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ミリオンクエスト ~魔法使えないのに100万MP渡されて邪神倒してこいと言われました~  作者: 糠酵太
第三章 禄存星 ~茨姫と太陽の騎士~
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第73話 実戦テスト(後編)


 無事、エリュマントスを倒した一行は、次のターゲットのナワバリへと向かった。


 そこはこれまでの灰色の景色とは違い、緑に侵食されたエリアだった。

 廃墟と廃墟の間に巨木が生い茂り、壁には蔦が絡みつき、舗装の割れ目からは草や木の根が押し出すように伸びている。

 かつての人工物が長い時間をかけて自然に呑み込まれていく様子が、あたり一帯に広がっていた。


 その中で、先頭を進んでいたイリスが足を止め、また裕真に双眼鏡を手渡した。

 裕真はそれを受け取り、彼女の指さす方角を覗き込む。


 そこにいたのは、黄金色の毛皮を纏ったライオンらしき獣だった。

 ……“らしき”なのは、その獣が二足で直立し、人のように歩いているからだ。

 体型もどこかずんぐりして、手足も太い。裕真が知る地球のライオンは、もっとシュッとした体つきをしていた。


「……え? なにあれ?」


 思わず漏れた声に、イリスは一枚の手配書を差し出してくる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 神獣属【ゴールドライオン】

 討伐レベル64 賞金50万マナ


 獅子の大精霊『ネメア』の眷属。


 その毛皮には、あらゆる物理攻撃を無効化する魔力が宿っている。

 炎や電撃などの魔法攻撃なら倒せるが、せっかくの毛皮が傷ついてしまう。

 無傷の毛皮は最高の防具素材になるので、手に入れたいなら知恵を絞ろう。

 なお、人間並の知能を持っており、人語を解するので注意。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 以上が指名手配書に書かれた説明である。

 それを読み終えても、裕真の疑問は晴れなかった。二足歩行については一切触れられておらず、この世界のライオンが皆ああなのか、それともあれだけが特別なのか見当がつかない。


