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一番近くて、一番遠いーネット越しの恋を、君とー  作者: りなる あい
第五章:越えられない距離と心の熱

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5-5. これは拷問か?!

(✳︎景虎視点)


「お次の方どうぞ~」


「何名様ですか?」


「二人です」


最大4名まで対応している

“アトラクション”。


2名ってことは俺は休みだな。


そう思って横にずれようとした瞬間、

急に腕を掴まれた。

誰だよ、と思って掴まれた方を見ると、

なぜか少しニヤついた瑠飛の顔があった。


「行くぞ」


小さい声でささやくと、

そのままスタンバイの位置へ向かう。

乗せるお客さんを見ると、

それは未依沙だった。


昨日、ステージから落ちる未依沙を、

危機一髪のところで抱きとめた。

そのあと、急に抱きしめられたかと思ったら

「ごめん」と言って走り去った。


その光景が、頭の奥から一気に引きずり出される。


目の前の未依沙も、俺と同じように

一瞬動きを止めていた。


視線が合い、ほんの一拍の沈黙が落ちる。

だが、アトラクション開始の音楽が鳴り響き、

俺は反射的に背筋を伸ばした。

考える前に、体が業務モードに切り替わる。


「未依沙、座って」


「うん」


座ったことを確認し、

椅子を押して所定の位置へ移動する。


「かげちゃん…昨日は、ありがとう…」


未依沙が少しだけ後ろを向いて話したタイミングで、

スターウォーズのテーマ曲が流れ出した。


「未依沙が怪我しなくてよかったよ」


俺は、前を向いたままの未依沙に伝えた。


「なになに、何が始まるの?」


未依沙の友達の声は、

期待で少し上ずっている。

はしゃぐ友達につられて、

未依沙の表情もぱっと明るくなった。


――いつも通りだ。

安全第一で、全力で操縦するだけ。

曲の合図を待ち、俺と瑠飛は同時に発車した。

右へ、左へ。

途中で回転を入れる。

何度もやってきた動きのはずなのに、

指先に力が入りすぎているのがわかる。


「きゃー」


「落ちそう!」


そんな声が遠のいて聞こえてくる。


次の瞬間、

シュッという音と一緒に、

細かい水しぶきが空気を切った。


「冷たっ!」


未依沙の友達が声を上げ、

未依沙も一瞬肩をすくめる。


照明に反射した水滴が、きらっと弾けて落ちた。

俺の手元にも、霧みたいな水がかかる。


冷えた感触が指先に残るのに、

なぜか頭はまったく冴えなかった。


くそっ……


未依沙の髪が揺れるたび、

水と一緒にシャンプーの香りがふわっと鼻をかすめる。

これまでも、女子の匂いを感じたことはある。

なのに、未依沙のそれは、

胸の奥に小さな波を立てる。

何度か嗅いだことのある香りを、

体のほうが先に覚えているのかもしれない。


――集中しろ。


そう自分に言い聞かせ、視線を戻すと、

未依沙は本当に楽しそうに笑っていた。


「かげちゃん、落ちちゃうよ!」


力を込めて椅子を押した瞬間、

未依沙が不意に後ろを向いた。


近い。

思ったより、ずっと。


視線がぶつかり、呼吸の間まで伝わってきそうで、

喉がきゅっと鳴った。

心臓が一瞬、強く脈打つ。


だが、止まっている暇はない。

アトラクションはまだ動いている。


未依沙は椅子にしがみつくのに必死で、

俺の変化なんて気づいていない。


……文化祭マジックってやつか。


そう片付ける頃には、音楽も終盤に差しかかっていた。

アトラクションは無事に停止した。


椅子から降りた未依沙が、ぱっとこちらを向く。


「すっごく楽しかった。かげちゃんありがとう」


頬を少し染めた、満面の笑み。


「どういたしまして。楽しんでもらえてよかった」


「またね、かげちゃん」


手を振って去っていく――かと思ったら、

少し飛び跳ねるように戻ってきた。


「言い忘れてたんだけど、わたし、ステージ発表があるの。見にきてくれる? 14時から第二体育館」


音楽に紛れないよう、

少し距離を詰めて話してくる。


「ねぇ、瑠飛も来てよ! わたしたちダンスするから」


「わかった、いく」


ちょうどその時間は担当から外れている。


「もちろん。応援で名前呼ぶわ!」


瑠飛がいるなら、安心だ。

あいつはこういう場を盛り上げるのが得意だから。


「やった! 2人とも来てくれるんだって」


「嬉しい! 頑張ろうね。また後で」


未依沙と友達は、並んでクラスを出ていった。


「さあ、俺らも休憩するか」


瑠飛と廊下を歩きながら、ふと考える。

……なんであいつ、俺に未依沙を任せたんだ。

さっき、確かにニヤっとしてなかったか?


額に浮いた汗を拭うと、秋の空気が肌に心地よかった。




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