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第28話 決戦


 巨大な怪物へと変貌したデュベルは、50メートルの巨体を揺らしながら街を練り歩く。

 一歩踏み出すたびに地面が深く陥没し、周囲の家々が振動で軋み、崩れていった。


「出てこい、ユーマくん! 今ので死んだわけじゃないのだろう?」


 先ほど屋敷を吹き飛ばした閃光は、やはりデュベルの仕業だった。だが、どうやら裕真の居場所を特定しての攻撃ではなかったようだ。


「決着をつけようじゃないか! どちらの神が正しいか!!」


 その言葉は、裕真にとって見当違いだった。

 確かに自分は冥王から力を授かったが、だからといって冥王を崇拝しているわけではないし、何の間違いも犯さない正しい存在とも思っていない。

 だが「決着をつける」という点だけは、同感だった。


「言われるまでもない! 神だの何だの関係なく……お前は絶対に許さない!!」

「待って、ユーマ! 装備は!?」


 今にも飛び出そうとする裕真を、イリスが慌てて引き止めた。


「あ……捕まったとき、取り上げられたんだ……」

「そうだと思って、ギルドから借りてきました! 装備、全部入ってます!」


 アニーがマジックバッグを差し出す。手は小刻みに震えていたが、それでも笑顔を崩さなかった。


「おおっ、助かる! ありがとう!」


 裕真は袋の口を開け、すばやく装備を取り出して身に着けていく。



【装備】

─── 武器 ───

・ファイアボールの杖(上質) 耐久800

・アイススパイクの杖(上質) 耐久800

・ライトニングの杖(上質) 耐久800


─── 防具 ───

・ガードバングル(上質) 耐久800

・ゴリラアーム(普通) 耐久200

・カモシカの靴(普通) 耐久300

・ホーリーアンク(普通) 耐久300

・ハヤブサの腕輪(普通) 耐久300



「どうだ? これで勝てそうか?」


 心配そうに問うラナンに、裕真は即答できなかった。

 今までの賞金首なら余裕で勝てる装備だが、今回の相手は……完全に別格だ。


「……なんとも言えないけど、全力を尽くす!」


 そう言ってから、はたと気づく。


「あっ……全力を出したら、街が……」


 ここは今までの戦場と違い、街のど真ん中だ。

 強力な魔法を放てば、周囲への被害は避けられない。

 だが、その懸念にランランがすぐさま答える。


「大丈夫! 住民はすでに全員避難させたわ! 気にせずやっちゃって!!」

「えっ!? もう!? 準備良すぎじゃない? いや、助かったけど!」


 驚いて突っ込みつつも、今は細かいことを気にしていられない。

 裕真は前を向き、デュベルの巨体を見上げた。


「さあ、行くぞ! 魔道具発動!」


 MP100消費、『カモシカの靴』で脚力上昇!

 さらにMP100消費、『ハヤブサの腕輪』で反応速度、動体視力アップ!