 そんな裕真の戸惑いをよそに、イリスは眉をひそめて考え込む。


「物理は効かない。かといって攻撃魔法だと、毛皮が台無しになるわけか……」

「毛皮は別にいいんじゃない? 討伐条件に含まれてないんだし」


 軽い気持ちで言った一言に、仲間たちがクワッと目を見開く。


「ダメよ! そんなもったいないこと!」

「傷つけずに持ち帰れば、100万マナ(約1億円)で売れるんですよ!」

「こんなお宝、見過ごせるか!」


 口々にまくし立てられ、裕真はしどろもどろになる。


「わ……分かったって。……それにしても、どうやって攻めるつもり?」

「ふひひ……」


 その問いに、アニーが不気味な笑みを浮かべた。

 それは彼女と初めて会った時、スリをキノコの苗床に変えたあの時と同じ顔だった。


「ならば『毒』で倒せば良いのです! 『毒』といえば『キノコ』、『キノコ』といえば私!!」

「そ……そうなん?」


 アニーのテンションに裕真は気圧される。

 よく見ると彼女の帽子が以前と違う。赤地に白い斑点のベニテングダケではなく、黄色と紫の斑模様という更に毒々しい色合いに変わっていた。

 この訓練の前に新調した戦闘服らしい。


 アニーは意気揚々とゴールドライオンの前に躍り出た。


「魔獣よ! キノコに抱かれて死ぬがよい!! 《猛毒茸大旋風シャンピニオン・ストリーム!!」


 そう叫ぶと同時に、マントをがばっと広げる。

 すると内側から無数のキノコが飛び出した。

 赤、青、白、黒、黄色、紫――

 色とりどりのキノコが、ミサイルのような勢いで放たれ、ライオンへと降り注いだ。

 着弾したキノコは弾け、極彩色の胞子を周囲に撒き散らす。その数は何十発にも及び、あたり一帯は瞬く間に毒の霧に包まれた。


「おお、やったか!?」


 裕真は思わず声を上げる。

 あの胞子はレッサードラゴンでも一息で死に至らしめる猛毒だ。それより強い魔物とはいえ、あの量を浴びて無事でいられるとは思えない。


 だが次の瞬間、その予想は裏切られた。


 胞子の渦の中から金色の影が飛び出し、一直線にアニーへと迫る。


「ほげぇっ!?」


 ゴールドライオンはアニーの顔面に肉球パンチを叩き込んだ。

 ……爪や牙でなく。

 そんなツッコミをする間もなく、ジャブ、ジャブ、ストレート、フック、ストレートと、リズミカルに高速連撃を叩き込む。

 そしてトドメのアッパーカット。

 アニーの身体は錐揉み回転しながら宙を舞った。 


「アニー!」


 さすがに見過ごせず、裕真は飛び出した。追撃に移ろうとするライオンに真正面から組みつき、そのまま力で押さえ込む。


 その間にイリスが駆け寄り、アニーの様子を確認する。

 《ガードバングル》のおかげで外傷こそないが、衝撃で腰が抜けてしまい、すぐには立てない状態だった。


「な……なんで私のキノコが? 何も間違えていないはずなのに!」


 アニーの疑問に誰も答えられなかった。

 ゴールドライオンに毒耐性は無いはずだった。少なくとも記録上はそうなっている。


 その時、ライオンの様子を見ていたルナが、ふと何かに気付いたように目を細める。

 すると即座に鎧の留め金を外し、インナーだけの身軽な姿になると、ヒュンッと姿を消した。


 魔道具《ハヤブサの腕輪》を使用した超加速だ。 


 目にも止まらぬ速度でライオンの背後に回り込むと、その鬣にそっと手を伸ばす。そしてすぐに離脱し、再びアニーの元へと戻ってきた。


「アニーちゃん! もう一度、さっきの攻撃を!!」

「えッ……でも効かない――」

「いいから!!」


 なおも寝転ぶアニーを強引に立ち上がらせる。


「ええいっ! 仕方ないですね! 《猛毒茸大旋風シャンピニオン・ストリーム!!」


 半ばヤケになりながら再び魔法を放つ。

 再び放たれたキノコの群れがライオンへと襲いかかった。

 組み合っている裕真にも被弾するが、彼は防毒装備に護られているので問題はない。


 すると、先程とは明らかに違う結果が出た。

 ライオンの動きが鈍り、やがて血の泡を吹いてその場に崩れ落ちた。

 完全に動かなくなったことを確認し、アニーが恐る恐る脈を取る。


 絶命している。


 ゴールドライオン、討伐完了。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 RESULT


獲得賞金 50万マナ (約5,000万円)


                  

【 獲得素材 】


『ゴールドライオンの魔石』

 10万マナ相当の価値がある。


『ゴールドライオンの皮(傷無し)』

ツヤツヤでモッフモフ。《物理攻撃無効》の魔力あり。


『ゴールドライオンの爪』

非常に硬く、鋭い。武器、工具の素材に。《防御貫通》の魔力あり。


『ゴールドライオンの牙』

武器や工具の他に装飾品の素材にも。《筋力上昇》の魔力あり。


 ※その他の肉と臓器は、キノコ毒で汚染されたので廃棄。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……え? え? なんで二回目は効いたんです?」


 アニーが目を白黒させながら問いかける。


「原因はこれだよ」


 ルナはゆっくりと右手を開いて見せた。その掌に乗っているのは、一つの指輪。


「《バイパーリング》。毒攻撃を無効化する魔道具。タテガミの中に隠し持っていた」


 その言葉に、一同がざわつく。


「ま……魔獣が魔道具を装備!?」

「そういや、手配書には『知能が人間並み』って書いてあるわな……」

「それにしても、装備を身に着ける知恵まで持ってたなんて……」


 誰もが戦慄していた。

 それなりに経験を積み、魔物のことは分かっているつもりでいた。だが、その認識がまだ甘かったことを思い知らされた。


 この世界には、まだ知らない脅威がある。

 その事実が、じわりと背筋を冷たくさせるのだった。



 ◇ ◇ ◇



 次のターゲットが潜むのは、古代ドワーフの遺跡から離れた丘陵地帯だった。


 そこには大きな風車小屋が一棟、ぽつんと佇むだけで、他には生き物の気配を感じない。


 それもそのはず。

 この一帯に近づくあらゆる生物は、ことごとく“風車小屋”に吹き飛ばされてしまうのだから。


 裕真たちが丘を登り、百メートルほどまで近づくと、ガチン、ガチン……と重い歯車が噛み合う音が響いた。

 風車小屋の壁から、太い木製の腕と脚がニョキリと伸びる。

 まるで眠っていた巨人が目を覚ますように、ゆっくりと立ち上がった。

 全長およそ30メートル。古びた木造の巨体が、陽光を背に裕真たちに黒い影を落とす。


 これが今回のターゲットだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 造魔属 【 ドン・キホーテ 】

