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神様失格 ~宵蛍~  作者: しまいるか
八分の七バースデーケーキ
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八分の七バースデーケーキ 4

 多目的室の前から追い立てられるようにして、俺たちは管理棟と教室棟をつなぐ連絡口まで戻った。


 教師に「そこから先は下がって」と言われ、素直に従う。渡り廊下の途中にはすでに規制用のテープが張られ始めていて、管理棟側へ向かおうとする生徒はその場で止められていた。部活へ行く途中だったらしい連中が何事かと足を止めては、事情も分からないまま追い返されていく。


 騒ぎそのものは珍しいものじゃない。


 人の強い想いが現実を書き換える《白昼夢》――この街では規模の差こそあれ、いまさら誰も完全には驚かない種類の災害だった。巨大化したぬいぐるみだの、金平糖の雨だの、飴細工の街灯だの。そういう「何だそれ」としか言いようのない事態が、年に何度かは本当に起きる。


 だから対応にも一応の手順がある。


 まず現場の管理者が一次対応をする。店なら店主、駅なら駅員、学校なら教師。人を近づけない、発生源らしき人間を刺激しない、規模の見極めが済むまで余計な手を入れない。大きい案件ならそのあと処理班や警察の出番になるが、教室一つ、多目的室一つで収まる程度の小規模なものなら、大抵は学校の中だけで対応が完結する。


 今も管理棟の前では、うちの教師たちが手分けして動いていた。生活指導の教師が腕組みしながら野次馬を散らし、担任らしい若い教師が無線で何かを報告している。別の教師が、窓の外から部屋の様子をうかがっていた。その視線は、多目的室の窓のあたりを追っている。


 あの扉の向こうには、まださっき見たケーキの部屋が残っているのだろう。あの空間が放っていた甘ったるい匂いはもうしないが、それでも、現実の校舎の一角があんなふうにねじ曲がっているのだと思うと、胸の奥にざらつくものが残ったままだった。


 少し離れたところで、新見が教師に事情を聞かれていた。彼女は何度か頷きながら答えている。朝の廊下で白岡と口論していたことと言い、今日の新見は散々な目に合っているな、とまるで他人事のように思った。


 教師が別の人間に呼ばれて離れる。取り残された新見は、しばらく管理棟の方を見ていたが、やがて力なく息を吐いた。


「……きっと詩乃だ」


 俺と雫は顔を見合わせることもなく、その声を聞いていた。


「あの子に、あんなことをしちゃったから……」


 小さく、独り言みたいな声だった。


 誰に向けた言葉でもないぶん、余計に重く響く。


 朝の口論を思い出す。白岡は確かに、本気で腹を立てていた。新見のほうは責められて当然だとでも言いたげにしおれていた。そこへ今の言葉が重なれば、あの白昼夢の原因を白岡だと考えるのは、自然ではある。


 隣で雫が、小さく息をつく。


「どうした」


「別に」


 そう言って、雫はそれ以上何も続けなかった。いつもなら余計なことを一言二言足してきそうな場面なのに、今日は妙に静かだった。


 教師が戻ってきて、新見を別の場所へ誘導していく。その背中を見送りながら、雫は退屈そうに爪先で床を鳴らした。


「今日はここまで、かな」


「俺たちの出る幕じゃないだろ」


 雫は返事の代わりに、曖昧に笑った。その顔が何を意味しているのか、この時の俺にはまだよく分からなかった。

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