第96話 死闘開幕
【 スリーピングキャッスル 王家の聖域 】
フェルダンは太陽剣 《ヒューペリオン》を構え、完全に戦闘態勢へ移行した。
闇夜のような漆黒の甲冑と、白く輝く光の剣。その陰と陽の対比は敵でありながら神々しさを感じさせ、思わず気圧されそうになるほどだった。
「無駄な抵抗はやめなさい!! 仮に私たちを倒せても、外には解放された皆がいるのよ!?」
イリスが声を張り上げる。
その後ろで、裕真は《どうぐぶくろ》から《きこりのおの》を取り出し、刃先をフェルダンへと向けた。
「どう転んでも、あんたに勝ち目はないぞ!!」
それはハッタリでも恫喝でもなく、本気でそう思って口にした言葉だ。
チート持ちの『勇者』が2人、Sランクハンターが1人。さらに《貪狼星》を持つイリスまで揃っている。
伝説の英雄とはいえ、フェルダン1人に逆転の目があるとは到底思えない。
しかし、フェルダンは不敵に笑う。
「ふふ……お気遣いどーも。でも心配あらへん。ウチはこれぐらいの逆境など、いくつも乗り越えてきました。ウチ1人の力でな……」
その余裕たっぷりな態度に、むしろ味方の方が動揺した。
「母上! いい加減にして! 意地張らんで降参せえや!」
「マレフはん!! 何故そこまで!?」
娘のエオリアと、十年以上の付き合いがあるマクリールが、それぞれ必死に声を上げた。
だが、それでもフェルダンは臨戦態勢を崩さない。
「どうしてもやると言うなら……ちょっと痛い目見てもらうよ!」
これ以上の説得は無駄だと判断したかなめは、《アバドンの大盾》を構えて、じりじりと間合いを詰めた。
しかしその直後――
目の前からフェルダンの姿が消えた。
「え!?」
かなめは驚き、慌てて周囲を見回すと、その背後にフェルダンが立っていた。
次の瞬間、ガランッと硬い音が床に響く。
落ちたのは、《アバドンの大盾》の下半分だった。
『神器』は決して壊れないはず。
それなのに、盾は綺麗に真っ二つに断ち切られていた。
……そして、断たれたのは盾だけではなかった。
ずるり。
「え!?!?」
かなめの胴体が、鎧ごと上下に分かれていた。
上半身と下半身が、血の糸を引きながら離れていく。
そして、二つに分かれた身体が、どしゃりと床へ崩れ落ちた。
裕真たちは、その光景を前に絶句した。
目の前で起きた出来事が、これまで信じてきた常識を覆すものだったからだ。
壊れないはずの『神器』が、破壊された。
防具十万着分の防御力を持つはずのかなめが、あっさりと両断された。
『不可能』を『可能』に変えてみせたフェルダン。
伝説として語り継がれてきた英雄の実力を、裕真たちは最悪の形で思い知らされたのだ。
◇ ◇ ◇
【 スリーピングキャッスル 茨の庭園 】
イバラの呪縛から解放され、『静波号』から降り立った一同を待ち構えていたのは、白銀に輝く巨人たちの群れだった。
造魔属 [ミスリルゴーレム (最高品質) ] 討伐Lv 90
全長九メートル前後。洗練された甲冑騎士の姿をしたミスリルゴーレムが、ざっと見ただけでも千体以上並んでいる。
美術館の庭園に彫像として並べても違和感がないほど美しい造形は、古代エルフ王朝が全盛を誇った時代の遺産そのものだ。
考古学者が目にすれば、歓喜のあまり卒倒しかねない光景だろう。だが残念ながら、ゴーレムたちは一同を敵と認識しているらしい。
ミスリル製の剣や槍、戦鎚を構えた巨人たちが、一斉に襲いかかってくる。
その正面に、篤志が立ちはだかった。
「皆さんは下がっていて!」
篤志は振り下ろされる巨大なメイスを紙一重でかわすと、片足を大きく踏み込み、ゴーレムの脛を片手で掴んだ。指がミスリルの装甲にめり込む。
その直後、全長九メートルもの巨体が宙に浮いた。
篤志はそれをヌンチャクのように振り回し、周囲のゴーレムに次々と叩きつける。