 討伐レベル85 賞金200万マナ


 元は古代エルフ文明の風車型ゴーレム。


 だが長い年月を経るうちに自我を持ち、なぜか自分を「騎士」だと思い込むようになった。

 強者を見れば決闘を申し込み、そうでない者は邪魔者として吹き飛ばす。

 戦闘では、風車からハリケーンのような暴風を吹き出して攻撃してくる。

 また、巨体の質量を生かした物理攻撃も非常に危険。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『やあやあ! 我は太陽の騎士、ドン・キホーテ! 天地を切り裂く光の刃にて、すべての闇を打ち払う者なり! 勇者よ、汝もまた我と剣を交える資格ありや!?』


 無機質な合成音声が、堂々とした名乗り口上をあげる。

 風車がゆっくりと回転を始めた。


『さあ、来い! 真の強者ならば、此処で決着をつけようぞ!』


 回転速度が一気に上がる。羽根があまりの速さにぼやけ、消えたように見えた。

 次の瞬間、もの凄い突風が裕真たちを襲った。


「ひええっ! なんて風だ!」


 裕真は咄嗟に両腕で顔を覆った。体が後ろに押し流され、足が地面を滑る。


「これ以上近づいたら吹っ飛ばされる!!」


 チートMPと魔道具で強化された筋力でも、遮るものも掴まるものも無いここでは、風圧に耐えられない。

 更に、突風で巻き上げられる埃や土砂のおかげで視界が塞がれ、呼吸さえ厳しい。

 

「ああーっ!」


 ついに風圧に耐えきれない者が出た。モモが枯葉のように吹き飛ばされる。

 裕真は助けに行こうとしたが、イリスがその肩を掴んで止める。

 「任せて」と視線で合図し、モモの姿を追った。


「《ストーン・ウォール!!》」


 ラナンがそう叫びながらハンマーを地面に叩きつける。

 すると地面から分厚い石壁がせり上がった。

 風を遮る盾ができ、ようやく一行は一息つけた。


「よっしゃ! これで耐えられる!! こうやって壁を造りながら近づこう!!」

「おおっ! 頭良い!!」


 感嘆の声を上げる裕真。

 しかし喜ぶ間もなく、敵に異変が起きた。


 ドン・キホーテは大きく跳躍し、風車を真下に向けると、強烈な下降気流を噴射した。30メートルの巨体がぶわりと浮き上がる。


「飛んでる!?」

「あの風車で空も飛べるのかよ!?」


 裕真とラナンがぽかんと見上げながら叫ぶ。

 ドン・キホーテは悠然と舞いながら、石壁に覆われていない上空から突風を放つ。

 風圧がミキサーのように地面を巻き上げ、二人をまとめて吹き飛ばした。


「あんな上空から攻撃されたら反撃できない!! 一旦引きますか!?」


 少し離れた場所で様子を見ていたアニーが声を上げる。

 しかし隣の茜は、動揺した様子を見せず、にやりと笑った。


「空の敵はウチに任せーな!! 悪いけど、ちっとの間奴の注意を引いてや!!」


 彼女は親指をビッと立て、自信満々にウィンクした。


「おっ おう! やってみる!!」


 戻ってきたラナンが息を切らしながら答える。

 はーっと深呼吸した後、アニーと一緒にドン・キホーテの前に躍り出た。


「おらぁ!降りてこい!! びびってんのか!?」

「騎士が聞いて呆れますね!」


 煽りに答えるように、ドン・キホーテの風車が激しく回転した。

 怒りに満ちた暴風が、ラナンとアニーに向かって集中する。


 「うわっ!」「きゃあっ!」という悲鳴と共に、二人は宙を舞った。


「今や! 式神隊、発進!!」


 彼女の長い裾から、無数の白い影が飛び出した。

 ウミネコの姿をした式神たちが、矢のようにドン・キホーテへと殺到する。

 次々と体当たりを浴びせ、ドカン、ドカンと炸裂した。


「はははっ! 背中がお留守になってるで! さては空中戦に慣れてないな!」


 茜が言う通り、ドン・キホーテは飛ぶために風車を下に向けたせいで、式神を迎撃できない。

 風車の向きを変えれば墜落するからだ。


 やがて攻撃に耐えきれず、バランスを大きく崩す。

 

