4-12. ずるいよ、かげちゃん
(*未依沙視点)
かげちゃんとのお出かけは、
夢だったのかな?
まるで現実に引き戻されたみたい。
でも、夢じゃないって教えてくれるのが——
いつも筆箱に揺れてる、カピバラのマスコット。
あの日の笑顔も声も、ちゃんとここにある。
かげちゃんは、部活のカバンにつけている。
それを見つけるたびに、
胸の奥がふわっと温かくなる。
わたしはたくさん考えた末に
筆箱につけることにした。
いつも見えるけど、誰にも気づかれない場所。
——本当は堂々と見せびらかしたいのに。
恋って、難しいな。
✳︎
お揃いの幸せに浸っていたのに、
ここ数日、胸がざわざわする。
今日もいつもどおり、部活へ向かう途中——
視線の先に、見えてしまった。
バレー部のマネージャーさんが、
かげちゃんと話している。
まただ。
この光景、何度目だろう。
マネージャーさんだから仕方ないって、
頭ではわかってる。
でも心が、勝手に焦ってしまう。
彼女はいつも、かげちゃんのすぐ隣にいる。
距離が近い。
それだけで苦しくなる。
スポーツ科のかげちゃんとは、
日中あまり会えない。
だから、部活の合間にチラッと見るその時間が、
わたしの小さな楽しみなのに——。
瑠飛が、ちらっとこっちを見た。
何その目。
(なに?何が言いたいの?)
ジェスチャーで返したけど、
彼はニヤッと笑って、
すれ違いざまに耳打ちした。
「未依沙、目線怖いぞ」
「うそ!?そんなに睨んでた?!」
焦ったわたしは、瑠飛に
「もう!」と軽く叩くフリをしたその瞬間——
かげちゃんが横を通り過ぎていった。
ああ、瑠飛のせいで挨拶できなかった……。
しかもその様子を、マネージャーさんが
見ていたなんて気づきもしなかった。
✳︎
今日は珍しく、バレー部とバスケ部が
ほぼ同時に終わった。
「未依沙、一緒に帰ろうぜ」
「うん」
瑠飛が目で「わかってる」
みたいなサインを送ってくる。
(……何その余裕。)
「かげ、帰ろうぜ」
「おう」
汗で前髪が少し額に貼りついてるかげちゃん。
その姿を見た瞬間、心臓が“トクン”と跳ねた。
他の部員も同じように頑張ってるのに、
どうしてかげちゃんだけ、
こんなに眩しく見えるんだろう。
✳︎
駐輪場に着いて、みんががそれぞれ
自転車へ向かう。
わたしは内心、焦っていた。
あれ……自転車、どこに停めたっけ…?
「ごめーん。自転車どこに停めたか忘れちゃった…」
「未依沙って意外と抜けてるよな!」
瑠飛は笑いながらそのまま歩いていく。
かげちゃんが近づいてきて、
「一緒に探すよ」
その一言で、胸の温度が少し上がる。
こういうところ。
こういう優しさが、ずるいんだよ。
自分の荷物を先に自転車に置いてくると
先を歩いていくかげちゃん。
その後ろ姿には、部活のカバンについた
カピバラのマスコットがゆれている。
かげちゃんとのお揃いだって、
再認識して1人喜ぶ。
そんなことを感じていたら、
かげちゃんは荷物を置くと
走ってわたしの自転車を探しに行ってくれた。
疲れてるのに。
わたしのために。
……ていうか、かげちゃん、
わたしの自転車わかるの?
自転車なんて、どれも見た目が同じなのに…
…
「未依沙、あったよ!」
笑顔で手を振るかげちゃん。
その瞬間、風が頬を撫でた。
——惚れるしか、ないよね。
そういうところが好き!
「ありがとう!助かった!」
私は笑顔で答えた。
笑い声がして振り返ると、
瑠飛がマネージャーさんと話していた。
あの二人、なんかいい感じ?
……マネージャーさんのこと、聞きたいな…
聞いたらバレちゃうかもしれないけど、
もう我慢できない。
「かげちゃんさ、最近バレー部のマネージャーさんとよく話してる気がするんだけど、わたしの気のせいかな?」
声が少し小さくなる。
「気のせいじゃないと思う」
あっさり言われて、胸がズキッとした。
——やっぱり、そうなんだ。
「バレー部で、何か話し合いがあるから?」
少し踏み込むと、
「いや、最近マネから瑠飛のこと、すごく聞かれるんだよね」
「え?瑠飛のこと?」
「うん。瑠飛ってカッコいいし、バレーもできるし、優しいからさ。昔からモテるよね」
その言葉にホッと息をつく。
よかった……かげちゃんのことじゃないんだ。
「そうだね、瑠飛はモテるよね」
と返しながら、心の奥でそっと思う。
——瑠飛とマネージャーさん、
うまくいくといいな。
その間、わたしはかげちゃんと話していよう。
……なんて、少し都合のいい考えが浮かぶ。
「未依沙は瑠飛の幼馴染だけど、好きになったりしないの?」
突然の質問に、心臓が飛び跳ねた。
「それはないかな。瑠飛は幼馴染で、大切な存在ではあるけど。」
「そうなんだ。男の俺から見ても、瑠飛はカッコいいよ」
(かげちゃんだって、カッコいいよ。)
言えないまま、顔が熱くなる。
「あれ、未依沙、顔赤くない?大丈夫?」
(……かげちゃんのせいだよ)と
喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
そういうとこだけ、ちゃんと気づくんだから。
「そうかな?」
そんなわたしの顔を少し覗き込む。
わたしはわざと、とぼけて見せた。
……ずるいよ、かげちゃん。
本当に、ずるい。
これが第四章ラストのエピソードでした!
明日から第五章、高校2年生の物語が始まります。