甲冑がへしゃげ、関節が砕けたゴーレムたちは、次々と弾き飛ばされ、地面や城壁にめり込んでいく。轟音が響き渡り、白銀の破片が火花のように散る。
あまりに出鱈目な光景に、仲間たちは言葉を失った。これが『勇者』の力なのか、と。
その後に続くように、レギンが前へ飛び出した。
「ムスペルヘイム!!」
神器 《レーヴァティン》から、太陽や星々を生み出したと伝えられる『最果ての炎国』の業火が噴き出した。
数十体のゴーレムが、まるで蝋のようにぐずぐずと溶け崩れていく。白銀の装甲が赤熱し、溶けたミスリルがどろりと垂れ落ちた。熱気が周囲の空気を歪ませ、地面には溶岩のように煮えたぎる金属の溜まりができていく。
凄まじい威力だったが、レギンの表情はどこか不満げだった。
「ゴーレム系は炎が効きづらいから、苦手なのよね……」
炎耐性のない普通の魔物なら、とっくに灰になっているはずだ。
だが、ミスリルゴーレムは溶け崩れながらも、完全には機能を停止しておらず、まだ蠢いている個体さえいた。
続いて、アトラス連邦の元大王ジールが前へ進み出た。
青白く輝く全身甲冑を纏った巨躯が、甲冑もろとも、みるみるうちに巨大化していく。
やがて、その身長は百メートルほどに達し、城を見下ろす巨人となった。地面が鳴動し、城壁の一部が崩れ落ちる。
感情が無いゴーレムたちは何の反応も示さなかったが、代わりに仲間たちが驚きの声を上げた。
「すっごい……話には聞いてたけど、実際に見ると、マジビビる!」
「あんまりジロジロ見ちゃ失礼だよ」
興奮するパルテナを、ルナがたしなめる。
ジールは大王の地位を退いたとはいえ、アトラス連邦の王家の一員であることに変わりはない。礼を失する態度を取れば、後々の外交問題に発展しかねなかった。
「鎧も一緒に大きくなりましたけど……あれも巨人族の能力なんですか?」
モモは震える手で巨人を指さしながら、ニーアに尋ねた。
「いえ、あれは鎧に備わった機能ですよ。古代巨人族の魔導師が開発したものとか」
「へぇ……」
モモは、巨人族を魔法が不得意で、極端に言えば「脳筋」な種族だと思っていた。
しかし、それは大きな誤解だった。むしろ巨人族は他種族よりも魔力容量が大きく、歴史上、数多くの優秀な魔術師を輩出してきた。
……とはいえ、彼らの最大の特徴は、やはり巨大化によって得られる強靭な肉体だ。歴史に名を残した者の大半が戦士である以上、そう誤解されても仕方のない面はある。
ジールの戦い方は、極めてシンプルだった。
巨大な腕を振るうたび、数十体のゴーレムがまとめて宙を舞う。踏み込む足が地面を抉り、白銀の巨体を、まるで子供がおもちゃを蹴散らすように弾き飛ばしていく。
ゴーレムたちの剣も槍もメイスも、百メートルの巨人にはまるで通用しなかった。衝撃でゴーレムが粉砕され、白銀の破片が雨のように降り注ぐ。
次々と数が減っていく。
それでも、千体を超える群れは容易には尽きなかった。
篤志とジールがミスリルを砕く轟音と、レギンが生み出す炎の熱気。その中で、戦いはなお続いていた。
「よし! オレたちも戦おうぜ!」
急にラナンが、勢いよく声を上げた。
自分の身体よりも大きなハンマーを構える。契約している『石の精霊』が、巨大なハンマーの姿で実体化したものだ。
しかし、やる気満々のラナンとは対照的に、仲間たちはそろって渋い顔をした。
「いやいや……、アツシさんが任せろって言ったじゃないですか」
アニーが呆れ気味に言う。
ゴーレムの軍勢は篤志とレギンとジールの活躍で、みるみる数を減らしていた。
わざわざ加勢しなくても、問題なく片付きそうな勢いなのだ。
「おバカ! こんな高レベルの魔物と戦える機会なんて、滅多にないんだぞ! 今のうちに経験積んどかねーと!」
ラナンの言葉に、仲間たちは一転してハッとした。
