8-1. その大型ルーキー、策士につき
(*)瑠飛視点
バレー部恒例の春のピクニックに、
未依沙も参加することになってるらしい。
ついさっき、そのことを知った。
バレー部のマネージャーの鏡胴先輩と未依沙は、
なぜか最初の方から意気投合している。
鏡胴さんが未依沙をうまく利用して、
部員のやる気を出させている節はあるが、
本人から聞いたわけではないから、
俺が勝手にそう思っている。
今回のピクニックも、”自然な流れ”で
未依沙も巻き込まれたみたいだ。
未依沙は毎日練習に来るわけではないが、
圧倒的な存在感を放っているし、
実際に差し入れも良くしてくれるから、
バレー部みんなから熱い信頼と眼差しを得ている。
まあ、本人はそんなものは微塵にも感じず、
ただ1人を見ているから、
客観的にみるとすごいものだ。
今日のピクニックも、
楽しく平穏に過ぎればいいが…
「さあ、レジャーシート広げようか」
広場に着いた部員たちは、シートを広げ、
折りたたみ椅子を出して、食べ物や飲み物が
どんどん中央に集められていく。
春の日差しが背中に照り付け、
汗をかくくらい暖かい。
バレー部はいつも練習があるから、
あまりお酒は飲まないんだが、
今日は昼間から飲んでもいい特別な日だ。
春リーグでの優勝を目指して、
みんなで飲んで食べて予祝をする。
ちゃんと大義名分を掲げているから、
この時だけは許されるみたい。
春の陽気、新学期、
気持ちが昂ぶってしまうのはよくわかる。
まあ、こんな時じゃないと
運動部ってお酒飲まないからな。
お酒を飲んでいる先輩たちや
入ったばかりの部員たちに視線を向ける。
新一年生はやっぱりまだ緊張している感じがする。
高校生の頃から、すでに練習に
合流しているメンツもいるが、大学が始まって、
そっちの生活に慣れるので精一杯そうにも見える。
でも、その中で1人、一年だけど
策士なヤツがいるんだよな。
何というか…俺と同じ空気感のやつ。
バレー強豪校からスポーツ推薦で入ってきた、
中塚昴。
身長が高くて、オポジットとセッター。
どちらのポジションもこなす、器用なやつ。
187cmでそれだから、これから
かなり重宝されるだろうな。
話してみるけど、何を考えているのか、
イマイチ掴めない。
良いやつそうではあるんだけど…
「瑠飛、これ広げるの手伝ってくれる?」
未依沙が俺に声をかけた。
「おう。でも、ちょっと待ってくれる?」
カラン
コロン
俺は飲み物を氷水に投入中だったから、
そう返事をした。
かげをチラッと見ると、他の奴らと
準備せずに戯れてるし…
こんな時に、未依沙のそばで
さっと手を差し伸べられたらいいんだけどな。
と、笑顔の”少年”を呆れながら見た。
「俺、手伝いますよ」
未依沙の頭越しに、長い腕がすっと伸びてきて
声をかけてきたのは昴だった。
「これ、錆びてて固くなってるみたいで」
「未依沙さん、サビで服が汚れたら大変なんで、俺がやりますよ」
「お!昴、ありがとう。助かる!」
ひょいっとキャンプ用の
折り畳みテーブルを受け取っていた。
昴ってイケメンで気が効くからモテそ〜と、
外野の俺は観察していた。
ごめんな、昴。
一歩引いたところから、
こんな風に分析してる先輩がいたら嫌だよな…
未依沙が助けてもらったから、
安心して俺は作業に集中し直そうとしたが…
「未依沙さん、何飲みます?」
昴と未依沙の声が聞こえる。
昴って、未依沙のこと、狙ってる…?
訳ではないよな…?
一瞬、そんなことも思ったが、
まだ始まったばかりだし、心配することないか…
とその時の俺は気楽に考えていた。
「未依沙さんって2年生ですよね?何学部なんですか?」
「わたしは理工だよ」
「うわ、めっちゃ頭いいですね!リケジョじゃないですか…すごいなぁ〜」
「ありがとう。中塚くんも、スポーツ推薦で入っててすごいじゃん。」
「いやいや、そんなことないですよ。あ、ところで未依沙さん、俺のこと”昴”でいいですよ」
「”すばる”って呼ぶの、難しいなぁ〜。いつも〇〇君ってみんなのこと呼んでるから。」
「でも瑠飛先輩のことはいつも”瑠飛”って呼び捨てですよね?あれ、もしかして、お二人が付き合ってること、俺だけ知らないパターンでしたか?」
2人が楽しそうに話している一方で、
かげのほうに目をやると、未依沙と昴の
仲良さげな様子に全然気づいていない…
こいつが嫉妬とかヤキモチやく日が
来るのだろうか…
俺はこの公園のだだっ広い芝生の遠くを
見つめたい気持ちになる。
「瑠飛!飲んでる?」
肩にぐいっと重みが乗った。
振り返ると鏡胴先輩だった。
「ノンアル飲んでます。ただ、今は人間観察を楽しんでます」
「瑠飛ってよく周りのこと見てるもんね〜」
やたらニヤニヤみのある顔で見てくる鏡胴先輩。
「なんですか?」
営業スマイルで聞くと
「誰のこと気になって見てるのかな〜って」
「昴のこと見てました。一年だけど、策士な感じがするなって」
「瑠飛と似たタイプだよね」
「やっぱ、先輩もそう思います?」
「うん、空気感が似てる。しかも、どちらもイケメンで世渡り上手な感じ」
いたずらっぽく話す鏡胴先輩は、
未依沙の周りで始まった楽しそうな空気感を
見守りつつ楽しんでいるように見えた。
「まあ、否定はしませんけど」
「こら、調子乗るな!」
かげは男子同士でワイワイ楽しそうだ。
お気楽なやつ…
このピクニックのどこかのタイミングで
昴と話したいと思った。
さりげなく話すきっかけを
俺は頭の中で何パターンも
シミュレーション した。




