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ミリオンクエスト ~魔法使えないのに100万MP渡されて邪神倒してこいと言われました~  作者: 糠酵太
第三章 禄存星 ~茨姫と太陽の騎士~
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第97話 邪悪の軍勢

挿絵(By みてみん)


 武曲星(ぶきょくせい)のカイヨウは、篤志たちを値踏みするように見回し、ゆっくりと口を開いた。


「貴様ら、フェルダンの手先か?」


「はあ!?」


 思わず間の抜けた声が出た。

 あまりにも酷い誤解だ。不本意極まりない、


「ボクらが奴の手先!? ふざけないで下さい!」


 叫ぶように言い返すと、カイヨウの目がわずかに細まった。値踏みするだけだった視線が、獲物を狙う獣のそれへと変わる。


「では、なぜここにいる? 物見遊山で立ち入れる場所ではないはずだが」

「そう言うあなたこそ、なぜここに!?」


 篤志が問い返した瞬間、カイヨウの眼光が鋭さを増した。


「質問に質問で返すな。ぶち殺すぞ」


 ぶち殺す。

 ありふれた脅し文句だ。街のチンピラや山賊、盗賊、海賊たちから、これまで何度も浴びせられてきた。『勇者』である篤志にとって、普段なら聞き流す程度の雑音でしかない。

 だが、カイヨウの口から放たれたその一言は、脳髄の奥まで響いた。全身の毛穴が一気に開くような感覚に襲われ、背筋を冷たい汗が伝っていく。


 篤志の直感が告げていた

 この男は、本当に自分を殺せるだけの力を持っている、と。


「アツシ!」「アツシさん!」


 ハガネとレギンが声を上げた。異変を察した二人は、ほかの仲間たちとともに慌てて駆け寄ってくる。

 カイヨウはレギンの姿に目を留め、小さく「ほう」と呟いた。何かに合点がいったように腕を組み、ひとつ頷く。


「なるほど……。さしずめ、フェルダンにやられたお礼参りに来た、というところか」


 正確ではないものの、まるきり的外れでもなかった。少なくとも、レギンがここへ来た動機については、そのとおりだ。

 誰も訂正しなかった。いや、できなかった。

 『勇者』の篤志も、Sランクハンターのレギンも、アトラス王家最強のジールでさえも、眼前の男が放つ“暴”の気配に呑まれていたのだ。

 空気が重く、熱を帯びている。息を吸うだけで、胸の奥が圧迫されるようだった。


 だが、次にカイヨウが口にした言葉は、誰もが耳を疑うものだった。


「フェルダンは俺が殺す。貴様らはとっとと帰れ」


 予想外の発言に、皆は困惑し、お互いの顔を見合わせた。

 仲間割れ?

 それとも、この男が邪教団の一員だという情報が間違っていたのだろうか?


