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ミリオンクエスト ~魔法使えないのに100万MP渡されて邪神倒してこいと言われました~  作者: 糠酵太
第三章 禄存星 ~茨姫と太陽の騎士~
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第87話 『眠りのイバラ』を攻略せよ


 アトラス連邦を統べる大王陛下より招集命令が下ったため、裕真と篤志、それにマクリールはんの計三名は王宮へと向かった。


 アルデバランの街に聳えるアトラス王家の王宮は、裕真がこれまで目にしたどの建築物とも異なる、奇怪な外観をしていた。

 緩やかな曲線を描く白い小山のような本体の上部両脇から、尖った先端を持つ捻じれた塔が二本、天を突くように伸びている。

 その姿は、まるで牛の頭蓋骨のようだと裕真は感じたが、それは半分正解だった。

 この宮殿の名は『巨骸宮(きょがいきゅう)』。

 はるか神代に存在した超巨大魔獣『ベヒモス』の頭蓋骨を、そのまま王宮として利用した建造物なのだという。

 そのあまりの巨大さは、街のどこからでも仰ぎ見ることができるほどである。


 王宮の内部は、外観の奇抜さとは打って変わって、整然と美しく整えられていた。

 ドーム状の天井には、金と青のモザイクタイルで星々が描かれ、壁面は精緻に彫り込まれたアラベスク模様で覆われている。

 磨き上げられた大理石の床には、ところどころに色鮮やかな絨毯が敷かれ、その柔らかな足ざわりが裕真の気分を浮き立たせた。

 ホールの中央では小さな噴水が絶え間なく水音を奏で、空気には香木のほのかな香りが漂っている。豪華絢爛でありながらも、どこか心を落ち着かせる空間だった。



 長い回廊を進み、幾重もの扉を抜けると、裕真たちは待たされることもなく謁見の間へ案内された。

 大王陛下も多忙な身であるはずなのに、この対応は今回の事件がいかに重大であるかを示していた。

 謁見の間に足を踏み入れて、まず目に入ったのは、正面の壁一面に刻まれた巨大な彫像だった。

 逞しい髭を蓄え、逆三角形の胸板を持つ筋骨隆々の大男が、足元に魔獣を踏みつけている。伝説の大巨人『アトラス』の勇姿を表したものらしい。


 そして、その真下に玉座と、そこへ腰掛ける少年の姿があった。

 褐色の肌に柔らかな金髪、歳の頃は裕真より少し下、日本で言えば中学生ほどだろうか?

 大王という仰々しい称号とは裏腹に、温和な顔立ちで威圧感は感じない。だが所作のひとつひとつから、生まれながらの高貴な気品と風格が自然とにじみ出ていた。

 この国の国旗にも描かれる太陽をモチーフとした黄金の冠を戴くその少年こそ、アトラス連邦の大王、アグリオス十八世陛下であった。


 その姿を見た篤志は、内心で驚いた。

 篤志は昨日、大王が巨人化した姿を見ている。体長百メートルの青白く輝く甲冑の中身がこんな少年だとは思いもよらなかったのだ。


 そして玉座の傍らには、亜麻色の髪を腰まで伸ばした少女が佇んでいた。

 彼女は王妃ペーネ。大王と同じ褐色の肌に、深碧の瞳。華奢な体躯を包むのは、金糸で刺繍を施したシルクのドレス。細い腰に黄金の帯を締め、耳元には小さな太陽を象ったイヤリングが揺れている。

