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ミリオンクエスト ~魔法使えないのに100万MP渡されて邪神倒してこいと言われました~  作者: 糠酵太
第三章 禄存星 ~茨姫と太陽の騎士~
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第70話 帝都カペラ

挿絵(By みてみん)



 ミリオンハンターズ、『帝都カペラ』に到着。


 空港に降り立った裕真は、まだ夏にも関わらず、わずかに肌寒さを感じた。

 吐く息が白くなるほどではないが、明らかに風が冷たい。

 ここ北方大陸は全体的に寒冷な気候であり、その中でも最南に位置するカペラでさえ、トリスターと比べればかなり気温が低いのだ。


 そんな基本的なことすら知らない裕真のために、仲間たちが口々にこの街の事情を教えてくれた。


 まずここは『新生アルカディア帝国』、通称“新帝国”の首都であり、“アルカディア”とは 千年前に滅んだ『魔法帝国』の正式な国名を指す。

 つまりこの国は、魔法帝国の正統な継承者であると“自称”しているのだ。


「……自称?」


 その言葉に、裕真は小首を傾げた。


「今、この国を治めている『マイナロス家』は、旧皇家の血をほとんど引いてないんだよ。親戚の親戚のそのまた親戚ってぐらい薄い血筋」


 ルナは肩をすくめ、手のひらを上に向けた。


「だから『アルカディア』を名乗るなんておこがましいって人が、大勢いるんだ」


 なるほど、と裕真は頷く。

 三国志の劉備も漢王朝の末裔を名乗っていたが、実際にはほぼ他人に等しい遠縁だった、みたいなものか。


「それならいっそ新しい国を作ればいいのに」

「それだけ『魔法帝国』の名にブランド力があるってことだよ」


 あっさりとしたルナの言葉に、裕真はぼんやりと考える。

 地球で言うと『ローマ』みたいなものだろうか?

 ローマの文化に影響された国家は数多くあり、現在のドイツあたりに存在した神聖ローマ帝国みたいに、ほぼローマと関係ない国がその名を名乗ることもあった。


 そんな折、スマホからアコルルの声が響く。


「陛下、この街の地理をしっかり覚えといてください! そのうち攻め込むことになりますので!」

「はぁっ!?」


 あまりにも物騒な内容に、裕真は素っ頓狂な声を上げた。


「いきなり、なに言ってんの!?」

「真の皇帝である陛下を差し置いて、皇帝を名乗るなど万死に値します! 偽帝はいずれ討たねばなりません!!」


 ふんふんっと鼻息荒く語るアコルル。

 その勢いに裕真はドン引きする。


「いやいやいや!! 俺は皇帝になる気なんて無いから!! 今のままで十分だって!!」

「え……無いのですか!?」


 アコルルがキョトンとする。

 あまりに意外そうな反応に、裕真は逆に真顔になった。

 ここは真面目に答えなければと、一度息を整え、口を開く。


「無い! 今のこの国は魔法帝国が滅んだあと千年間、生き残った人達が一生懸命頑張って造ったものだ! それなのに、昔そうだったという理由だけで皇帝だと名乗り出るとか恥ずかしくてできない! 図々しいってレベルじゃないぞ!!」

