5-12. お願い…
(*未依沙視点)
「はぁ、勇気が出ない、怖い」
「そうだよね、わかるよ。」
「でも言うって決めたから」
「ちさ、偉いよ!応援してる!頑張って」
——聞いてはいけないものを聞いた気がした。
多分、この声は辻口さんだ。
かげちゃんに恋をしている女の子が、
告白するための勇気をためている。
辻口さんたちの声が遠ざかり、
体育館の壁に背中を預け、
私は一人で座り込んでいた。
バッシュがキュッとこすれ、
ボールを叩く音だけが虚しく響くみたいだった。
今日は女の子の日で、朝からずっと頭が重い。
少しだけ休ませてもらっているところだった。
卓球部は、今日は早く終わったのかな。
……辻口ちさちゃん。
かげちゃんのことが好きな子。
やっぱり、気になって仕方がなかった。
知らなくていいことまで、
いろいろ調べてしまった。
今の会話の流れ的に、たぶん
——今日、告白する。
告白するって、すごいことだと思う。
とても勇気のいることだし、
その行動力は素直に尊敬する。
……でも。
かげちゃんがOKしたら、どうしよう。
生理の頭の重さに、その想像が加わって、
不安が一気に押し寄せてくる。
胸の奥がぎゅっと苦しくなった。
OKしないでほしい。
誰とも付き合ってほしくない。
そんなこと、言える立場じゃないのに。
息を吸ったはずなのに、
肺に空気が入ってこない気がして、
私は無意識に胸元をぎゅっと握りしめていた。
辻口さんが流血するほどの怪我をしたとき、
かげちゃんは、お姫様だっこで
保健室まで運んだらしい。
……お姫様だっこ、できるんだ。
私が体育館で滑って転んだ時だって、
上半身裸のまま、迷いもなく
お姫様だっこしてくれたのに。
あの時、
私だけ特別なんだって、勝手に思ってた。
それを、辻口さんにもしたんだ。
胸の奥で、どろっとした感情が渦を巻く。
嫉妬だって、自分でもわかる。
いろんな感情が一気に押し寄せてきて、
体育座りで思わず顔をうずめた。
この感情をどうすればいいのか、
わからなかった。
かげちゃんが告白されたら、
どんな顔をするんだろう。
どんな声で、返事をするんだろう。
考えたくないのに、考えてしまう。
——私、今こんな気持ちなんだ。
自分が告白する時って、
きっとこんな感じなのかもしれない。
そわそわして、落ち着かなくて、
心も身体も、どこにも居場所がないみたいだった。