 年は裕真と同じか、少し上ぐらいだろうか。その若さにもかかわらず、落ち着いた佇まいは王妃にふさわしい品格を感じさせた。


 謁見の間には、従者も護衛の兵も控えていない。

 それはおそらく、マクリールはんへの絶大な信頼と、これから語られる話を第三者に聞かせたくないという意図からだろう。

 裕真たちは片膝をつき、深く礼をした。


 すると大王が「くるしゅうない」と穏やかに声をかけ、一同は顔を上げる。皆を代表し、裕真が事情を説明し始めた。

 自分と篤志が『勇者』であること。

 フェルダンという邪教徒に狙われていること。

 そのフェルダンが時を止めるイバラと、他人と“同期”する異能を持つこと。

 そして『微睡みのナルコストロ』という魔法兵器を発動させるために、人の頭部を集めていること。


 ただ、かなめとハガネのこと、そして裕真自身が首だけの状態から蘇った経緯などは伏せた。そこまで話せば、かえって話が複雑になるからだ。

 ダメ押しとして、裕真は『冥王通信』を開き、冥王様に自らの身分を保証してもらった。



 全てを聞き終えた大王は、物憂げに息を吐いた。

 やがて、静かに口を開く。


大王「つまり、全てフェルダンという邪教徒の仕業だと――にわかには信じがたいけど、冥王様まで持ち出されたのでは納得するしかないね……」


 そう呟くと、大王は指で眉間を押さえ、しばし沈黙した。

 その仕草ひとつさえどこか気品を湛えていて、さすがは大王だなぁと裕真は場違いな感想を抱いた。

 沈黙を破るように、王妃が穏やかに口を開く。


王妃「でも、被害に遭った市民が生きているというのは良い話だね」


 後に聞いた話では、連れ去られた市民は五万人にも及んだという。途方もない被害である。

 だが、まだ生きていて連れ戻せるかもしれないという希望に、王妃は微笑みを浮かべた。


王妃「問題はどこに連れ去られたかだけど……何か心当たりある?」


 王妃の問いに、裕真は少し困った顔をした。ナルコストロの場所までは、聞かされていなかったのだ。

 口籠る裕真に代わって、マクリールはんが静かに答えた。


マクリール「それどすけどな、奴らが使用したと思われる転移門(ポータル)を発見しました」


 裕真と篤志がハッと目を見開き、顔を見合わせた。

 あの大量の怪人たちがどこから現れ、更に五万人の首をどうやって街の外に運んだのか――その謎が、ようやく解けた。


マクリール「転移門自体は既に破壊されとりましたが、残留魔力から『ドリーミングキャッスル』と繋がっていたことが判明しました」


 裕真と篤志は思わず「おお」と声を漏らした。そこまで特定できるとは、さすがはSランクハンターである。

 一方、大王はまたも悩ましげに呻いた。


大王「ドリーミングキャッスル……。よりにもよってあそこかぁ」


 大王が苦悩する理由はよく分かった。

 そこは“この世の地獄”と称されるSランクダンジョン。軍隊を派遣しても攻略は難しい。

 ましてやその城には、時間を吸収する無敵の植物『眠りのイバラ』が繁茂している。

 例え百万の軍勢を差し向けても、イバラに時を止められ、養分にされてしまうのがオチだろう。


大王「あんな危険な場所、どうやって調べたものか……」

マクリール「そうどうなぁ。『眠りのイバラ』に守られとるさかい、近づくのもままなりまへんし」


 大王は玉座の肘掛けを指で何度も叩き、視線を虚空に泳がせる。

 マクリールはんは腕を組んで軽く首を傾け、長い耳を小さく揺らしながら考え込んだ。

 二人とも、言葉少なに悩みの色を濃くしている。そんな中、裕真がおずおずと声を上げた。


裕真「あの〜、俺ら、《ダイヤの腕輪》を三つほど持っているんですが……」


 三人分あれば十分ではないか、と裕真は考えていた。

 自分と篤志、そしてこの場にいないかなめを加えた『勇者』三人が揃えば、Sランクダンジョンでも攻略できそうな気がしたのだ。

 しかし、マクリールはんはゆっくりと首を横に振った。


マクリール「それでは全然足りまへん。実はわてもスリーピングキャッスルに挑んだことがありました。あそこの攻略はエルフ族の悲願どすからな」


 えっ、と裕真は驚く。

 そういえば、マクリールはんが《ダイヤの時計》を買い占めて回っている、という話を思い出した。それはスリーピングキャッスル攻略のためだったのか。


マクリール「しかし、イバラの攻撃が想像以上に激しく、撤退しました」


 裕真はまた驚いた。どうやらあのイバラは、フェルダンが操作しなくても人を襲うのだと知り、ドン引きする。


マクリール「三つ程度では、時計の耐久力がとても持ちまへん」


 そうかー、と裕真は悩む。

