データをAIに登録する入力作業スタート。


 指示メールで送られてきた今日、精査するのは

 キュ・ウリというフォルダにあるデータ



[ cyu uri : キュ・ウリ ] そこで 何を してやがる?


(キニヤルワンダ語なまりのスワヒリ語)



[ cyu uri : キュ・ウリ ] てめぇは 誰だぁ?


(キニヤルワンダ語)



 ん? 俺が言われてんのか? なわけないかフォルダ名だよねー


 ま、いいや、というワケで作業開始。



------------------------------------------------------------------


人的要因 1c  : ジーン兄弟と取り巻き


 [ cyu uri : キュ・ウリ ] 何してるの?



市場環境要因 1β


 [chuki ya ndugu : チュキ ヤ ンドゥグ] 兄弟憎悪


------------------------------------------------------------------


セイ・ジーンが、アメカのように連邦制度の下で州に地方自治権を与え

権力を分散化させて、国は全体を統括する政府形態へとして

市場原理経済の自由民主主義国家にしていこうとする方向性なのに対し。


ルンバ・ジーンは、ロアシが革命で皇帝一族を処刑し

それまでの皇族や貴族を殲滅した後

強権的な共産党の一党独裁による政府が

全ての権限を所有する中央集権による

国家統制経済の社会民主主義国家にしていこうとする方向性であった。


これは、兄弟の父親が、アメカとロアシの冷戦下で

どちらの国が支援する勢力が国内で勝利したとしても

一族が生き残っていくようにするために


全く違う統治教育をしたためであった


そうした風潮は、首都に自然発生した政府役人一族の全般に存在し


各一族内で、学生の頃から二手に分かれていく事となった。




アメカとの友好国であった帝国のマスコミは

セイ・ジーン による市場原理経済の自由民主主義国家を目指す

ザイスタン新政権が好意的に評され


ルンバに関しては批判的で辛辣な言葉で語った


 今すぐに退任して、後進へと首相の座を譲るべきだ


 あのような存在は亡国を招く存在だ


などなどという論調であった。


帝国の政治家から見て、保守穏健派なセイ・ジーン が

過激な極左派ルンバと取り巻きの共産主義革命衝動と

資本主義に対する反感を抑制して


いずれは、自国やアメカと同じように

市場原理経済の自由民主主義国家になることを望んでいたが



国際世論では


 自由民主主義と社会主義の中間な

 社会民主主義国としてバランスが取れている


という論調で敬意を持って現状維持が望まれた。



・・・



セイ・ジーン大統領とルンバ首相との間の対立は


最初に兄弟げんかのような些末な笑い種であったものが

だんだんとエスカレートして多くの人間を巻き込み


政治と金の問題などの人脈金脈スキャンダルが次々とリークされ

馬鹿げた足の引っ張り合いを繰り返されるようになり


 どちらかの勢力が勝利することで完全制圧して決着がつく


という事も無い代わりに


 馬鹿げた批判中傷合戦だけが、延々と続くだけで


 市場原理経済と国家統制経済の一部を無理やりツギハギして

 はめこんで完成だと言い張った作りかけパズルのような

 独特な市場経済が形成される


という事象を発生させ


それは、農場経営、農産物取引、鉱山経営、産業用金属取引などの


主要産業だった農業、鉱業においても同様で

独特な、経営者連合会、同業者団体、労働者組合が形成された



そんなワケで、何か問題が発生するたびに

国が暫定的に、対処療法的に一時しのぎをする


という同じような事の繰り返しが成されていった。



・・・



そしてセイ・ジーン大統領の発言や行動は宗教家じみていった


神秘的な感じを受けるような文言が散りばめられ

予言者にでもなったかのような未来予測を語り


深刻な問題に関しては沈黙を保つか

どちらとも解釈できるような声明を発言する


という御都合主義ポピュリズムと言えるような

言動を好むようになった。



例えば、経営者連合会に出席した時においては、

会社教信者が崇拝する教祖様になったかのように振る舞い

