8-4. タグの向こうのわたし
(✳︎未依沙視点)
わたしは最近、ひょんな出会いから
バスケ部にお邪魔するようになっていた。
至誠館大学はスポーツに力を入れている大学で、
バスケ部も聞いたところによると
関東圏で上位らしい。
バスケ部のバスケ部のスタッフの方が
怪我をしてサポートができないからと、
わたしは少しだけ関わらせてもらっていた。
マネージャーを一緒にやらない?
と声をかけてきたのは、小学校の同級生で、
大学で再会したたまきちゃんだった。
入学式の時に会って以来、
学部は違うけれど仲良くしていた。
しかも、今、たまきちゃんは
バスケ部の西条先輩に恋をしてて…
たまきちゃんの健気で
一生懸命なアプローチを見ていると、
可愛くて仕方なかったし、
わたしも応援したいと思った。
西条先輩と仲のいい林田先輩は、
たまきちゃんと西条先輩をくっつけようと、
いろんなアシストをしている先輩だった。
そんな林田先輩とわたしは、
意気投合&協力して、2人がいい関係になるように
さりげなく行動しているのだった。
バスケの時や、それ以外でも
林田先輩と関わっていくうちに、
林田先輩が本当にいい人だと感じていた。
林田先輩は、女の子への気遣いも
ノリも完璧で、共感力もすごく高くて。
なんだか、一緒にいてすごくお喋りが弾む、
気の合う女友達ができたみたいな
感覚だったんだよね。
そして、1番いいところは…
恋愛的な目でわたしを見てこないことだった。
わたしは、異性がわたしに好意がある…
と気づくことが多い。
中学時代の立川先輩のこともあって、
思わせぶりな言動はしないように心がけている。
男の人からそういう対象に見られるの、
あんまり得意じゃなくて……
いつも逃げたくなるんだよね…
そんなある日だった…
林田先輩、西条先輩、たまきちゃんと
どこかへ食べに行こうと計画を立てていた時、
林田先輩が急にカミングアウトしたのだ。
「たまきちゃんも未依沙ちゃんも、もしかしたら、気づいてるかもなんだけどさ、俺、男が好きなんだよね」
「え…そうなんですか?全然気づかなかったです。でも、なんで私たちに伝えようと思ったんですか?」
「未依沙ちゃんもたまきちゃんもすごくいい子だし、俺のこと、言ってもいいかなって思って。あと、もし仮に2人に好きな人がいたとしても、俺と仲良くしてることで誤解されたら大変だと思って。俺、2人のことは好きにならないから、安心してほしい」
笑顔だけど、声からは
真剣なことが伝わった。
西条先輩は知ってるみたいだったから、
私たちの様子を見ている感じだった。
「林田先輩、お伝えしてくださってありがとうございます。わたしは、どんな林田先輩も素敵だなって思ってます。」
わたしは思っていることを伝えた。
「先輩、話してくれてありがとうございます! 。正直、先輩のこと、女友達のように感じていたんですが、納得しました。先輩、本当に魅力的です!」
たまきちゃんもすんなりと受け入れていた。
✳︎
「あははは、あの2人、撒けたかな?」
グラウンド脇の小道まで、
林田先輩とわたしは走っていた。
急に 腕を引っ張られて、驚いたけれど、
たまきちゃんと西条先輩を
くっつけるためだとすぐに察した。
走り終わったあと、 初夏の風が髪を揺らして、
涼しく感じた。
あの2人、二人っきりにさせてきたけど、
きっと大丈夫だよね!
「あ、あれってバレー部だよね。未依沙ちゃん、バレー部ともつながりがあるんだよね?俺の学部の友達もバレー部でさ」
林田先輩の視線の先にバレー部がいた。
みんなでどこかへ向かっていくのが見えた。
ほんとだ、バレー部だ。
今日も、練習頑張ってるんだな。
瑠飛もかげちゃんもいつも通りだ。
二人の姿を見て、
なんだか誇らしい気持ちになる。
それにしても …
こんなに走ったの、久しぶりかもしれない。
わたしも運動しなきゃな…
「林田先輩、わたしも久しぶりにバスケしようかな…」
身長の高い先輩を見上げると、
「いいじゃん、未依沙ちゃんも一緒にしよう!」
さわやかな笑顔が返ってきた。
そんな表情を見ていたら、
わたしも伝えたくなった。
「林田先輩、わたし、実は男性から恋愛的に見られるのが好きじゃなくて…でも、林田先輩はそういうのが感じられなくて、人としても素敵で、一緒にいて本当に心地がいいです」
「未依沙ちゃん、ありがとう。嬉しい。未依沙ちゃんも、美人がゆえにこれまで苦労してきたのかな?」
そう言って、高身長の林田先輩が、
いたずらっぽく少し上体を折り曲げて、
わたしの顔を正面からじっと覗き込んできた。
ほんの一瞬、先輩の顔がぐっと近づく。
わたしを包み込むような優しい笑顔を向けられて、
胸にさわやかな空気が一気に入り込む。
わたしにとって、男性が好きな男性に会ったのは
人生で初めてだった。
でも、それはただのレッテルなだけ。
林田先輩はどんな先輩だったとしても、
人として本当に尊敬できる。
バスケ部で、出会えて、
こうやって仲良くしてもらえてよかった。
自然とはずむ足取り。
わたしは先輩と一緒に澄み渡った初夏の下、
翆嶺キャンパスを歩くのだった。