 解放された筋力と俊敏性で、裕真の身体は弾丸のように跳ね上がる。

 その一瞬で地面を蹴り、空高く舞い上がり、デュベルの眼前へと躍り出た。


「デュベル! 巨大化したのは失敗だったな! 俺にとっては的がデカくなっただけだ!!」


 杖を構え、魔力を集中させる。


「MP800消費! ファイアボール!!」


 裕真の身体より何倍も大きい火球が生成され、轟音と共に発射される。

火球は一直線にデュベルへと突き刺さり、炎の柱を巻き上げながら爆ぜた。

 耐久力の限界を超えた杖はボロボロと崩れる。借り物の杖だったが、それは後で弁償すればいい話だ。


「ふぅ……これで倒せたか? 生きていたとしても、流石に無傷では――」


 だが次の瞬間、炎は霧散し、デュベルの姿が現れる。

 虹色の鱗は傷一つ付いておらず、焦げ跡さえ見当たらない。


「なっ! 無傷だって!? 直撃させたのに!?」


 驚愕する裕真の耳に、遠くからイリスの声が飛び込む。


「ユーマ! あいつ、炎が効かないのかも! ヘルハウンドのように!!」


 炎が効かない……。以前、イリスから聞かされた話を思い出す。

 魔物の中には、物理法則を超越した不思議な力を持つ奴がいると。

 例えば、ヘルハウンドの『炎無効』。これは単に「火に強い」という領域を超えて、全く効かないのだ。

 例えば耐熱性の高い鉄や石でも、数千度の高熱にさらされれば溶けてしまう。だがヘルハウンドは、それほどの熱量を受けても平然としているのだ。

 MP800の業火に耐えた以上、デュベルも『炎無効』を持っていると考えるのが自然だろう。


「なるほど! なら他の属性で攻める!!」


 裕真は次の杖を素早く引き抜く。


「MP800! アイススパイク!!」


 樹齢千年の巨木のような氷柱が形成され、猛然と射出される――が、デュベルに触れた瞬間、ふっと霧のように掻き消えた。

 怯む裕真だが、すぐさま次の杖を構える。


「MP800! ライトニング!!」


 街全体を照らすほどの閃光と共に、極太の雷撃がデュベルを貫く――はずだったが、それすらも掻き消された。


「うっそだろ……全然効いてない!?」


 二属性どころか、三属性すべてが無効?

 まさか、魔法そのものが効かないというのか?

 唖然とする裕真を見下ろし、デュベルが勝ち誇った声を響かせる。


「はははっ、君が冥王から魔力を貰ったように、ボクもゾド様から力を貰っているのさ!! 『モンスターの能力を奪う力』をね!!」

「な……なんだって!?」


「『ファイアドレイク』、討伐レベル120。炎属性無効! 『フロストギガース』、討伐レベル90。氷属性無効! 『サンダーバード』、討伐レベル87。雷属性無効!!」


 あまりにも堂々とした種明かしに、裕真は面食らう。


「聞いてもいないのに、種明かしか!?」

「ははは、いいじゃないか! せっかくの能力なのに、自慢したくても話せる相手がいないんだ!!」


 ――その気持ち、少しわかる。

 裕真も自分のチート能力を仲間たちに披露した時は、少し気持ちよかった。


「そう、これから死ぬ奴ぐらいにしか話せない!」


 巨大な口が、にやりと歪む。

 異形の顔に、かつてのデュベルの面影はまるでない。だが、なぜかその顔が脳裏に浮かび、腹が立った。


「舐めるな!! MP200! ゴリラアーム!!」


 魔法がダメなら物理で――

 強化された拳を振りぬく。

 渾身の一撃がデュベルの鱗に食い込み――そして、弾かれた。


「なんだ!? ゴムみたいな弾力だ! これも魔物の能力なのか!?」


「『レッサーベヒモス』、討伐レベル105。物理攻撃耐性。ちなみにこの巨体も、この魔物の能力さ」


 腹立たしいほど丁寧に解説してくれるデュベル。


「物理攻撃もダメかよ! 何か他に手は――」


 焦燥の色を隠せない裕真。

 そんな彼のもとへランランが駆け寄ってきた。ルビー色の瞳は自信に満ち、どこか誇らしげに輝いている。


「ユーマくん、後は私に任せて!こちらの準備が整ったわ」

「!? 準備って?」

「私の『精霊』を召喚する準備よ!!」


 そう言うと、ランランは天へ向けて両手を掲げ、声を放つ。


「おいでなさい!!『ギロチンの精霊』よ!」


 次の瞬間、世界が軋んだ。

 風が止まり、空気が重くなる。デュベルの足元から黒々と渦巻く瘴気が立ち上る。まるで地の底から噴き上がる怒りのように、それはゆっくりと彼の首元に集まり、空間そのものをねじ曲げていく。


 現れたのは、巨大なギロチン。


 二本の漆黒の柱に支えられた重厚で鋭利な刃。処刑と断罪の象徴。

 地球でも悪名高い、処刑器具そのものの姿だった。

 

「な…… なんだこれは!? 外れない!?」


 召喚された『ギロチンの精霊』は、デュベルを凌ぐ巨体でその首をがっちりと拘束し、圧し伏せるように地に這いつくばらせた。


「逃げようとしても無駄よ! ギロチンの精霊は断罪者!! あなたの罪が重ければ重いほど強くなる!! ふふ、よほど悪事を働いたようね♪」


 ランランの言葉どおり、どれだけ身をよじっても、ギロチンの枷は外れない。


「ギロチンの精よ……断罪せよ!! 死刑執行!!」


 ズ バ ァ ン !!