 仲間たちの戸惑いを背に、カイヨウは城へ向かって歩き出そうとした。


「待ちなさい!」


 篤志は、その背を呼び止めた。


「武曲星のカイヨウ! あなたを見逃したりしませんよ!」


 邪教徒であることを抜きにしても、この男は数多くの武闘家を殺害してきた凶悪犯である。敵意を向けてこないからといって、見過ごすわけにはいかない。


「何故、武曲星を知っている? 『魔法皇帝』の関係者か?」


 カイヨウはゆっくりと振り返り、篤志を真正面から見据えた。その視線が、鋭い刃のように突き刺さる。

 圧が凄まじい。

 篤志はエルダードラゴンと戦った経験もある。しかしカイヨウの威圧感は、そのとき以上だ。

 気づけば、無意識のうちに一歩後ずさっていた。


「……まぁ良い。いずれにせよ殺せば済む話だ」


 決断が速すぎる。

 この男の脳内には、敵を捕らえて尋問したり、懐柔して情報を引き出すといった選択肢が存在しないらしい。

 事前に得た情報どおり、まさに“暴”の化身だった。


「人間はあまり殴りたくないのですが……邪神の手先なら容赦しません!!」


 先手必勝とばかりに、篤志は大地を蹴った。

 足元の地面が爆ぜ、クレーターが刻まれる。風を切り、ロケットのような加速でカイヨウへと迫った。

 狙うは顔面。超高速で放たれる拳は、たとえ直撃を避けたとしても、衝撃波だけで致命傷を負いかねない。


 だが、その一撃はカイヨウが差し出した掌によって、あっさりと軌道を逸らされた。


 拳が空を切る。勢いを殺しきれなかった篤志の体は横へ流れ、そのまま地面に叩きつけられた。もうもうと土煙が巻き上がる。


「ほう……大した威力だ。当たれば俺でも無事で済まないだろう。当たれば、な」


 土煙の向こうから、ぱちぱちと手を叩く音が聞こえてきた。

 篤志はすぐさま立ち上がり、間髪入れずに再び拳を叩き込む。しかし、それもまた軽々と受け流されてしまう。


 すれ違いざま、カイヨウの拳が篤志の顎をかすめた。

 それだけで、脳が揺さぶられたような衝撃が走る。視界が白く閃き、足元がぐらついた。

 倒れそうになる体をどうにか踏みとどまらせたものの、体勢を立て直す間もなく、無防備な隙へ容赦ない連撃が叩き込まれた。

 一撃一撃が重く、しかも的確だった。急所を狙い、こちらの動きを先読みするかのように打ち込んでくる。

 チート持ちの篤志でなければ、確実に命を落としていただろう。

 たまらず、篤志の体が後方へ吹き飛ばされた。


「貴様の拳には技巧が足らん。力任せに手足を振り回すだけの単調で稚拙な攻撃……。目を閉じても避けられる」

「こ……こいつ!」


 カイヨウの痛烈な指摘が、頭の中で繰り返された。

 篤志は歯を食いしばり、よろめきながらも体を起こす。

 耳に痛い指摘だった。確かに、まともに武術を学んだことはない。圧倒的な身体能力に任せて手足を振るえば、大抵の敵は倒せてきたからだ。

 だが目の前の男には、それが通用しない。自分も武術を学んでおけばよかったという後悔が胸を締め付ける。


 追撃を加えようと、カイヨウがゆっくりと歩み寄る。

 しかし、その時だった。


「加勢するわ! 炎の勇者!!」


 レギンの声が響くと同時に、カイヨウへ向かって業火が放たれた。

 ミスリルゴーレムを溶かすほどの炎が、周囲の空気を焼きながら迫る。


 だがカイヨウは片手を軽く振るっただけで、その炎をかき消した。余波で生じた熱気が地面を舐め、黒々と焦がしていく。


 レギンだけではない。ジールにハガネ、そしてミリオンハンターズの面々も、次々とカイヨウの前に立ちはだかった。


「一対多は卑怯だ! なんて言わないわよね? 邪教徒さん!」


 ハガネが代表して言い放つ。

 相手が真っ当な武闘家ならともかく、世界を滅ぼそうとする邪神から力を授かった邪教徒だ。情けも容赦もいらない。

 しかし、カイヨウは余裕の態度を崩さなかった。


「もちろんさ、好きにしろ。ルール無用のデスマッチの方が“俺たち”は得意だからな」


 ……俺たち?

 複数形なのに、嫌な予感がした。


 そして、その予感はすぐに的中した。

 突如、ジールの巨体が無数の爆発に包まれたのだ。

 轟音が連続して響き渡る。青白い鎧が砕け、破片が木の葉のように宙を舞う。

 ジールはたまらず、地響きを立てて倒れ込んだ。大地が大きく揺れ、周囲に土煙が広がる。


 篤志以外の仲間たちには、ジールが強力な攻撃魔法を浴びたようにしか見えなかっただろう。

 だが、超人的な視力を持つ篤志だけは、何が起きたのかをはっきりと捉えていた。

 ジールを襲ったのは、数十発の細長い飛翔体……地球の『ミサイル兵器』に酷似したものだった。

 この世界の過去には、機械文明が栄えていた時代があったらしい。あ

れは、その時代の遺物なのだろうか?

 篤志がそう考えた矢先、頭上から聞き覚えのある音が響いてきた。


 プロペラの回転音。


 見上げた先に現れたのは、武骨な造形の飛行機械。

 その姿を見た瞬間、篤志は思わず叫んだ。


「あれはアメリカの攻撃ヘリ、『アパッチ』!? 似てるなんてもんじゃない! そっくりそのままだ!! なんでこの世界に!?」


 しかも、一機や二機ではない。

 数十機ものアパッチが編隊を組み、空を埋め尽くすように飛んでいた。


 この世界に存在するはずのない、地球の兵器。

 魔物や強敵と対峙したときとはまるで違う、得体の知れない恐怖と不安が篤志の胸に広がっていった。



 ◇ ◇ ◇



 スリーピングキャッスルのはるか上空を、一機の飛行物体が悠然と飛んでいた。


 その正体は『ボーイング B-29 スーパーフォートレス』。

 地球のアメリカ合衆国で運用されていた、戦略爆撃機である。

 プロペラの轟音は、はるか下の地上には届かない。機体は城を見下ろすように、上空を大きく旋回していた。


 なぜ、こんなものが『カンヴァス』に存在しているのか。その疑問に答える者は、どこにもいない。

 ただ一人、機内の指揮区画で文曲星(ぶんきょくせい)のメグリが微笑むだけだった。


「ここがスリーピングキャッスルね……。性根の腐ったエルフ共が、伝説だの文化遺産だのと崇める城! 壊し甲斐があるわ♪」


 愛らしい顔立ちに、爬虫類を思わせる笑みが浮かんだ。薄い唇が弧を描き、緋色と緑色、左右で色の異なる瞳が愉快そうに細められる。


 メグリは通信機を手に取り、配下の『ガンランナー』たちへ高らかに命令を飛ばした。


「全部族(ギャング)に通達!! 戦闘態勢に入れ!! 『ウィングス』! 羽虫一匹逃がすな! 城を包囲しろ!! 『ホイールズ』! 城壁を打ち崩せ! 『リーパーズ』! 城内に潜入し、フェルダンの首を取れ!!」