 ズドォォン!という轟音と派手な土煙を上げて、30メートルの巨人が地面に叩きつけられた。



「落ちたっ!!」

「やったぁ! 勝ったで!!」


 一同が勝利の歓声を上げる。



 その一方でドン・キホーテは、今際の際に思い出した。


 自分は騎士ではない……。ただの風車だった…… と。



 ドン・キホーテ、撃破。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 RESULT


獲得賞金 200万マナ



【獲得素材 】


『ゴーレム・コア(高品質)』

 ゴーレムの中枢部品。動力とCPUを一緒にしたような物。


『風車の残骸』

 何千年も風を受け止めてきた残骸。《風属性吸収》の魔力あり。


『風車の軸』

 何千年も風車を支えていた軸。《風属性強化》の魔力あり。


『ダークエボニーの木材(大量)』

 伝説の木材。鋼より硬く、軽量で柔軟性もある。


『書籍・茨姫と太陽の騎士』 

 世界的ベストセラー小説。初版なのでプレミア価格。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ドン・キホーテの残骸から発見された一冊の本、『茨姫と太陽の騎士』。

 それを手に取ったアニーが眉を顰めた。


「こいつの暴走の原因って、もしかしてこれじゃあないですかね?」

「なんでさ?」


 裕真が首を傾げる。


「だって、最初に名乗っていた名乗り口上、この小説に登場する『太陽の騎士』の台詞そのまんまですもの」


 ラナンが思わず「ははっ」と噴き出した。


「じゃあなにか? ゴーレムが本を読んで感動したってのかよ?」


 アニーは頰を少し膨らませて、言い返す。


「そうです。ありえない話じゃないですよ? ゴーレムなどの魔法生物が、長年使われている内に自我を持つのは珍しい話じゃないです。てゆーか、うちにも一人いるじゃないですか」


 アニーはそう言って、裕真の胸元を指さした。

 すると、裕真の胸ポケットから、むくれた声が響く。


「ちょ……ちょっと! 私をゴーレムなんて下等な存在と一緒にしないで下さい! 私は帝国が持つ最高の技術で造られた――」


 人工精霊アコルルが必死の弁明を始めた。裕真は苦笑しながら、アコルルを宥める。

 風の止んだ丘陵に、穏やかな笑い声が響いた。



 ◇ ◇ ◇



 丘陵地帯を抜け、再び一行は古代ドワーフの遺跡へと戻ってきた。


 最後のターゲットが潜伏しているのは、集合住宅地帯だった。

 灰色の高層建築物が規則正しく並ぶ様子は、日本の集合団地を思わせる。周囲には商店や公園の跡地も残っており、どこか生活感のある寂しさが漂っていた。


「ここのターゲットは?」

「こいつだよ」


 ルナは最後の手配書を裕真に手渡す。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


盗賊団首領 【フレイマー・フラガンス】

 賞金200万マナ ※生け捕りのみ!!


 盗賊団『フライド・バルチャーズ』の首領。


 彼らは古代ドワーフの機械兵器で武装しており、首領のフラガンスも火炎放射器を所持している。

 これらの装備は魔法の力を使用していないため、魔力感知では発見できない。 

 また、略奪された金品の隠し場所を知るため、生け捕りにする必要があるので、注意されたし。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 手配書の肖像画に描かれた男は、鋭い目つきとゴツゴツしたエラの張った顔立ちをしていた。大きな火傷跡が頰から首にかけて走り、強烈な威圧感を漂わせている。