熱心な信者として同じ会社教信者と交流する事を勧め



労働者組合の集会に出席した時においては

仕事教信者が崇拝する教祖様になったかのように振る舞い

熱心な信者として同じ仕事教信者と交流する事を勧める



といったように群衆が信じる事柄を利用するような

発言や態度をとるようになっていった。



それは、国家統治においても同様で

国家元首としての役割は儀式的で象徴的なものになり


ルンバ首相が担当して全て決定していた役割よりも

はるかに市場経済などへの影響力は少なくなっていき


ルンバ派の勢力が、セイ・ジーン派を上回りそうな事態へと発展。



ここで、ロアシ勢力を恐れるアメカと帝国は内政に干渉しだす


 セイ・ジーン大統領は、ルンバ首相の

 権威主義的で独裁的な行動を、何故、抑制しようとしないのだ


と批判して、国全体が極左傾向に傾きそうな事態を崩そうと工作を開始した。




セイ・ジーンは、アメカや帝国と癒着して利権を確保している

政党の重鎮の圧力に抵抗し


ザイスタン歴 3年8月13日に政見放送を行った。



「私が大統領に就任し、ルンバ首相を任命してから今迄の3年ほど


 我々は法治国家の一員として内政を司り

 国の発展のために意見を交わし協力してきました


 それは国政に参加する我等の義務でありました


 我等が決める政策は、ザイスタンの未来のための政策でなければならず


 特定の共通利害を所有する人々のための政策であっては、いけません


 そして、国家の利益を反映し、人道的価値により人間の自由を認めた

 我等が繁栄することを可能にする政策でなければ、ならないのです。



 我等の義務の中には、私たちと忠実に協力してきた人々に対する

 憎悪、疑惑、悪意の感情をすべて排除する事があります。


 また、設立された政府機関、地方自治機関を共に尊重し

 秩序を保つための法を遵守することも政府の義務なのです。


 その義務から逸脱するような事があっては、なりません。



 ルンバ党首と所属政党は華国やロアシとの親密外交政策により

 あきらかに国益に反し、華国やロアシを反映させるだけな

 彼等の属国となってしまうような馬鹿げた政策で

 国を間違った方向に導こうとしてしました


 これは国賊と言っても良いような暴挙であり

 有りえない、いや、あっては、ならない事であったのです


 ルンバ首相の選択してしまった、この間違いを正すために

 ルンバ首相解任案、および極左政党となった政党解散通告を


 大統領令として発令する事を決定しました。」



そして、9月5日、セイ・ジーン大統領は

極左政党が中心になっていたルンバ政権を解体


ルンバ首相は解任案を受け入れることを拒否

逆にセイ・ジーン大統領の解任案を公表


オレ・サ・マーダー陸軍司令官が

セイ・ジーン大統領から委託された非常時特権により

ルンバ・ジーン元首相を逮捕して

大統領令を強制執行する9月14日まで膠着状態が続いた。



ルンバ・ジーン元首相は逮捕されたが

大統領恩赦により、数週間の拘留で釈放後も

華国やロアシに接触を続けた事が露見


オレ・サ・マーダーが統括する治安維持組織により


”国にとって必要無い存在”と判断され、この世から消された。



・・・



ザイスタン歴6年までの5年間、

セイ・ジーン大統領は政府と国営企業を運営。


 国民のために生きる人格者として生きる聖人


として君臨したがるセイ・ジーンは


次第に植民地時代からの利権所有者に支援されている

金権主義の政治家や政商には、綺麗ごとを言うだけと煙たがれ


それらの政治家が支援したオレ・サ・マーダーが

ザイスタン歴6年11月に、クーデターを起こして権力を掌握


セイ・ジーンは大統領を弾劾され

23年に渡る公人としての活動は終わる事となった。



オレ・サ・マーダーと治安維持組織により

幽閉されたセイ・ジーン元大統領は


病気により隠居するという事がマスコミによって情報公開され


4年後、ザイスタン歴10年になると

闘病生活の末に亡くなった事が報道された。



結局、この馬鹿げた兄弟喧嘩は、オレ・サ・マーダーが

漁夫の利を得るだけの結果となった。



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