8-8. 遠くから見つめるだけじゃ、もう足りない
(*未依沙視点)
体育館の空気は、
熱を帯びたまま揺れていた。
ボールが弾む音、バッシュが床を擦る音。
そのすべての中心に、かげちゃんがいた。
高く跳び、滑らかにトスを上げる。
瑠飛とのコンビが決まるたび、歓声が響く。
(視線を感じる。……未依沙だ。観客席のどこにいても、すぐわかる。)
大学に入って、ますますスターになっていく瑠飛。
でも、最近はかげちゃんのかっこよさにも、
まわりが急に気づきはじめたみたいだ。
それが、なんだか誇らしくて、
でも、少しだけ苦しい。
他の誰かがかげちゃんの
かっこよさに気づくのが、正直怖い。
かげちゃんの努力も、まっすぐな眼差しも、
わたしだけが知っていればいいのにって、
思ってしまう。
(目を逸らしたくても、逸らせない。いつも、未依沙の視線がどこかにある気がする。気づいたら、探してるのは俺のほうだ。)
中学の頃から見てきた。
倒れてもすぐ立ち上がる姿。
どんなに苦しい場面でも、
その瞳はボールから離れない。
まるで獲物を追う猫みたいに、
静かで、しなやかな動き。
かげちゃんのその全部が、
どうしようもないくらい好き。
ただ見つめているだけで、
胸が苦しくなるくらい、いっぱいになる。
(あの頃と変わらない。未依沙の視線は、俺に力をくれる。けど、……それ以上を望んじゃいけない。)
わたしの中で何かが少しずつ変わっている。
ただ応援していた頃とは違う。
もしこの想いを伝えて、壊れてしまったら――
そう思うと怖い。
けど…もう戻れない…
遠くから見ているだけじゃ、
足りなくなってしまった…
――あ。
激しいラリーの合間、
かげちゃんがふっと客観席を見上げた。
(目が合った。……一瞬だけ。でも、それだけで心臓が鳴る。こんなの、ただの仲間に向ける視線じゃないのに。)
もっとそばにいたい。
支えたい。
そして――
わたしのことを好きになってほしい。
小学生のとき、わたしを守ってくれたヒーロー。
あの日から、ずっと。
かげちゃんは、わたしの光の中心にいる。
眩しいその背中を見つめながら、
私の想いがどんどん溢れていく…
わたしは心の中でそっとつぶやいた。
――今日も、世界でいちばんかっこいいよ。




