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神様失格 ~宵蛍~  作者: 凪波はるか
マグカップ分の譲歩
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マグカップ分の譲歩 10

 その後少しだけ部屋の中を調べて回ったが、白いマグカップ以外に不自然な点はなかった。


 俺と雫はゆっくりと手足を動かしながら、入口まで戻る。

 今度はバランスを崩さないように注意しながら、廊下へ着地した。

 

 途端に、身の回りの音が戻ったような感覚がある。

 生ぬるい空気が頬を撫で、背中側が先程よりも湿っていることに気がついた。気づかぬうちにかなり汗をかいてしまったらしい。


「さて、ここからどうしようか」


 こちらを振り返りながら、手を後ろに組んだ雫が問いかける。

 俺は廊下の先、他の寮生たちの部屋を見た。


「俺が寝ていた間に何かなかったか、皆に聞いて回ってみるか」


「はーい」


 どうやら雫も付いてくる気満々のようだ。

 妙なところで鋭い奴だが、それを簡単に教えてくれるとは限らないのが厄介だ。

 実害はないし、特に断る理由もないので、俺は素直に了承する。


 そのとき、一階から階段を上がる音とともに晴が現れた。

 さっき下っていった足音は彼のものだったのか。


 部屋の前に立つ俺たちを見つけると、そのまま近づいてきた。


「よっ、お二人さん。雫ちゃん、もう体調はいいのかい?」


 問いかけるときに、なぜか力こぶを見せつけるようなポーズを取る晴。

 対する雫も同じポーズを取って応えた。


「おうとも! 完全復活さ」


 ふふん、と胸を張る雫。

 薄々分かってはいたが、この二人は結構気が合うらしい。


「復活早々に事件調査とは、精が出るね。何か分かった?」


 今度は俺を見て言った。


「まあ、良くも悪くもな」


 曖昧な答えに、晴が首を傾げる。

 俺は部屋にあったマグカップとそこから分かったこと、そして現在考えている仮説を伝えた。


「そうか、白昼夢だけじゃなくて、誰かが部屋に忍び込んでマグカップを入れたと……。どちらもやったのは同じ人なのかな」


「いや、そこまではまだ分からない」


 白昼夢については偶然という見方が出来るが、物を運び入れことについては、明確な作為があったことになる。

 それが同一人物にせよ、異なる二人だったにせよ、いずれもが夕凪寮の住人であることには変わりない。

 その事実に、さすがの晴も表情を沈ませた。


「そういうわけで、色々と情報を集めようと話していたところでな。よかったらお前にも確認させてもらっていいか?」


「ああ、もちろん。じゃあ、こんなところで立ち話も何だし、俺の部屋に来るか」


 晴は自分の部屋の方を指し示すと、俺たちが答えるよりも早く、軽い足取りで先導していった。

 俺と雫は顔を見合わすと、どちらともなく顔がほころぶ。

 普通であれば、自分に疑いがかかれば嫌な顔の一つでもしそうなものだが、晴にはそれがない。

 俺は先程までよりも、ちょっとだけ軽い足取りで、その背中に付いていった。

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