「う……それは、その……」


 アコルルが声を萎ませる。

 はっきりと反論できないのは、おそらく彼女自身も薄々そう感じていたからだろう。


「じゃ…邪神を倒せば、きっと全国民が――」

「はいはい、物騒な話はそこまで!!」


 割って入ったのはイリスだった。軽く手を振りながら、強引に話を切る。


「まずは例によって、ギルドへ挨拶しに行きましょ。賞金首の情報も欲しいし」


 おーっ、と皆が同意する。

 異論はない。他所から来た新参者が速やかに活動するには、地元ギルドへの挨拶は不可欠だ。


「ワシらサポートチームは、『ダイヤの時計大作戦』を実行する」


 商人たちを代表して、シャイロックがビシッと親指を立てる。


「……大作戦って。まぁ、いいけど」


 名前はさておき、サポートチームは事前の打ち合わせ通りに活動を開始する。

 その際、裕真はベアトリスに《フォローリング》と《巨門星》を貸した。

 これを使って転移門(ポータル)を構築し、トリスターとこの街を繋ぐためだ。

 二つの大都市を自由に行き来できれば、情報収集の効率は飛躍的に上がるだろう。


 サポートチームを見送ったところで、今度はパルテナが手を挙げた。


「ギルドには別に全員で行く必要はないでしょ? その間にボクが『メネ』姉さんから指輪を借りとくよ」


 『メネ』とは、オリオン連合王国第二王女。ルナの妹でパルテナの姉にあたる人物だ。

 彼女が所持する《フォローリング》を借りることが、この街に訪れた一番の目的である。


「……うん、頼んだ。よろしく言っといて」


 ルナが一拍置いてからそう答えた。

 どこか声色が硬く、表情も若干強張っている。

 