 しかし魔物ではなく、紛れもなく人間だった。


「今度は人間の賞金首か……」


 これまでほぼ魔物ばかりを相手にしてきた裕真にとって、人間と戦うという事実はやはり重かった。

 その内心を察したイリスが、静かに言葉を添える。


「人間といっても、今まで何十人もの旅人を犠牲にしているのよ。ほぼ魔物みたいなものよ」

「……いやまぁ、それは分かっているけど」


 理屈では理解していても、胸の奥の抵抗は簡単に消えない。

 イリスもそれ以上は追及せず、小さく頷いた。


「さて、この廃墟のどこかに潜んでるらしいけど……。奴ら『魔道具』を装備していないから、見つけるのが大変なんだよね」


 ルナが片手を翳し、周囲の廃墟をゆっくりと見渡す。


「どういうこと?」

「奴ら魔道具を一切使ってないから、魔力探知が効かないの」


 裕真は納得したように、手をぽんっと打った。

 地球の家電が熱を放つように、魔道具も微細な魔力を放っている。

 そしてこの世界ではそれを利用し、隠れた人間を探し出す魔法がいくつもあるが、この盗賊団にはそれが通用しないというわけだ。


「……あー、つまり位置を特定できないってこと?」

「そうそう」

「すると、このだだっ広い遺跡を、虱潰しに探さないといけないのか……」

「だから、一番最後に回したんだよ」


 裕真は積み重なる灰色の遺跡群を一望し、思わず深い溜息をついた。


「それなら今回もウチに任せてや!」


 茜が胸を叩いて大きく宣言した。裾を翻してウミネコの式神を呼び出す。

 だがその姿はいつもとは明らかに違っていた。

 ウミネコの姿をしているが、頭部には人間のような髪が生えており、それが茶色のツインテールという茜と同じ髪型なのだ。


「この式神は偵察用で、ウチと感覚がリンクしてるんや!」


 言うが早いか、茜は次々と同型の式神を召喚していった。

 その数、ざっと100体。


「この数ならすぐ見つけられるで!!」

「ほほう! 茜さんが100人増えたようなもん!? それはすごい!!」


 目を輝かせる裕真に、茜は得意げに鼻を鳴らした。


「式神隊、発進!!」


 100体の偵察式神が一斉に飛び立つ。


 ……しかし、その直後。


 茜の顔色がみるみる青ざめていった。そして突然、鼻からだらりと血が垂れ始める。


「どうしたんだ!? 急に鼻血を噴いて!!」

「……え? 鼻血? わからん…… なんか急に眩暈が……」


 真っ青な顔でふらつく茜を見て、裕真のスマホからアコルルの慌てた声が飛び出した。


「茜さん! すぐに術を停止して下さい! おそらく式神100体とのリンクで脳に過剰な負荷が掛かってるのです! 魔力が増えても、それを操る脳は一つしかないんですから!」

