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一番近くて、一番遠いーネット越しの恋を、君とー  作者: りなる あい
第五章:越えられない距離と心の熱

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5-14. 胸の奥につっかえたもの

(✳︎未依沙視点)


その日、私はなかなか寝つけなかった。

こんなふうに神経が張りつめたまま

一日を終えたのは、人生で初めてかもしれない。


もし、かげちゃんが告白にOKをしていたら――


考えないようにしているのに、

頭の中の想像は勝手に広がっていく。

しかも決まって、いい未来じゃなく、

嫌なほうばかりだ。


かげちゃんはバレーの選抜に選ばれて、

チームはもう来年のインターハイを見据えて

動き始めている。


きっと恋愛なんて後回しにして、

これからは本当に、部活一筋の毎日になる。


そう思うと、胸の奥が少し重くなった。


でも…恋は三つのingだと、

英語の先生が言っていた。


feeling

timing

happening


この三つが重なったとき、

恋は始まるのだと。

誰にもコントロールできない。


二人の間で何かが起きたとしても、

それを私は知ることすらできない。


幼馴染で、今までいちばん近くにいるのは

きっと私なのに…

物理的な距離とは裏腹に、

心の距離の縮め方がわからないまま、

ここまで来てしまった。


……ダメだ。


やっぱり眠れない。

私は布団の中で丸くなり、

自分の呼吸だけを意識した。


吸って、吐いて。

その繰り返しのうちに、

いつの間にか意識は遠のいていた。



✳︎



「未依沙、部活お疲れ〜」


「あ、かげちゃんこそ。お楽しみ様」


私はわざとゆっくり帰る準備をして、

バレー部が終わる時間を見計らって部室を出た。


「今日、バレー部、練習長かったね」


「技術磨きに体力作り。今の時期は大忙しだよ」


「そっか。大きな大会も控えてるもんね」


「バスケ部、今日は早く終わったんじゃないの?」


「うん。部室の掃除してたの。ちょっと気になっちゃって」


「未依沙、えらいな〜。俺らもそろそろやらないとな」


並んで歩きながら、私はずっと、

昨日のことを切り出すタイミングを探していた。


「あ、あのね……かげちゃん」


自分の声が、少しだけ上ずったのがわかる。


「私、昨日……辻口さんの話、聞いちゃって」


「え?!」


かげちゃんの足が、ほんの一瞬止まった。


「聞いてたの?」


「練習中、ちょっと頭が痛くて……体育館の壁にもたれて休んでたときに。辻口さんとお友達の会話が聞こえちゃって……」


「あぁ……そっちか」


かげちゃんは、

はっきりわかるほど息を吐いた。


その仕草を見て、胸の奥がちくっとした。

そんなに、聞かれたくなかったんだ。


(え……? 聞かれちゃ、困ることあった?)

って冗談っぽく言いたいけど、

それも良くない気がして…


「…昨日、何かあった?」


わたしは、控えめに聞くので精一杯だった。


「……いや、別に。俺の勘違いだったから、気にしないで」


その言い方、逆に気になるよ…


「辻口さん、告白……するのかなって思ったんだけど…」


沈黙。

冬の空気が肺に入り込んで、

少しだけ息がしづらくなる。


「……うん。告白された」


やっぱり。


わかっていたはずなのに、

直接聞くと全然違った。


足が急に重くなって、

一歩踏み出すたびに地面に沈むみたいだった。


「そっか……辻口さん、勇気あるね」


言葉は、ほとんど独り言だった。

尊敬も、羨ましさも、全部混ざっている。

怖くても結果を引き受けて、

気持ちを伝える。


私は、それができていない。


「クッキーくれたりさ。話しかけてくれてたし……好意には気づいてたんだけど、まさか告られるとは思ってなくて…」


言葉を選ぶみたいに、

かげちゃんの声が少し途切れる。


「俺、不器用だから。バレーも恋愛も、両立できないと思うんだ。絶対、相手に迷惑かける」


迷惑をかけるから、付き合わなかった。

バレーがなければ……?

そんな考えが一瞬よぎって、

心臓が強く音を立てた。


「……それで、付き合わなかったんだね?」


「うん。今は、バレーに集中したい」


安心するはずの言葉なのに、

私の心は全然落ち着かなかった。


可能性は、確かにあった。

恋愛に進む道は、目の前に用意されていた。


でも、かげちゃんは今のタイミングだったから、

それを選ばなかったんだ…

その一言が、胸の奥に深く刺さった。


その事実を噛みしめながら、

同時にふっと浮かんだ考えがあった。



――私は、かげちゃんの邪魔をしちゃいけない。



自転車で途中まで一緒に帰ったけれど、

そのあとの会話は、ほとんど覚えていない。


ただ、冬の夜空だけがやけに澄んでいて、

星を見上げながら、

眠れない夜がこれ以上続かないようにと、

わたしは静かに祈った。


次は第5章の最終話です!

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