8-7. すぐ近くにいる、遠い君へ
(✳︎未依沙視点)
朝、湯気の立つ台所で
炊きたてのご飯をほぐしながら、
手のひらで小さく丸める。
かげちゃんの好きな梅と鮭。
試合の前は、いつもおにぎりを
食べていたよね。
昔からずっと見てきたから、
ちゃんと知ってるんだよ。
今度、栄養学のことも
教えてもらえたらいいな。
どんなふうに体を作って、
何を意識してるのか――知りたい。
そして、ちゃんと支えられる人になりたい。
部員みんなの分を持って、
試合会場へ向かう。
体育館のドアを開けると、
熱気と声援がいっせいに押し寄せた。
「未依沙ちゃん、今日は差し入れ持ってきてくれたの? やったー!」
「お、未依沙、ありがとう!」
瑠飛や部員たちが明るく迎えてくれる。
「未依沙さん、お久しぶりです。」
昴くんもこちらにやって来て、
私の荷物を持ってくれる。
その輪の向こう、かげちゃんが
少し遅れてこちらに歩いてくるのが見えた。
(……みんなの中にいる未依沙を見ると、なんでこんなに胸がざわつくんだろう。)
(“みんなのため”の差し入れだって、わかってるのに。)
「未依沙ちゃんからの久々の差し入れ、めっちゃ嬉しい。いつもありがとう!」
主将の明るい歓迎に、
わたしも自然と表情が和んだ。
ふとかげちゃんを見ると、
少しだけ表情が硬いように見えた。
あれ? 疲れてるのかな。
『かげちゃん、今日も頑張ってね』
――そう声をかけながらそっと距離を詰めると、
うつむいていたかげちゃんがハッと顔を上げた。
(――いけない。せっかく来てくれたんだから、もっと嬉しそうにしないと。)
「ありがとう」
まわりの賑やかな声が、
一瞬だけ遠のいた気がした。
かげちゃんの口から出た『ありがとう』は
優しかったけれど、
どこかぎこちなかった。
わたしの胸の奥に、小さな不安が広がる。
(俺にだけ差し入れしてくれたらいいのに。俺だけを見てくれたらいいのに――。)
(そんなこと、思っちゃいけないのに。)
かげちゃんの笑顔の奥が少し痛そうで、
胸の奥がきゅっと締めつけられる。
――ねえ、かげちゃん。
あなたは今、どんな気持ちで笑っているの?
わたし、もっとあなたの近くにいたいよ。
どうすれば、あなたの心に近づけるのかな…