そう、裕真たちの冒険はまだまだ続く。これから先、どんな強敵が待ち受けているかも分からない。裕真についていくのなら、自分たちももっと強くならなければならないのだ。
「そうだ、ビビるこたねぇ! 今のオレたちにもチート級の力があるんだ! ちと勿体ねーが、遠慮なく粉砕するぜ!!」
ラナンは威勢よく叫ぶと、ゴーレムに向かってハンマーを振り下ろした。
しかし、九メートル近い巨体が、ひらりと身を翻してその一撃をかわした。ゴーレムとは思えない軽快な動きだ。
勢い余って無防備になったラナンの背中に、巨大なメイスが叩きつけられた。
ドガンッという衝撃音が響き、ラナンの小さな身体が宙を舞う。
「ラナン!!?」
仲間たちが一斉に声を上げる。
ラナンは地面に叩きつけられ、二度、三度と跳ね返った。それでも、すぐさま身体を起こして立ち上がる。
「だ……だいじょうぶ! でも危なかった! 《ゴールドケープ》着てなかったら死んでた!!」
ラナンは慌ててケープを握りしめた。
ゴールドライオンの毛皮から作られた《ゴールドケープ》には、物理攻撃によるダメージを無効化する力がある。それが、彼女の身を守ったのだ。
日の光を浴びたケープが、心なしか誇らしげに輝いているように見えた。
仲間たちは胸をなで下ろすと、今度こそ本格的に戦闘態勢へと入った。
まず、モモが元気よく手を挙げる。
「開け! 夢の扉!!」
その声に応じ、地面が盛り上がった。
土砂を押しのけるようにして、巨大な顔面がせり上がってくる。目を剥き、苦悶に歪んだその顔は、大きく開いた口そのものが扉になっていた。
現世と『暗黒悪夢時空』をつなぐ禍々しき門だ。何度見ても、肌が粟立つ。
ゴゴゴゴ……という重低音を響かせながら扉が開くと、どす黒い瘴気が溢れ出す。その奥から、異形の軍勢が次々と姿を現した。
麻袋を被った血塗れの巨人。長い黒髪で顔を覆った怪女、人体を繋ぎ合わせた蜘蛛のような怪物、無数の触手を生やした肉塊、その他、名状しがたい冒涜的な化け物たち。
『暗黒悪夢時空』に生息する『暗黒悪夢生物』の皆さんである。
「皆さん! やっちゃってください!」
モモの号令と共に、怪物たちがミスリルゴーレムへと襲い掛かる。
しかし、敵の反撃は予想以上だった。
ゴーレムたちは無駄のない洗練された動きで怪物を次々に打ち倒していった。剣で薙ぎ払い、槍で貫き、メイスで粉砕する。
黒い血が飛び散り、異形の体が塵となって霧散していった。
「あわわ……まるで雑草を刈るかの如く……まるで歯が立ちません!」
それもそのはず。ミスリルの武器には破邪の力――平たく言えば『闇属性特攻』の効果がある。
闇属性の『暗黒悪夢生物』にとって、まさに相性最悪の相手だったのだ。
「ならコレはどうや! 式神隊発進!!」
今度は茜が躍り出た。
その裾から、無数のウミネコ型式神が飛び立った。白い翼を広げ、一斉にゴーレムへ向かっていく。
その術式は至ってシンプル。敵に突っ込み、爆発する。いわば魔法の誘導ミサイルである。
だが、ゴーレムたちは式神の誘導を軽々と振り切った。ある個体は盾で弾き飛ばし、またある個体は素早く旋回して、式神を壁や地面に衝突させた。
役目を果たせなかった式神が、虚しく爆発していく。
「あの巨体でなんちゅー身軽さや!!」
茜は思わず舌を巻いた。
篤志たちはあれほど楽々と倒しているというのに、自分たちが相手をすると、まるで勝手が違う。
思わぬ苦戦に仲間たちが怯みかけた、その時――
「ニンゲンが造ったゴーレムと一緒にしてもろては困りますえ!」
得意げな声を上げたのはメルリーフだった。
「エルフのゴーレムは巨人とかドラゴンとかどでかい化け物と戦うために作られたんや!! そんな連中と真正面から殴り合っては、装甲がいくらあっても足りまへん! だから機動力と運動性に重点を置いているんどす!!」