 いつもと様子が違う彼女を、裕真は少し訝しむ。

 だが、深くは追及しなかった。


 なお、レギンは船内で待機。

 街中に“フェルダン”の気配が無いことをルナが確認したが、念のためである。



◇ ◇ ◇



 華やかだったトリスターに対し、カペラの街並みは落ち着いた雰囲気に包まれていた。

 重厚な石造建築と磨かれて鈍く光る石畳が、この街の長い歴史を静かに物語っている。

 特に目を引くのは、鋭く尖った屋根だ。雪を積もらせないための工夫らしい。

 その連なりが空へ突き刺さるような輪郭を描き、街全体に独特の緊張感を与えていた。


 そして、通りのあちこちに据えられた熊の像も、この街を象徴する存在だ。

 雄々しく立ち尽くす姿、蛇を口に咥えた姿、人間の子供を腕に抱きかかえた姿。いずれも力強く、神聖な気配を漂わせている。

 これらは全て、『大聖母カリストー』を象徴するものだという。


 かつてこの地は、神喰らいの魔物(ゴッドイーター)、世界蛇『ニーズヘッグ』に支配されていた。

 ニーズヘッグは人類に子供を生贄として捧げるよう要求し、その中にカリストーの子も含まれていた。

 我が子を守るため、カリストーは自らを巨大な熊に変え、ニーズヘッグに戦いを挑む。

 激闘の末、ついにそれを討ち果たすことには成功する。

 だがその代償として、神々でさえ死に至らしめる猛毒を浴び、カリストーは息絶えた。


 そして、その守られた子こそが、後の魔法皇帝『アルカス』なのだという。



 そんな言い伝えを交わしながら、一行はカペラのハンターギルドへと足を運んだ。

 建物は小さな要塞を思わせる重厚な造りで、分厚い石壁と鉄の扉が外敵を拒むようにそびえている。

 そしてその正面には、ガリガリに痩せこけた数人の人間が十字形の磔台に縛り付けられ、通りに晒されていた。

 台の下には名前と罪状が記された立札。どうやら彼らは罪を犯した“元”ハンターらしい。

 乾いたカサカサの唇から「タスケテ…」「コロシテ…」などという声が、かすかに漏れ出している。


「へぇ、カペラのギルドは晒し首じゃなくて磔なのね」

「地方ごとに特色があって面白いですね」


 イリスとアニーがアハハと笑い合う。

 一方、裕真は目の前の陰惨な光景に笑えるほど、この世界に馴染んでいなかった。

 とはいえ、ここで不満を口にすることもしない。

 この世界の常識に、自分の価値観をぶつけるのは違う気がしたからだ。

 なので、只々顔を顰めたまま、磔台の前を足早に通り過ぎるのであった。




【 ハンターギルド カペラ支部 】



 中に入ると、外観と同じく年季の入った空気が漂っていた。

 くすんだ木製のカウンターには細かな傷が刻まれ、壁に貼られた依頼書は色褪せ、端がめくれ上がっている。長い年月の中で積み重ねられた仕事の跡が、そのまま残されていた。

 そんな室内を見回していると、ハスキーな声でお決まりの挨拶が響く。


「いらっしゃいませ~。ハンターギルドへようこそ」


 カウンターに目を向けると、そこにはボーイッシュな少女が立っていた。

 丁寧にまとめたショートカットに、きりっとした目元。

 制服姿ではあるが、下はスカートではなく動き易そうなキュロットだ。


「ミリオンハンターズの皆様ですね。帝都カペラへようこそ♪」


 裕真はギョッとした。

 結成して間もなく、まだ大した活動もしていない自分たちが、もう知られている。

 ギルドの情報網、恐るべし、である。


「本日、皆様のご案内を努めさせていただきます、『キラ』と申します。以後お見知りおきを」


 キラは右手を胸元に添え、優雅に一礼する。

 その仕草は、幼さの残る顔立ちとは裏腹に、堂々として大人びていた。

 エルフや魔族のような長命種かと一瞬考えたが、耳は丸く、角も生えていない。純粋なニンゲン族に見える。


 裕真は気圧されつつも、挨拶を返した。


「どうも。クラン代表の裕真です。本日は賞金首の情報を――」


 言いかけたところで、茜に肩を軽く叩かれる。


「ユーマ、これからは人間の『賞金首』も狙っていかへん?」


 唐突な提案に、裕真は眉をひそめた。


「ん? 人間を? 俺、人を殺すのはちょっと……」

「そんなん生け捕りにすればええやん。今までも淫獣とか捕まえてるやろ? それと同じ要領でやればええ」


 茜は軽く指を振りながら、まるで大した話でもないかのように言う。


「まぁ捕まえた結果、処刑されるかも知れへんけど、それまでイヤとは言わへんよな?」

「ま……まぁ、それだけの罪状があるなら仕方ないと思うけど……でも、なんでそんな話を?」

「人間の賞金額は強さより罪状の方が重視されるから、場合によっては美味しい仕事やったりするんや♪ たとえばモモなんて激弱やのに、100万マナ(約1億円)の賞金が付いてたやろ?」


 そう言いながら、モモをちらりと見る。

 むっとするモモ。彼女の式神に爆撃された時のことを思い出したのだろう。


「それに、人間の方が悪さ働いていることが多いしな。捕まえると感謝されるで」

「むむ……」


 そう言われると、裕真としては拒む理由がない。


「……まぁ、生け捕り優先で良いなら」

「かまへんかまへん! むしろ生け捕りにした方が喜ばれるし!」


 喜ばれる、という言葉に不穏なものを感じた。

 見せしめとして、処刑とか拷問とかをするからだろうか?

 またも顔を顰める裕真だったが、茜はそれに気付く様子もなく、キラへと向き直った。


「嬢ちゃん、そういうわけで、美味しそうなのおる?」


「美味してかどうかはあなたたち次第だけど、とりあえず高額なのを紹介するよ」


 そう言うと、キラはカウンターの引き出しを開き、手配書の束を取り出した。

 

 まず最初の一枚。そこに描かれていたのは眼鏡をかけた痩せぎすの青年だ。その下には、こう記されている。



 【 死霊術師 ラザロ 】 賞金 300万マナ(生け捕りのみ)



