7-4. 涙っぽいのは、春のせい
(✳︎未依沙視点)
大学が始まって1週間、
自分で専攻する授業を決めて
実際に行ってみて…
こんなに主体的に動くんだ…
忘れてることはないか、
抜け漏れはないか、
わたしはとにかく必死だった。
最後の授業が終わるのは18時。
それから学校に残って課題をしたりしていると、
いつの間にか20時になっている日もあった。
理工の校舎からでると、隣の体育館から
バレー部の声やボールの音が聞こえてくる。
今日こそは、バレー部を観に行くぞ…!
と思っても、その一歩が
なかなか踏み出せなかった。
私、部員でもマネージャーでもないし
練習を見に行ったら変かも…?
もし行くとしたら、
どこから入るのが正解…?
理工の校舎の横に体育館だから、
『いつでも行けるじゃん!』って
今週の初めは思ってたのにな…
もう1週間が終わってしまう。
時間が経つのが早すぎるよ…!
今日こそ、その殻を破るんだ…
体育館の方へ歩こうと思った矢先、
後ろから急に名前を呼ばれた。
「おーい、未依沙〜!」
ジャージ姿の瑠飛だった。
「瑠飛!何してるの?練習は?」
「いや、忘れ物取りに行ってた」
「未依沙は?今から帰るところ?」
「いや、実は…バレー部の練習を観に行こうかな?って思ってたところだった。」
「マジ?練習見にきてくれんの?大学は、高校とはまた違った雰囲気だから、みてみて」
はぁ…瑠飛がいて良かった。
1人で行くより、何十倍も心強い!
「大学の春リーグに向けて、練習頑張ってるんだ」
瑠飛が嬉しそうに話す。
その姿を見て、私の心も
自然と弾むみたいだった。
体育館に入ると、男子バレー部だけが
トレーニングに使っていた。
そして、ちょうど休憩中みたい。
「あれ〜?瑠飛?彼女連れてきたの?」
バレー部員たちが一斉に
私たちの方に興味の目を向けてくる。
「未依沙は俺の幼馴染。かげと3人で、小学校からずっと同じ学校に通ってる」
「あ〜、前言ってた幼馴染って、この子のことだったのか〜」
「小学校からずっとって…それ、すごすぎだろ」
背の高い男子部員たちに囲まれて、
ものすごい圧迫感……!
「はーい、休憩終わりです。練習再開します」
マネージャーさんは女性みたい。
はっきりと通った声で呼びかけている。
そのマネージャーさんが、ひょいひょいと
手招きをするから、そちらへ向かった。
「えっと、瑠飛くんの幼馴染さん?名前は何て言うのか、もう一回聞いてもいい?」
「はい、上野未依沙です。えっと…先輩ですか?」
同い年ではなさそうだったから、
聞いてみたら
「うん、わたしは2年生。鏡胴叶和。もしよかったら、ここで練習観ていって。多分、部員の士気が上がるから」
最後、ニコっと微笑む顔を見て、
私はこの人好き!と思ってしまった。
わたしは初めて会う女性から、
敵対視される時があるけれど、
叶和先輩は優しくて良かった…
ふぅーっと胸を撫で下ろす。
よかった、ここは居心地が良さそう…。
高校でも、男子の部活は結構
和気あいあいとしている感じがあった。
練習の様子を見てみると、大学だと、
より一層それを感じる。
あまり、学年の隔てを感じない。
あと1週間で春リーグと言っていたけれど、
焦っている感じもなかった。
1年生の2人はまだ試合には出ないのかな?
コートの中では瑠飛もかげちゃんも、
伸び伸びとプレーしている感じがした。
良かった…
2人とも、いい環境を選んだんだ…
高校の終わりごろは
自分の合格のことで必死だった。
でも、2人のバレーのことも、
いい環境だったらいいなって思ってた。
どちらも報われたからかな…?
急に視界が潤んで、コートの
緑色の輪郭がぼやける。
慌ててまぶたを強く閉じ、
こぼれないように、ぐっと押し返した。
(……ダメ。今泣いたら…急に泣き出す、めっちゃ変な人になっちゃうよ…)
鼻を小さくすすって、私はコートに
もう一度目を向けた。
練習の途中で瑠飛がこっちへ走ってきた。
「未依沙、あと15分くらいで部活終わるから待ってて。送るから」
「うん、わかった。ありがとう」
そのやり取りを見ていた叶和先輩が
「ん?」と興味津々な目を向けてきた。
「いえ、そんなんじゃないですよ」
わたしは再び、コートに目を向ける。
やっぱり、自然と視線がいってしまうのは
かげちゃんだった。
あ、笑ってる。
すっごく楽しそう。
その姿を見るだけで、
また鼻がツーンとした。
今日は、なんでこんなに涙っぽいんだろう…
わたし、ちょっと疲れてるのかな?
✳︎
部活が終わり、着替えた瑠飛と
かげちゃんが出てくる。
荷物を持って立ち上がると
「さぁ、行くか。あ、未依沙、夜ご飯食べた?まだだったら3人で食べ行かない?」
「行くー!」
瑠飛とかげちゃんの大学生活に、
わたしも入れてもらえた気がして嬉しかった。
「未依沙の好きそうなラーメン屋さんは?」
かげちゃんがわたしの方を向きながら、
瑠飛越しに聞いてきた。
「いいね〜!わたしの好みを知ってるとか、かげちゃん流石だわ」
「未依沙、ラーメンにはやたらうるさいからな」
部活の練習の後なのに、
こんな笑顔を見せてくれるんだ…
嬉しすぎる…
あれ?瑠飛、なんか静かじゃない…?
ふと、瑠飛に視線を向けると、
なぜかウインクが返ってきた。
本当、外国人の血が入ってる人って
こんな自然にウインクできちゃうものなの?
「かげ、未依沙のことわかってんな〜」
瑠飛は1人、なんだか楽しそうだし。
その様子を見てくすっと笑いながら、
この3人で同じキャンパスを歩けることに
幸せを感じた。
思いっきり吸い込んだ空気は
春の温かさと匂いがした。