「嬉しそうに解説すんなや! 敵やぞ 敵!」
茜が思わず声を荒らげる。メルリーフは「てへっ」と舌を出して首をすくめた。
エルフ族はゴーレム技術に強い誇りを持っている。そのため、ひとたびゴーレムの話題になると、ついつい熱が入ってしまうのだ。
「ならこっちもスピード上げるよ!! MP1,000! 《アクセラレーション》!!」
パルテナが杖を掲げると、青い光がほとばしり、仲間たちを包み込んだ。
身体の内側を風が駆け巡るような感覚に、ラナンが目を輝かせる。
「おおっ! 身体が軽い!! やつらの動きが止まって見えるぜ!!」
パルテナが掛けたのは、反射神経と反応速度を加速させる魔法だった。
実際にゴーレムたちの動きが遅くなったわけではない。それでも、仲間たちの目には、あれほど俊敏だったミスリルゴーレムが、まるで亀のように鈍く見えていた。
「今度こそくらえっ!!」
ラナンが再びゴーレムに飛びかかった。
ゴーレムが反応するよりも早く、ハンマーが振り下ろされる。
今度は躱されることなく、轟音とともに白銀の頭部が粉砕された。
ミスリルの破片が、陽光を反射しながら周囲へと飛び散る。
その光景を目にした銀影騎士団の面々が、「ああっ……」と悲しそうな声を漏らした。
彼らは文化遺産の保護を主目的とするクランなので、古代エルフ王朝の遺物でもあるミスリルゴーレムを破壊することに、強い抵抗感があるらしい。
「ああ……貴重なミスリルゴーレムが……」
「せめてコアだけは残して――」
ウィリスとロンドラウトが泣きそうな顔で呟く。
「言うとる場合か!」
二人の懇願を、茜が容赦なく切り捨てた。
そんな騒がしい戦場を、少し離れた場所から眺めていたハガネが、ぽつりと呟いた。
「あれが神器 《フォローリング》の力なのね……。渡さない方が良かったんじゃない?」
ハガネは、隣にいるアルテミシアへと視線を向けた。
しかし、彼女は静かに首を横に振る。
「あれは『闇の勇者』(ユーマ)のようなMPタンクがいてこそだ。あっちのパーティに入らないなら、持っていても意味がない」
そう答えたアルテミシアは、ゴーレムを次々と粉砕していく篤志の背中へと目を向けた。
彼の周囲には、すでにゴーレムの残骸が山のように積み上がっている。戦いが始まってから、さほど時間は経っていない。だが、この調子なら、あと十分もあれば片がつきそうだった。
やはり、こちらの勇者も強い。
闇の勇者には、すでに大勢の仲間がいる。そこへ自分が加わっても、目立った活躍をすることはできないだろう。
ならばやはり、付いていくならこちらの勇者だ。
アルテミシアは、そんな結論に至っていた。
戦闘開始から数十分経過――
最後に残ったミスリルゴーレムを、篤志が飛び蹴りで砕いた。
どうっ、と音を立てて崩れ落ちる白銀の巨体。その背後で、篤志は額の汗を拭いながら周囲を見渡した。
もう動くものは見当たらない。
「ふう……。だいたい片付きましたね? 後はユーマ達の救援に――」
そう言いかけた、その時だった。
庭園の池の水面が、轟音とともに左右に裂けた。その隙間から、黒光りする巨体がせり上がってくる。
その造形はミスリルゴーレムとよく似ていた。だが、大きさは桁違いだ。全高およそ三十メートル。ミスリルゴーレムの三倍以上もある。
さらに、頭部や肩、背中からは、鋭く長いスパイクが何本も突き出していた。
見るからに強敵である。しかし、篤志は動じなかった。代わりに、心底うんざりしたような声を漏らす。
「うわぁ……なんか馬鹿デカイの出た……」
一仕事終えたと思ったら、まだ残っていたのか。面倒だな……。
そんな気持ちが、声にも表情にもありありと滲んでいた。
一方、篤志とは正反対に、銀影騎士団の面々は興奮を隠せずにいた。
