4-10. お互いに一緒だった
(✳︎未依沙視点)
「あ!カピバラだ〜!」
わたしは一番好きな動物を見つけて、
思わず走り出した。
柵のそばまで駆け寄って近くで見ると、
やっぱりカピバラは可愛い。
後ろから歩いてきたかげちゃんが、
わたしの横に並ぶ。
ただそれだけなのに、
心の奥が少し高鳴った。
自然と隣に立ってくれる――
それだけで、特別なことのように感じる。
「カピバラ、可愛いよね」
優しい声。
そのまなざしを横目でそっと盗み見る。
光の中で微笑むかげちゃんの横顔が、
どうしようもなく眩しかった。
わたしにとってかげちゃんは、
ずっと“憧れ”の人。
そんな彼とこうして一緒に時間を
過ごせることが、奇跡のように思える。
本当は、かげちゃんの気分転換のために
来たはずなのに――
いちばん楽しんでいるのは、
きっとわたしだ。
「わたしね、カピバラって、かげちゃんみたいだなって思うの」
「え?俺がカピバラ?!」
笑いながらこっちを向くその仕草に、
不覚にも胸がきゅっとなる。
「だって、穏やかで優しいところが、そっくりだもん」
「それを言うとさ、俺もカピバラは未依沙っぽいって思ってた。理由は違うけど」
「えー!何それ!気になる!」
「カピバラって、穏やかな性格だから、どんな動物とも仲良くなれるんだって。たとえワニでも、お腹が空いてなければ共存できるらしいよ」
「へぇ〜そうなんだ。知らなかった。カピバラすごいね」
「未依沙はさ、優しくて、誰とでも仲良くできるだろ?だから、まさにカピバラじゃね?」
「わたしって、かげちゃんからそんなふうに見えてるんだね」
自分では気づけなかった視点をもらい、
彼の言葉が静かにわたしの心をくすぐる。
「そう。だから理由は違うけど――俺たちは、カピバラ同士みたいだな」
不意にかげちゃんに正面から見つめ返されて、
心臓が一気に早くなる。
くすっと笑うその顔が、
陽だまりの中でやわらかく滲む。
ああ、わたしはきっと、
この笑顔が見たくて一緒にいるんだ。
一緒にいたいと思ってしまうんだ。
未来がどうなるかなんてわからないけれど――
この人のそばにいたいと、心から思う。
眩しい横顔を、わたしはただ見つめていた。