死霊術師(ネクロマンサー)だ。罪状は『禁呪使用』と『遺体窃盗』。死んだ女の子をゾンビにして、強制労働させている極悪人。賞金は生け捕りのみだから注意して」


 その賞金額に皆がどよめく。

 300万マナ(約3億円)は、魔物なら討伐Lv100ぐらいの個体に掛けられる額だ。


「本当に高額だなぁ……。でもなんで生け捕りのみ?」

「それはこいつの研究データが欲しいからだよ」


 裕真は思わず「ん?」と声を漏らした。


「禁呪なのに?」

「禁呪だからだよ。自分じゃ表立って研究できないからね」


 なおも怪訝な顔をする裕真に、本職の魔術師であるアニーが補足を入れる。


「禁呪への対抗魔法を作る為にも、そういうデータが必要になるのです。もちろん自分で使うわけではない……と思いますよ」

「ふーむ、なるほど……」


 完全に腑に落ちたわけではないが、ひとまずは納得する。

 まぁ、ギルドが仲介している仕事だし、悪用されることはないだろう。


 キラは次の手配書を指で弾き、こちらへ滑らせた。



【 強盗・殺人犯 ベレッタ&トーラス 】 賞金 200万マナ



 描かれているのは、あどけない顔をした十代前半ぐらいの少年と少女。

 二人の顔は驚くほどそっくりで、違いといえば少女の髪が腰まであるぐらいだ。


「この二人は『ガンランナー』で、罪状は強盗、殺人、銃の所持・使用。双子の姉妹らしいよ」


 裕真はギョッとする。


「こんな子供が賞金首なの!?」

「『ガンランナー』は成人でもこれぐらいだよ。……ま、本当に子供かもしれないけど」


 その説明に、裕真は「はっ」と息をのむ。

 そういえば、自分が知っている唯一のガンランナー、篤志の養女である『アム』もそうだった。

 見た目は10歳にも満たないのに、実年齢は自分より上の17歳。

 にわかには信じがたいが、本当に種族全体がそんな感じなのか。


「見た目可愛いからって侮っちゃダメだよ。狩りに来たハンターを何人も返り討ちにして“芸術品”にしているサディストだからね」


 ぞくりとするような言い回しだった。

 キラは間を置かず、さらに一枚を裕真の前に並べる。

 それには、竜の頭部を模した覆面に、大きな襟のついたマント姿の男が描かれている。



 【 国家反逆犯 ゼクス 】 賞金 1,000万マナ



「お次は最近売り出し中のテロリスト、『国民解放戦線』の首領ゼクス。賞金はなんと1,000万マナ(約10億円)!!」


 桁違いの額に、一同がまたしてもどよめく。

 ここまで高額な賞金首は、今まで一度も見たことがない。


「罪状は?」

「反逆罪。腐敗貴族を大勢殺している」

「腐敗って……」


 裕真は耳を疑った。仮にも貴族に対して“腐敗”などと言い切るとは。

 誰もが認めるほどの悪辣さなのか、それともキラ自身の思想が偏っているのか。

 唖然とする裕真に代わって、ラナンが口を開いた。


「そんなに腐敗した貴族がいるのかよ」

「いるよ。帝都周辺はそうでもないけど、皇帝の目が届かない地方じゃやりたい放題」


 裕真は「うわぁ」と呻く。

 地球で言うと、三国志初期の漢王朝のような状態だろうか。

 悪徳領主や汚職役人が蔓延っていた時代。

 そして解放戦線とは、それと戦う黄巾党みたいな存在なのかも。


「そんなわけで解放戦線を支持する人はかなり多い。討伐したら民衆の恨みを買うかもね?」

「う〜む……義賊ってやつ? 政治問題には関わりたくないから パスで」


 軽く手を振って意思表示する。

 賞金額は魅力的だが、それ以上に厄介ごとの匂いが強すぎた。


「それじゃ、これはどう?」


 今度は二枚の手配書を並べた。

 一枚目はゴシック調のドレスを纏ったツインテールの少女。

 もう一枚は獅子のような髪型をした筋骨隆々の大男。



 【 盗賊団首領 メグリ 】 賞金 3,000万マナ

 【 連続武闘家襲撃犯 カイヨウ 】 賞金 2,000万マナ



「女の方はガンランナー盗賊団【デッド・バレッツ】の頭領『メグリ』。強奪された金品は総額30億以上、被害者は五千人を超える。男の方は通称暴虐の嵐バイオレンス・タイフーンの『カイヨウ』。名の有る武闘家、騎士、ハンターなどに一方的に勝負を仕掛け、千人以上を殺害している。それも全て素手でだ」


