5-10. テスト期間なのにテストに集中できません
(*瑠飛視点)
いよいよテスト期間がやってきた。
部活が1週間休みになり、
有り余った体力を勉強に注ぐ…
はずの期間なのだが、
そう簡単にエネルギー変換はできそうにない。
俺とかげは2人で図書館へ行き、
目の前の課題と戦っていた。
図書館なんて普段から行くやついるのか?
と思ってしまうが、かげは意外と読書家だ。
本を読むことが苦ではないタチらしい。
図書館とは全くの縁のない俺だが、
テスト期間だけはいつもお世話になっている。
放課後になると急いでやってきた俺たちは
窓際のテーブルを陣取った。
2人で教科書を広げ、まずは課題をやっつける。
「後田先輩」
俺が顔を上げると辻口さんとそのお友達が
かげの近くに来ていた。
「辻口さんたちもテスト勉強?」
「そうなんです。ただ、席が空いてなくて…もし可能でしたら、ご一緒してもいいですか?」
「あ、ここね。うん、いいよ。」
周りを見ると、図書館は
生徒でいっぱいになっていた。
課題に必死すぎて気づかなかったが、
俺たちは2人で4人テーブルを独占していた。
俺とかげは散らばった教科書を
急いで片付けてスペースを作った。
「ありがとうございます。」
「やったね!」
2人の女子は嬉しそうに席に座った。
かげはそのあとすぐに勉強スイッチが入り、
もくもくと課題をこなしていた。
こいつの集中、俺にも分けてくれよ…
チラッと前に座る女の子を見ると、
その子と目があった。
俺はニコっとしてまた教科書に視線を戻す。
あとで、この子の名前聞こうっと。
一度伸びをして再び集中力を手に入れ、
手をひたすら動かした。
✳︎
ふと気がつき時計を見ると、
30分ほど経っていた。
あ、未依沙も図書館で勉強してるのか。
未依沙が友達と歩いているのが見えた。
俺の視線に気付いたのか、
さっと俺の方に顔を向けた。
ひらひらと手を振ると、
そのままこっちへ向かってきた。
「やほ!」
「おーっす!」
未依沙に返事をすると、かげも顔を上げた。
「よ。未依沙もテスト勉強?特進クラスは大変そうだな」
かげは手を止めて顔を上げた。
「スポーツ特化の方が大変だよ。いつも部活に一生懸命なんだもん。はい、これ差し入れ。」
グーの手をパッと出されたから、
手のひらを出して待つと、
未依沙の手から飴ちゃんを渡された。
「あ、これ、俺が好きな飴。ありがと」
かげの好物を知ってる未依沙も、
それを当たり前のように受け取るかげも、
天然でやっちゃってるのがヤバいな…
「一緒に勉強してるの?」
首をかしげながら質問してくる。
未依沙は俺たちの前に座る
女の子たちのことが気になるみたいだ。
「他の席がなくて、一緒に座って勉強してるだけだよ」
かげが言うことは正しいんだが、
辻口さんはかげと一緒に座りたかったんだと思うぞ!
と心の中で1人ツッコミをいれた。
「そうなんだ。あの、もしよかったらどうぞ」
ニコッと笑って、未依沙は
後輩2人にも飴を渡している。
後輩2人は、少し
安心したような力の抜けた表情だ。
「ありがとうございます。いただきます。」
2人の後輩は礼儀正しく飴を受け取っていた。
「かげちゃんこの問題、ぐるぐる書いてあるけど、わからないってこと?」
「うん、解説見たけどよくわかんなくて…」
「これ、私も最初難しかったんだけどね…」
未依沙がかげに解説を始めた。
かげのノートに書き込みをしながら
丁寧に説明している。
しかも、肘が触れ合う距離で。
多分、未依沙は優しいから教えてる。
でも、今回に限っては
他の意図もあるんじゃないか?
未依沙の言動を少し疑ってしまう。
この前、辻口さんの登場で焦っていた姿を思い出し、
俺の思考が回転し始める。
辻口さんは視線を落とし、勉強しているが、
きっと意識は2人に向いている。
こういうの、すぐ分かっちゃうんだよな。
視線を感じるな…
ノートから目を離して顔を上げると、
目の前に座っている後輩と
また目があったから名前を聞くことにした。
「名前、なんて言うの?」
「わ…わたし、二股っていいます」
急に俺が声をかけたら少し驚いている。
「フタマタ?漢字はなんで書くの?」
「男女の二股の二股です」
「へぇ、珍しい苗字だね」
「はい、でも二股ってからかわれることが多くて…あまり好きでないんです。」
「そうなんだ。じゃあ、下の名前は?」
「ゆきなっていいます。」
「そっか、ゆきなちゃんか。俺は…」
「マルセル先輩ですよね。カッコいいって有名なので名前知ってます」
「そっか。なんか照れるな。ゆきなちゃん、よろしくね。」
俺は一瞬だけ視線を落として、
教科書の文字を追うふりをした。
そんな会話をしていたら、
未依沙の解説が終わったところだった。
「未依沙、すっごくわかりやすかった。忙しい時に、ありがとうね」
「いえいえ。わからないところがあったらいつでも聞いて。わたし、あそこらへんに座ってるから」
とんとんとかげの肩を叩いて、
座っている方向を指差す未依沙。
さりげないな。
でも、かげは鈍感だから多分気付いてない?
最後にチラッと俺たちを見た未依沙の目には、
敵意は感じなかった。
後輩への牽制かと思ったのに…
未依沙はただ、いつも通り、
かげに勉強を教えてるだけだった。
この余裕というか、天然というか…
未依沙の底知れない存在感を感じた。
はぁ…
テスト期間が無事に終わりますように。
ボールが床に弾む、あの乾いた音を
頭の奥に追いやって、
俺はバレーをしたい気持ちをぐっと沈めた。