「あ……あれは……伝説の『アダマンタイト・ゴーレム』やん!!」
「地上界で最も硬い鉱物で造られたゴーレム! ああっ! まだ動いてるのが現存してたとは!」
造魔属 [アダマンタイト・ゴーレム(最高品質)] 討伐Lv 255
それは、古代エルフ王朝がドワーフ軍との決戦に備えて造り上げた、最終兵器である。
超貴重なアダマンタイトと、当時最高峰のゴーレム技術を結集して造られたこの巨人は、山を穿ち、海を割り、数百匹ものドラゴンをまとめてミンチにするほどの戦闘力を誇っていた。
こんな怪物と遭遇するなど、普通なら絶望的な状況である。
普通なら。
「へぇ、レアモンスターですか。なんにせよ早く倒してしまいましょう。裕真たちが心配です」
篤志は指をぽきぽきと鳴らしながら、アダマンタイト・ゴーレムへと歩み寄った。
その足取りに迷いはなく、表情にも恐怖の色はない。
何しろ、篤志はこれの三倍以上の大きさを持つ巨獣を倒したことさえあるのだ。この程度の相手に、いちいち怯んでなどいられなかった。
ところが、その肩をウィリスが慌てて掴んだ。
「ちょっと待った!! あのゴーレムは全世界で数体しか存在しない超貴重品! 世界文化遺産ですぞ!! ましてや現役で稼働しているのは、あの一体だけ!! 破壊するなんてとんでもない!!」
ものすごい剣幕でまくしたてられ、篤志は眉をひそめた。
「はぁ!? なに言ってるんですか! そんな場合じゃないでしょ!!」
「いや、でも! 仮に値を付けるなら、10億マナ(1,000億円)は下らへんで!?」
「10億マナ!?」
思わず声を上げる篤志。
別に金に困っているわけではない。だが、その金額を聞けば、どれほど貴重な代物なのかは嫌でも理解できた。
流石に壊してしまうのはまずいかもしれない。そんな考えが頭をよぎる。
城の奥へ連れていかれた裕真たちのもとには、マクリールとイリスが向かっている。あの二人に任せておけば、大丈夫なのではないか……。
しかし、篤志はすぐに首を振り、迷いを振り払った。
「何を言うんです!! こんなところでまごついてたら、手遅れになるかもしれないのですよ! アレはぶっ壊します!!」
きっぱりと言い切られ、ウィリスは年甲斐もなく涙目になった。
「う……仕方あらへん……。せめて『コア』だけは壊さんで! ゴーレムは『コア』があれば再建可能なんや!」
必死の懇願に、さすがの篤志も気の毒になった。
仕方ない。コアだけは壊さないでおこう。
そう決めた、まさにその直後。
突如、アダマンタイト・ゴーレムの胴体が弾けた。
黒光りする巨体が大きく傾き、轟音とともに崩れ落ちる。土煙が舞い上がり、池の水面が激しく波立った。
「コアは壊さんでって言うたやないか〜!!」
ウィリスがついに泣き出した。
「ち……違う! 今のはボクの攻撃じゃない!!」
篤志は慌てて両手を振りながら、アダマンタイト・ゴーレムの残骸に目を向ける。
まだ土煙の立ち込める中から、一人の人影が現れ、篤志たちを見据えながらゆっくりと近づいてきた。
人影は足を止めると、篤志たちを値踏みするように見回し、低い声で問いかけた。
「……なんだ貴様等は? なぜこんな秘境に屯している?」
獅子の鬣のように逆立った髪。二メートルを超える長身は灰色の道着に包まれていたが、その上からでも、ギリシャ彫刻や金剛力士像を思わせる見事な筋肉が見て取れた。
顔立ちもまた、獅子を思わせるほど精悍だった。
篤志は思わず「あっ!」と声を上げた。その顔に見覚えがあったからだ。
以前、巨門星のマリクは、裕真のために、自分が知る限りの邪教団の情報を一冊の本に纏めて残していった。
その中に、彼の顔と名前が載っていたのだ。
最悪の七人の一人、『武曲星のカイヨウ』。
その人物が今、篤志たちの目の前に現れた。




