7-6. 新しいベクトル
(*未依沙視点)
先輩の今井さんが注文をとっているのは、
なんと——瑠飛とかげちゃん!
バイトを始めたことは瑠飛に話したけれど、
まさか、かげちゃんと一緒に来るなんて
思ってなかった。
嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい……
でも、バイト先でかげちゃんを見られるなんて、
ラッキーだ。
今日、髪型かわいくしてきたっけ?
鏡で確認したいけど、そんな余裕はなさそう。
今井さんが戻ってくると、
頬がうっすらピンクに染まっていて、
目がキラキラしていた。
あ、これは……予想どおりの反応。
「ちょっと、上野さん!あのイケメン、知り合いなの?」
「はい、二人とも幼馴染なんです。」
「え〜羨ましい!あの子、ハーフだよね?」
「はい、ベルギーと日本のハーフです。」
「やっぱり!あんなイケメンが幼馴染なんて、好きになっちゃうでしょ?」
「うーん……好きにはならないですかね?」
(だって、わたしが好きなのは——かげちゃんだから。)
瑠飛のキラースマイルに
今井さんが見事にやられていて、
内心ちょっと笑ってしまった。
まさか先輩まで持っていかれるとは…!
恐るべし、瑠飛スマイル。
「わたし、飲み物持っていきますね。ついでに挨拶してきます。」
トレイを持つ手に自然と力が入ってしまう。
姿勢よく、慣れた感じで二人の席へ向かう。
来てくれたのは嬉しいけど、
働いている姿を見られるのは少し緊張する。
「瑠飛、かげちゃん。来てくれてありがとう。抹茶ソイラテはかげちゃん?」
かげちゃんはいつも抹茶ラテを頼むとき、
しかも豆乳にカスタマイズしてる。
他の誰が忘れても、わたしだけは絶対に忘れない。
「うん、俺。ありがとう。」
「こちら、パンプキンラテです。」
瑠飛のチョイス、意外とかわいい。
思わず微笑んでしまう。
「ありがとな、未依沙。バイトの制服、いい感じじゃん。バイトはどう?順調〜?」
さすが瑠飛。
自然と褒め言葉を差し込む。
(……かげちゃんはどう思ってるんだろう?)
気になるけど、
そんなこと聞けるわけない。
「瑠飛がパンプキンラテを頼むの、なんだか意外だった。あと、この制服のこと、ありがとう。瑠飛にそう言ってもらえて、安心した」
「バイトは楽しいよ。働いてる方も素敵な人ばっかりだし、よくしてもらってるよ。」
「そっか、それは良かったね。」
「あ、でも今ね、友達の紹介で忙しい時期だけ手伝ってるだけだから、3ヶ月限定のお試しみたいな感じなんだ! 」
本当は、もう少し話したかった。
でも、話しすぎたら
“特別”がバレちゃう気がして、急いで戻った。
片付けをしていると、
杉原先輩が声をかけてきた。
違う大学の3年生で、
前にお客さんにナンパされて困っていたときに
助けてくれた人だった。
「上野さん、お友達が来てたの?」
「はい、幼馴染なんです。」
「へぇ、仲いいんだね。あのハーフの子、かっこいいね。彼氏じゃないの?」
(で、出た……その質問。)
「いえ、彼氏じゃないです。」
「そっか。上野さんは、彼氏いるの?」
(……うわ、逃げ道がない。)
「いないです。」
「じゃあ、駅まで送るよ。暗いし。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。家、駅から近いので。」
「じゃあ、駅まで一緒に行こう。俺も帰るし。」
……かわしきれなかった。
断り切れなくて、先輩と駅まで
一緒に行くことになっちゃった、
(本当は、かげちゃんに送ってもらいたいのに。)
心がちょっと、モヤモヤした。
片付けに行くと、瑠飛が声をかけてきた。
「未依沙、今日のシフト何時まで?」
「あと15分であがりだよ。」
「家まで送ろうか?もう暗いし。」
うう……!タイミング悪すぎる。
先輩に送ってもらうことになってる、
なんて言いたくないのに——。
「あ、えっと……バイト先の先輩が送ってくれるって言ってて。でも、ありがとうね。」
(言っちゃった……!もっと他の言い方すればよかったけど、思いつかなかった…)
かげちゃんに誤解されたらどうしよう。
なんでわたし、いつも正直すぎるの……。
「オッケー、じゃあ気をつけて帰れよ。俺たちもそろそろ帰るか。」
「そうだな、未依沙、お疲れ。」
「ありがとう。瑠飛、かげちゃん、またね。」
笑顔で送り出したけど、
胸の奥では小さな不安が渦を巻いていた。
——わたし、うまく笑えてたかな。




