6-9. 知ってしまった
(✳︎景虎視点)
今日は春高の県予選。
1日目が終わり、水流高校は
明日の試合に向けて気持ちを切り替える。
そんな中、3年の鎌田が
「ちょっと抜けてくるわ」
と言って、どこかへ行った。
俺たちの部活は、どこかへいく時は
必ず誰かに言うことが
ルールになっている。
というのも、以前、
1人いなくなってそれが
問題になってしまったからだ。
ルールを守ってるし、
勝手にいなくなったりしないから
助かるんだけど、抜けてくるってどこに?
普段はそんなに気にしないと思う。
でも、その時の俺は、
なぜか無性に気になってしまった。
「なぁ、瑠飛、鎌田が抜けるって、どこに行くんだろうな」
「そりゃ…密会だろ」
お茶目な顔を向けてくる瑠飛。
俺は「は?」と固まってしまった。
「密会っ…?!」
「3階に行ってみろよ。誰もいないから、密会してる人いるぞ」
「は?なんだよ、それ!てか、瑠飛はなんでそんなこと知ってるんだよ」
「いや、有名な話だろ」
さも、普通のことのように話す。
どこが有名なんだよ。
3年の今になるまで、
俺は何も知らなかったぞ…?
「最近、鎌田、結構気合入ってるって俺は感じたけど、その元気の源をかげも知りたくないか?」
「お前、他人事だと思って楽しんでるだろ」
瑠飛の目が非常に輝いて見えるのは、
俺だけだろうか…?
というか、密会って…
女子と男子が会ったりしてるってことだよな…?
これからもバレーの試合が続くのに、
女子にうつつを抜かしてるなんて…
余裕すぎる…!
俺にはそんな余裕なんてないのに!
いや、でも、その逆か?
その相手がいるから、
試合を頑張れるってことか…?
「かげ、そんなに気になるなら、3階見てくれば?頭の中でフル回転してるの、見え見えなんだよ」
「いや、見るのはダメだろ」
瑠飛は俺の様子を見て、
ニヤニヤしている。
くそっ!
なんでコイツはこんなこと知ってるんだ。
見る限り、ほぼ俺と一緒にいて、
浮ついた感じはないのに。
瑠飛って、本当に周りの人をよく見てるよな。
そして、無駄に察しがいい。
でも、俺に対しては遠慮なくガン見かよ…!
瑠飛の目線に気づかないフリをして、
俺はそのままストレッチをしようと
場所を移動した。
歩きながらふと考えた…
もし、俺にそんな女子がいるとしたら…?
バレー部の女子って誰がいたっけ…?
同じ学校の女バレのメンバーを
思い浮かべたけど、そんな相手はいなかった。
いや、でも、大会で会うってことは、
他校の女バレってことだよな…
あの学校のエースは
可愛いって有名だけど……
いや、なんか違うな。
数人の顔は浮かんだけれど、
特に関わりもなかったし、
密会する関係は想像できなかった。
ま、俺にはそんな人いないよな。
この思考をやめようとした瞬間、
未依沙の顔がふっと浮かびあがった。
自分でもびっくりだった。
なんで今、未依沙のことを
思い出したんだ…?
そもそも未依沙はバレー部じゃない。
今の大会も観に来てない。
今は受験一直線だ。
もし、未依沙がバレー部だったら…
3階の誰もいない客席で2人で会って、
話したりするのかな…?
3階への階段を上がるにつれて、
ほとんど人がいなくなっていく。
ガランとした客席に
ポツリと1人の女の子が待っている。
俺の顔を見た瞬間、パッと光がさすような
笑顔を見せてくる。
俺が近づくと、いつもの声で
「さすが、かげちゃん!」
って言ってくれるのかな…?
その一言で次も頑張ろうって心底思える。
いや、同じ学校だから、
きっとそんなことはしないよな。
でも、未依沙に会うと、頑張ろうって、
そんな気持ちになるだろうな。
心にすっと温かい光が差し込むみたいだった。
未依沙は受験を頑張ってる。
俺は、バレーに集中しよう。
明日も、未依沙に恥じないプレーをしよう。
未依沙の存在って偉大だな…
この大会にいないし、
バレーには関係ない人なのに、
俺にこんなに力をくれるんだからな。
ふっと笑みが溢れた。
俺は、足取りが軽やかになって、
目的の場所へ向かった。