 そう、魔道具は永久に使えるものではなく、耐久力というものがある。時耐性がある《ダイヤの時計》も、限界を超える時攻撃を受ければ壊れてしまう。


王妃「う〜ん……時耐性か……」


 王妃が唇に指を当て、じっと考え込んだ。

 脳裏に王家が所蔵している時耐性の魔道具を思い浮かべる。

 《秩序の石板》、《ウロボロスの腕輪》、《ウサギの懐中時計》、《おじいさんの古時計》、そして《ダイヤの時計》が二、三個……。


王妃「うちの宝物庫を漁っても、10個あるか無いかだね」


 その言葉に、一同は「うーん」と低く唸った。

 アトラス連邦の盟主であるアトラス王家でも、その程度の数しか揃えられないのだ。スリーピングキャッスル攻略がいかに困難か、改めて痛感する。

 数千年ものあいだ、誰一人として攻略できなかった理由が、よく分かった。


 そのとき、裕真の胸元から電子音が響いた。スマホの呼び出し音だ。

 裕真が大王の方を見やると、大王は小さく頷いて許可を与えた。

 裕真がスマホを取り出すと、画面内のアコルルが嬉々とした声で告げた。


アコルル「陛下、時耐性防具ですが、なんとかなるかもしれません!」

裕真「……え? マジで!?」

アコルル「はい、それは――」


 アコルルはその方法について、詳しく語り始めた。

 その内容に、一同から「おお……」と驚きと困惑の入り混じった声が漏れた。



 ◇ ◇ ◇



 一旦ミリオン号に戻った裕真は、船内の錬金工房へ足を運ぶ。

 扉を開けると、すでにニーアが作業台の前で何やら器具を並べているところだった。

 そこへアコルルが、これまでの経緯を簡潔に説明した。


 ニーア「……ええ!? 『眠りのイバラ』から時耐性防具を作れるんですか!?」

アコルル「はい、理論上は可能なはずです」


 大きな目を更に見開くニーアに、アコルルは落ち着いた声で答えた。


裕真「どうかな? できそう?」


 そう言いながら、裕真は《どうぐぶくろ》からイバラの塊を取り出し、テーブルへどさりと置いた。

 先日、フェルダンの一団が使っていたものだ。イバラはまだ瑞々しさを残していたが、触れた者の時間を止めるほどの力は、すでに失われていた。

 ニーアは眉根を寄せ、腕を組んで悩ましげにそのイバラを見つめた。


ニーア「確かに、時属性防具を作るには最適な素材かもしれません……。ただ、実際に可能かどうかは――」

アコルル「心配いりません。このイバラについては魔法帝国でも研究を進めていました。その時のデータと貴方の腕があれば、きっと作れますよ!」


 励ますようなアコルルの声に、ニーアの目にふっと火が灯った。

 小さく拳を握りしめ、気合を込めて宣言する。


ニーア「なるほど……分かりました! 必ずや時属性防具を作ってみせます!」


 そう言って、ニーアはふんっ、と胸を張る。その小さな仕草が、妙に愛らしかった。


裕真「おお、ありがとう! ただ、無理はしなくていいよ。ニーアが無理なら、大王様が他に腕利きの錬金術師を手配してくれるって言ってたし」

ニーア「……は?」


 その一言が、空気を一変させた。ニーアの眉が、くいっと吊り上がる。


裕真「え? いや、だから、ニーアより腕利きの錬金術師を用意してもらえるって話で――」

ニーア「はあああっ!?」


 ニーアの眉が更に吊り上がり、今まで見せたことが無い、露骨に不機嫌そうな表情になった。


ニーア「私の腕を信用して下さらないので!?」

裕真「え? いやいや、そういう意味じゃなくって、無理しないでねってことで――」

ニーア「心配いりません!! 大丈夫です!! 私にお任せください!!」


 今までにない剣幕で畳みかけられ、裕真はしどろもどろになるしかなかった。

 裕真としては、大王の話をそのまま伝えただけなのに。


 その一方でスマホの中では、アコルルが小さく肩をすくめ、「やれやれ」といった仕草を浮かべていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 【 おまけ アトラス王家秘蔵の時耐性装備 】



《秩序の石板》 品質:伝説級(レジェンダリー)

 あらゆる魔法を無効化。 ただし良い効果も無効にしてしまう。


《ウロボロスの腕輪》 品質:伝説級(レジェンダリー)

 時属性攻撃無効。それに加え時間を戻す力があるが、必要魔力が膨大過ぎて誰にも使えない。


《ウサギの懐中時計》 品質:至宝級(エピック)

 時・転移攻撃耐性。テレポートの魔法効果もあり。パーティいかなあかんねん。


《おじいさんの古時計》  品質:至宝級(エピック)

 時属性攻撃無効。 おじいさんはもう……




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