轟音と共に、巨大な刃が滑り落ちる。

鋼鉄の音が街中に響き渡り、デュベルの首が胴から切り離されて、ズシンッと地面に落ちた。



「た……倒した!?」


 裕真は慎重にデュベルの首へと近づき、様子を確かめる。

 動かない。息も、気配もない。


「すごい……すごいよランランさん! 俺の攻撃じゃびくともしなかったのに……!」

「ふふっ、まぁ……あれは重罪人にしか通用しないけどね☆」

 

 ランランは少し得意げに、『ギロチンの精霊』について簡単に説明する。

 この精霊は、標的の犯した“罪”をエネルギー源とする。罪が重ければ重いほど、刃も重く、枷も強くなる。

 もしも標的が無実、あるいは罪が軽ければ、そもそも刃は落とされない。

 さらに、“法の外”にある存在――たとえば魔物、動物、そして邪神ゾドのような存在にはまったく効果がない。

 ギロチンの精霊が断罪するのは、あくまで“人間の罪”なのだ。

 

 安堵が広がる中、駆けつけたイリスの顔がふと曇った。

 ……出血が、少なすぎる。

 脳裏に『ナッツイーター』との戦いがよぎる。

 頭部を破壊されたにもかかわらず、立ち上がり、イリスの腹を割いたあの怪物……。


「ランランさん! まだ油断しちゃダメ!!」

「……え?」


 イリスの叫びよりも早く、裕真が動いた。

 ランランの体を抱きかかえ、その場を跳ぶ。


 ドォンッ!!


 直後、凄まじい衝撃が地面を穿つ。

 先ほどまでランランがいた場所に、デュベルの巨大な腕が叩きつけられた。

 そして、首を落とされた巨躯が、ゆっくりと立ち上がっていく。

 首が無いまま。


 一同が絶句する中、さらなる異常が起こる。

 切断面からヌルリと何かが突き出てきた。

 それは新たな頭部。虹色の鱗に覆われ、先ほどよりも一層禍々しく、鮮やかに輝いている。

 

「ふふふ、ランランさん……あなた、あまり魔物と戦ったことがないですね?」


 新たな首をさすりながら、デュベルは愉快そうに笑う。

 その口調は首を落とされた直後にもかかわらず、平常と変わらないものだった。


「首がなくても平気な魔物なんて、いくらでもいるんですよ。たとえば――ハイ・ヒドラ、とかね」

 

 邪龍属 【ハイ・ヒドラ】 討伐レベル98。

 高い再生能力を持つ【ヒドラ】の上位種で、その生命力は不死と見紛うほどとされる。

 まさか、そんな力まで取り込んでいるなんて……。

 

「そ、それくらい知ってるわよ! あんたがそこまで人間やめてるとは思わなかっただけで!!」

 

