6-2. バレーの秘密の特訓
(*未依沙視点)
一緒に公園にやってきた。
バレーボールをカバンから出して、
オーバーハンドパスの仕方を教えてもらう。
放課後の風が少し冷たくて、
木の葉がカサカサと音を立てた。
「手の形はね、三角を作るんだ。」
「こう?」
「そうそう。この形をつくると、肘の形が綺麗になるんだって。」
「そうなんだ!三角の形にするって言うのは聞いたことあったけど、理由がわかると忘れにくいね!」
やってみるけど、なかなかうまくできなかった。
「未依沙、ちょっと待って。」
パスをやめてわたしのところへ来ると、さっと手を取られた。
わたしは急に手を握られてドキッとした。
「手、痛くない?無理してない?大丈夫?」
わたしの指を触りながら優しく聞いてくる。
「痛っ、その動き痛いかも…」
「最初の方は感覚が掴めるまで突き指しやすいんだ」
わたしを心配するかげちゃんを横に、
わたしの心臓がうるさく響いている。
かげちゃんの無自覚な優しさに
ときめいている。
向かい合って立って、手を取り合って、
まるで私たち…と自意識過剰な自分に
恥ずかしくなる。
「痛みが出てる時は無理に練習しないでね。」
かげちゃんの言葉で意識をグッと元に戻した?
「アンダーパスなら指を使わないから練習できるけど、どうする?それとも、今日はもうやめておく?」
トスの練習がすぐに中止になったから、
想像以上に一瞬の練習になってしまった。
まだ一緒にいたいって、わたしのわがままかな。
「せっかくだから、少しだけ練習していい?」
「俺は全然いいよ」
そう言ってわたしの横に立つと、
手はこうやって組むんだよ。と見せてくれた。
でも、わたしのやり方がイマイチだったのか、
かげちゃんはわたしの両手を掴みながら
角度を教えてくれた。
彼の制汗剤?の匂いが風に乗って
ふわりと鼻をかすめて、特別な気分になる。
「ちょ、ボール飛びすぎた!」
「あはは、でも今の角度は完璧だったよ」
楽しく練習をしながら
「腕はこんな感じで…」
「顎は腕の中に埋める感じで…」
丁寧にわかりやすく教えてくれる姿に
惚れ惚れしてしまう。
球技大会の種目、バレーにして良かった。
教わっている最中、スキンシップがある度に
わたしの胸は高鳴っていた。
「そろそろ練習も終わりにしよっか。」
そういってかげちゃんは
わたしの腕を優しく掴んだ。
「……あ、やっぱり赤くなってる」
手の力、声、視線から、
かげちゃんの優しさが滲み出ていて、
なんだか大切にされてるみたいで嬉しい。
「家に帰ったら、手を冷やしてあげてね」
景虎先生の秘密の特訓は、
トキメキいっぱいの時間だった。
しかも、帰りは自転車で家まで送ってもらった。
至れり尽くせりで、
わたしもなにかお返しがしたいと思った。
「今日はありがとう。景虎先生から学べる貴重な時間でした。練習がんばりたいけど、ボールがないなぁ。休み時間に体育館に行ってやろうかな」
「ボール、俺のを借そうか?」
「いいの?ありがとう。本当に助かる。ここまでしてもらったんだから、上手くなりたいな。」
「未依沙は何事も一生懸命で頑張り屋さんだから、すぐに上手くなるよ」
わたしのことを一生懸命で頑張り屋さんだと
思ってるんだ、なんだか嬉しいな。
かげちゃんの言葉に胸があたたかくなる。
「ありがとう、かげちゃん。あのね、たくさん助けてもらってるから、何かお礼したいんだけど、何かわたしにできることある?」
「お礼なんていいよ、未依沙がバレーを楽しくやってくれることが俺も嬉しいから」
屈託なく笑うかげちゃんを見て、
胸がギュッとなった。
あぁ、かげちゃんの笑顔が好きだな。
わたしに向けられていることに幸せを感じた。
わたしはふといいアイデアを思いついた。
「ねぇ、かげちゃん、わたしがお弁当を作って持っていくのはどう?」
「え?お礼にってこと?」
「そう!お願い」
お礼を受け取ってもらえるように
お願いしてる姿が、自分で面白く感じる。
わたしが笑いながら手を合わせてお願いすると
「むしろいいの?大変じゃない?俺はめっちゃ嬉しいけど」
めっちゃ嬉しいんだ!
じゃあ、作りがいもある!
「喜んでもらえるように、わたしも頑張って作るね。楽しみにしてて。お弁当作る日が決まったらメッセージするね」
「ありがとう。今日は遅くまでありがとうね、ゆっくり休んでね。じゃ、また明日」
チャリを漕ぐかげちゃんの後ろ姿が
見えなくなるまで、わたしはずっと見ていた。
わたしにとって第一歩を踏み出せた気がした。
お弁当を作るって、やってみたかったんだよね。
わたしはニヤニヤが止まらなかった。
きっと、これは“ただのお礼”じゃない。
でも、今はまだこの気持ちは
自分の中で止めておこう。