「……なんやて!? くぅ……そんな落とし穴が……」


 ガクッと膝を折った茜に、裕真は素早く《回復の杖》を向けた。

 淡い光が彼女を包み、荒かった息が徐々に落ち着いていく。

 大事に至らず、皆が一安心したのを見計らって、モモがふんっと胸を張って前に出た。


「ならば私にお任せください!『暗黒悪夢生物(ドリーミーフレンズ)』を召喚して探索させましょう!」


 その言葉に、裕真はぎょっとする。


「え……! 大丈夫なの?」

「大丈夫です! 『暗黒悪夢生物(ドリーミーフレンズ)』は自分の意思で動きますので、私の脳に負担をかけません♪」

裕真「いや、そっちじゃなくて――」


 裕真が心配しているのは、負荷の話ではなく、あの異形の怪物たちがちゃんと言うことを聞いて、ターゲットを生け捕りにしてくれるかということだった。

 しかしモモはそんな心配など露知らず、すくっと手を高く掲げた。


「開け! 夢世界の扉!!」


 そう唱えた瞬間、周囲の光が一気に吸い込まれるように暗転した。


 耳障りな悲鳴のような音と共に、地面から巨大な顔面がせり上がってくる。

 目を剥き苦悶の表情を浮かべたその顔の、大きく開いた口が扉になっていた。

 そう、これが現世と暗黒悪夢時空(ドリーミーランド)を繋ぐ扉だ。


 ゴゴゴゴ……という重低音を響かせて扉が開く。

 黒い瘴気が溢れ出し、次々と異形の軍勢が這い出てきた。


 麻袋を被り、血塗られたナタを手にした巨人。

 長く伸ばした黒髪で顔を覆い隠した怪女。

 複数の人体を繋ぎ合わせ蜘蛛のように這いまわる怪物。

 無数の触手を生やした肉塊。

 その他、名状しがたい冒涜的な化け物たちがぞくぞくと。


 彼らこそ悪夢から生まれた愉快な仲間たち、『暗黒悪夢生物(ドリーミーフレンズ)』である。


 いつの間にか周囲を埋め尽くすほどに集まった千体以上のフレンズに、モモがにこやかに語りかけた。


「皆さーん! かくかくしかじかというわけで、賞金首を探してきてください! ……あっ! 見つけても殺しちゃダメですよ!!」


 フレンズたちは一斉に頷いた。


「はーい」「殺しませーん」「殺さなきゃいいのね」


 こうして、千体を超えるフレンズが灰色の遺跡群へと雪崩れ込んでいった。



 ――約一時間後。



 一同は絶句した。


 フレンズたちがフラガンスを捕まえてきたのだが……


 それはかろうじてフラガンスだと認識できる程度の、ぎりぎりの形状で……だった。


 コ…コロシテ……


 フラガンス“だったもの”が、か細い声で呟いた。

 その凄惨な姿は、詳しく描写すると吐き気と不快感を催すものなので割愛する。

 だが、それを見た裕真が卒倒し、長いハンター経験で凄惨な現場を見ることがあった仲間たちですら青ざめ、こみあげてくる胃の内容物を抑えるレベルだった、とだけ伝えておく。


「ちょっと〜!! 誰がここまでやれと言いました!? 流石にやりすぎでしょー!!」


 モモが両手をぶんぶん振りながらプンスカと怒る。

 しかしフレンズたちはキョトンとし、首(あるいは首に当たる部位)を傾げた。


「え? 殺してませんよ?」

「ちょっと拷問しただけです」


 などとしれっと言われ、モモは頭を抱える。

 召喚魔法の最大の欠点が、ここに露呈した。

 召喚された存在は基本的に術者の命令に従うが、その意向に100%沿うとは限らない。


「ついでに手下の盗賊達も捕えました」


 フレンズたちがぞろぞろと、“手下だったもの”たちをモモの前に並べていく。


 ウウ……

 カアチャン…

 モウ シナセテ…


 仲間たちはついに耐えきれず、胃の中身を放出した。



 こうして『生け捕り』にしたフライド・バルチャーズ一味をギルドへ連行したのだが――

 その際、回復魔法を持つ裕真が気絶中で、なおかつ悪党相手にポーションなどのリソースを割くのはイヤだということで、死なない程度の最低限の処置しか施されなかった。

 おかげでギルドの職員たちも次々と胃の中身を噴き出し、カペラの街にミリオンハンターズの悪評が広まることになるのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 RESULT


獲得賞金 200万マナ



【 獲得素材 】


『ドワーフ製火炎放射器』

 本来は雑草を焼くための農具。 しかし『銃』が禁止された直後の時代に、兵器として改造された。


『携帯型燃料製造機』

 有機物を原料に、火炎放射器用の燃料を作る機械。



 ※その他、古代ドワーフの機械多数。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 【 おまけ 今回の魔物スキル 】



神獣属【ゴールドライオン】


〈物理攻撃無効〉 剣、弓、銃などあらゆる物理攻撃を無効化する

〈筋力上昇(極大)〉 筋力が桁違いに上昇する

〈敏捷上昇(極大)〉 敏捷力が桁違いに上昇する

〈柔軟筋肉〉 猫科特有のしなやかな筋肉を得る。 物理・風(衝撃)に耐性



造魔属【 ドン・キホーテ 】


〈ゴーレム属性〉 毒・精神・呪い無効/物理攻撃に強い耐性

《ハリケーン》  超広範囲に風属性攻撃

《風属性強化》 風属性のスキルを強化する

《風属性吸収》 風属性攻撃を吸収する

〈大巨体〉 身体がすごく大きくなる。筋力・防御力・耐久力上昇。ただし被弾面積も増える

×妄想癖× 自分を騎士だと思い込む 【BADスキル】




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