 ランランは顔を真っ赤にして叫ぶ。

 実は彼女、自分の精霊が魔物に対して無力であることに、少なからずコンプレックスを抱いているのだ。


「お返しだよ!」


 デュベルの口から、眩い閃光がほとばしる。

 先ほど自らの屋敷を破壊したのと同じ攻撃、サンダーバードのスキル『サンダーボルト』だ。

 魔物から奪った数多くのスキルの中でも、この技が特にお気に入りだった。

 理由は単純。カッコイイから。


 裕真は大慌てで右手をかざし、《ガードバングル》を起動。展開したバリアで雷撃を防ぐ。

 すぐに範囲を拡大し、仲間たちとランランも守る。

 電光がバリアに弾かれ四散する。飛び散った火花が周囲の建物に燃え移り、業火が立ち上った。

 それでも雷撃は止まず、数十秒にわたって激しく続く。ピキッ、ピキッとバングルに細かな亀裂が入る。限界は近い。

 それに気づいたイリスが、すかさず自分のバングルを裕真の左腕にはめる。

 裕真は右腕の壊れかけたバングルから左腕へとバリアを切り替えた。

 しかし、それでも雷撃は止まらない。

 今度はアニーが、自分のバングルを右腕に装着してくれる。だが――このままでは、全員分のバングルが尽きるのも時間の問題だった。

 逃げるなど不可能。一瞬でもバリアが途切れれば、全員が消し炭になる……。


「ちくしょう! このままではジリ貧だ!」


 ラナンが皆の不安を代弁する。


「打つ手無しですか!?」


 アニーが涙目で叫ぶ。目の前では雷光が絶え間なく迸り、周囲は炎の海。まるで地獄だ。

 そんな中、裕真は必死に頭を巡らせ――ある可能性に思い至る。


「《聖剣ブリュンヒルデ》……この国の国宝、『神器』の剣なら!!」


 冥王の説明によれば、その剣は「聖なる力で邪なる者を滅ぼす」とのことだった。

 火、氷、雷の三属性を無効化し、物理攻撃すらほとんど効かないデュベルにも、聖剣なら通じるかもしれない。


「なんてこった……こんなに早く攻撃用の『神器』が必要になるなんて……」


 これまでの敵は、せいぜいMP1000以下で倒せる程度だった。

 だからこそ、攻撃系の神器はまだ要らないと思っていたのだが……甘い考えだった。


「……冥王様の言う通り、城の人を皆殺しにしてでも手に入れるべきだったのか!?」


 邪神とその眷属を倒すためには、情けや良心を捨てる覚悟が必要だったのかもしれない。

 冥王が「だから言っただろうが」と鼻を鳴らす姿が脳裏に浮かぶ。


「バカ! 諦めるのはまだ早いでしょ!!」


 物騒なことを口にする裕真を、イリスが強く叱る。


「それなら今から城に行って貸してもらえば良いじゃない!!」

「で……でも、国宝だぞ!? 縁もゆかりも無い一般人の俺に貸してもらえるとは――」

「だーかーら! やる前から諦めるな!!悩む暇があったら行動よ!」

「うん……」

「でもこの状況でどうやって?」


 アニーの疑問は当然だった。今もなお、デュベルの雷撃は止まっていない。この状況で城に向かうなど、どう考えても無理だ。

 それに応じるように、イリスは鋭くランランへ視線を向ける。


「ランランさん! もう一度あいつの首を落とせない? その間に――」

「ダメよ、あいつの“罪”はもう裁いたから……。同じ罪に対し、もう一度裁きを与えることは許されないの!」

「ええ……」


 期待が外れ、イリスの肩が落ちる。


二重処罰(ダブルジョパディー)は禁止ってわけか……」


 そんな映画あったな……と、裕真はこんな状況でもつい思い出してしまう。


「どうしたユーマくん? ただ防ぐだけじゃ芸が無いぞ」


 雷撃を吐き続けながら、デュベルは平然と喋る。

 口以外にも、声を発する器官があるのだろうか?


「それともこちらのスタミナ切れを待っているのかい? 言っておくが、ボクは一晩中でも討ち続けられるよ!」


 その言葉に、裕真の思考が止まる。

 ああ、もうダメかもしれない――そんな諦めが、心を覆いかけた。



 ……だがそのとき、奇跡が起きた。

 


 突如、デュベルの背後に人影が現れる。全長50mのデュベルより頭一つ大きかった。


 そしてその影は――いきなり、デュベルを殴り飛ばした!


  家屋をいくつも薙ぎ倒しながら、吹き飛ばされるデュベル。地に転がるその姿を、誰もが呆然と見つめる。


「!!?!!?!????」



 誰もが理解が追いつかず、困惑する。

 裕真も、デュベルも、仲間たちも、避難した先からこの光景を見ているマイラの街の住人たちも。

 突如現れた巨大な影。それは――ウサギの着ぐるみの姿。


 裕真たちがかつて倒したはずの賞金首、『ラビィくん』そのものだった。



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 悪霊属 【(ジャイアント)・ラビィくん】


  推定討伐レベル 130



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