 説明を聞き終えた瞬間、裕真たちの表情が一斉に凍りついた。

 その二人には見覚えがある。

 マリクから貰った情報に記されていた邪教団の幹部、『最悪の七人《ワーストセブン》』のメンバーだ。


「こ……こいつらは!!」

「『最悪の七人(ワーストセブン)』やないか! 指名手配されとったんかい!」

「もっと社会の影に潜んでるかと思ったら、めっちゃ目立っていたわね……」


 仲間たちが次々に声を上げる。

 どうやら二人は北方大陸を拠点に活動していたらしい。だから今まで賞金が懸けられていることに気付かなかった。


「もしかしたら残りの連中も指名手配されてるかも……。他にも高額賞金首はいませんか!?」


 イリスは顎に手を当て、思いつきをそのまま口にする。


「一応いるよ、その二人より高額なのが」


 そう言って、キラは新たな手配書を一枚、カウンターの上に滑らせた。

 そこに描かれていたのは、まるで姫様のように整えられた長髪に、黒い外套を纏った少女の姿だった。



 【 吸血鬼 ピュラー 】 賞金 1億マナ(生け捕りのみ!!)



 期待したものとは違ったが、その圧倒的な賞金額に全員の目が釘付けになる。

 生け捕りという条件付きとはいえ、1億マナ(約100億円)!

 悩みの種であった資金問題が、この一件だけでほぼ解決してしまうのだ。


「とんでもない賞金額だ……いったい何を仕出かしたんです?」

「殺人、強盗、誘拐、強姦、詐欺、放火、器物破損、国家反逆、猥褻物陳列……などなど思いつく限りの罪状が並んでるね」


 あまりの羅列に、裕真は言葉を失う。

 まるで地獄のテロリストだ。こんな可愛い顔をしているのに、中身は東京タワーを〇ァックするデスメタルモンスターなのだろうか。


「でも多分デタラメ。つーか この罪状、ひとつも裏付け取れてないんだよね」


 キラは頬杖をつき、心底どうでもよさそうに言い放つ。

 その目は完全に冷めきっていた。


「え? どういうこと?」

「おそらく“政治問題”だね。庶民は関わらないほうが良いやつ。仮に捕まえても、あとで口封じされかねない」


 さらりと告げられた言葉の内容に、背筋がひやりと冷える。


「はぁ!? そんなろくでもない案件、なんでギルドで扱ってるんすか!?」

「賞金を掛けたのが『マイナロス家』だからさ。仮にも皇族の依頼を断れないだろ?」


 そこでようやく事情を理解し、言葉が詰まる。

 中立を掲げるハンターギルドといえど、政治的なしがらみからは逃れられないらしい。


「だから、こうして口頭で注意してるってわけ」

「……なるほど、いろいろあるんすね。ところで高額賞金首は これで全部?」

「……あ、もう一件あった。最近のやつ」


 キラは思い出したように引き出しを開け、ごそごそと中を探り始める。

 やがて一枚の手配書を引き抜き、無造作に差し出した。


 そこには、ウルフカットの髪と大胆なビキニアーマー、顔と体に虎のような縞模様が付いた女性の姿が描かれている。 



 【窃盗犯 刃の魔女(仮) 】 賞金 1,000万マナ(生け捕りのみ)



 それを見た瞬間、裕真たちはほぼ同時に「あっ」と声を上げた。

 以前レギンから聞いた、フェルダンの魔の手から彼女を救出した人物と特徴がほぼ一致していたからだ。


「正体は不明、仮に『刃の魔女』と名称されている。皇宮から超高級品の『ダイヤの時計』を盗んでいった」


 その説明を聞いた瞬間、全員の中で点と点が繋がる。

 彼女に『眠りのイバラ』が通用しなかった理由は、それだったのかと。


「つまり、この人はフェルダンと戦う為に、皇宮から盗んだわけか……」

「覚悟決まってますねぇ……」


 自然と、感心の念が口をつく。

 おそらく仲間の『カナメ』を助けるためとはいえ、指名手配犯になるのを承知で皇宮から盗み出すとは。

 並大抵の覚悟ではない。


 そのとき、ルナの目がギラリと光った。


「盗む……。そうか、そういう手も――」


 ぽつりと呟かれたその一言に、場の空気が凍り付く。

 全員の視線が、一斉にルナへと向けられた。


「無いよ! ダメだからねルナちゃん!」


 一同を代表して、親友のモモが叱りつける。

 それを受けたルナは「冗談だって」と軽く笑うが……その目は笑っていなかった。


(この人、お姫様だよね?)


 今更ながら、そんな疑念を抱く裕真であった。



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