 命令を終えた直後、ホイールズの族長(ボス)であるレミィから通信が入った。


「総族長(ビッグボス)! 偵察隊から連絡!! 城の周囲にハンターらしき集団が確認されました! 城を守るゴーレムを殲滅したようです。フェルダンと敵対していると思われますが……いかがなさいます?」


 報告を聞き、メグリは片眉をわずかに吊り上げた。


「……そいつらはガンランナー?」


「違うかと……。誰も『銃』を持ってませんし」


 通信機の向こうで、レミィの声がわずかに沈んだ。

 メグリが次に何を命じるのか、察しているようだった。


「なら、殺しなさい。ガンランナー以外は殲滅よ」


 通信機の向こうで短い沈黙があった。

 やがて、レミィは抑えた声で応じた。


「……了解しました」


 その返答には、わずかなためらいが滲んでいた。

 どうやら不満があるらしい。メグリはそう察した。

 どうせ私を野蛮人とでも思っているのだろう。


 だが、気にすることはなかった。

 メグリは、同族に対してのみ寛容だった。



 ◇ ◇ ◇



 スリーピングキャッスルを一望できる、少し離れた丘の上。

 青黒い髪を風になびかせた貴公子、廉貞星のアルフォートは、眼下にそびえる城を見下ろしながら、高らかに声を上げた。


「『エクスカリバー』! 『グングニル』!! 『アイギス』!!」


「はっ!」「はいっ!」「ははっ!」


 背後に控えていた三人の少女が、次々と返事をする。

 アルフォートが呼んだのは、彼女たちの名前だった。

 三人とも、身体のラインに沿った美しい鎧を身に着けている。いずれも見事な造りだが、色も意匠も、それをまとう少女たちの雰囲気も異なっていた。


 青い鎧をまとった少女、『エクスカリバー』。

 光をはらむ金髪を高い位置で束ねている。切れ長の青い瞳と、すっと通った鼻筋が印象的で、凛々しい顔立ちには隙がない。若いながらも歴戦の騎士のような風格を漂わせていた。


 金色の鎧をまとった少女、『グングニル』。

 ややくせっ毛気味の赤みを帯びたブラウンの髪に、大きな琥珀色の瞳。頬には健康的な血色があり、口元には大型犬を思わせる人懐こい笑みが浮かんでいた。


 白い鎧をまとった少女、『アイギス』。

 艶やかな銀髪は顎のあたりで切りそろえられ、前髪の隙間から淡い灰色の瞳が覗いている。整った顔立ちは涼しげで、表情の変化も乏しい。人形のように美しいその佇まいには、どこか近寄りがたい冷たさがあった。


 一見すれば、三人とも美しい少女にしか見えない。


 しかし、その身から漂う雰囲気は尋常ではなかった。

 鍛え上げられた武人とも違う、何か人ならざるものを思わせる気配がある。


 そもそも、普通の少女がこんな場所まで来られるはずがない。

 スリーピングキャッスルはSランクダンジョン。その周辺には強力な魔物が闊歩しており、熟練のハンターでさえ命を落としかねない超危険地帯なのだ。


 三人はそんな場所で恐れる様子もなく、片膝をついてアルフォートの命令を待っていた。


 やがて、アルフォートは少し間を置いてから城を指さし、威厳たっぷりに言い放つ。


「お前たちは、城の財宝を奪……保護しろ!」


「……は?」


 三人の声が重なった。

 エクスカリバーは眉をひそめ、グングニルは目を丸くし、アイギスは表情こそ変えなかったものの、わずかに首を傾げている。


「……フェルダンの始末ではないのですか?」


 エクスカリバーが、遠慮がちに問い返した。


「そんなものより文化財の方が大事だ!! キ〇ガイの首など、キ〇ガイ共にくれてやれ!!」


 どうやら彼女たちの主君は、邪神の命令に素直に従うつもりなどないらしい。

 フェルダンの始末よりも、自分の利益を優先する。それがアルフォートの方針のようだった。


 三人は互いに顔を見合わせた。

 そして、呆れを隠そうともせず、揃って「アッハイ」と乾いた返事をした。



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