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一番近くて、一番遠いーネット越しの恋を、君とー  作者: りなる あい
第四章:触れた体温、重なる鼓動

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4-5. 鉛の心と、陽だまりの少女

(✳︎景虎視点)

いつの間にか季節は秋になっていた。


高校に入ってからすぐに注目され始めたが、

最近は特にだ。


しかし、その一方で上手くやらなきゃ…

と重圧も感じるようになってきた。


これまではバレーが楽しいから、

ただ前を向いて進むだけだった。

でも…今は、セッターとして

みんなに良いトスをあげないといけないと

ということが責任に感じる。


俺は1年だけど、セッター起用されている。

3年生のセッターではなく、

俺が出ているんだから、なおさら

上級生のために俺がミスするわけにはいかない。


それなのに…朝起きても、足が鉛みたいに重い。

ボールが手に吸い付かない。

まるで、ボールが俺の手から逃げてるみたいだ。


それでも、チームの誰かに


「疲れてる?調子悪いの?」


って言われるのが怖くて、

いつも通りを演じていた。


――小学生の頃、試合のあとに聞こえた

あの言葉が、ふと思い出される。


「5番のやつ、あんな顔だから、バレーとったら何も残らねーよな」


「バレーくらいできてないと、取り柄ないよな」


体が一瞬、冷たく固まる。


あの時の言葉は、

今でも胸の奥に残っていて、

無意識に自分を縛ってしまう。


「俺からバレーをとったら、何も残らない…」


重圧を感じてる場合じゃない。

もっと上手くなりたい…

その焦りが、もっと

俺を苦しめているとは気づかずに…


「上手に試合ができなかった時は、セッターの責任というくらいの気持ちでいなさい」


この言葉は中学時代も

何度か言われたことがあった。


今、この言葉の重みが、

正直辛く感じてしまう。


手に力が入らない…


俺はどうしたらいいんだ…


「かげ、大丈夫か?何か悩み事?」


小学生の頃からトスをあげ続けている瑠飛は、

俺の調子を敏感に感じとる。


「悩み事っていうかさ…最近、重圧を感じてしまって…」


「あーね…」


瑠飛から見てもそうだったのか、と妙に納得した。


「正直、体育館に行くのが辛いとさえ思う時があるんだ…それでも、練習に行くのは行くんだけどさ」


こんなことを周りの人に伝えたのは初めてだった。


「まあ、そうゆう時もあるよな…かげは、いつも一生懸命だもんな。でも、押しつぶされる前に逃げ道作っとけよ」


一番近くにいる存在である瑠飛からの言葉が、

なぜかすごく嬉しかった。


俺が期待に押し潰されそうな気持ちも、

これまでの頑張りも

見てくれていたんだって思えた。


「かげ…気分転換したらどうだ?追い込みすぎても良くないぞ?」


「気分転換かぁ〜…」


俺は、何かいい案が浮かぶでもなく、

そのままその日も練習に励んだ。

ボールを上げる腕が重く感じた。


誰も気づかない。

そのことが、少しだけ怖かった。



✳︎



練習が終わり、着替えて部室から出ると

バスケ部もちょうど終わったところだった。


「かげちゃーん!」


声のする方を見ると、未依沙が

ぴょんぴょんしながら俺に手を振っていた。


なぜ跳ねている?

小動物みたいだな。

つい、くすっと笑ってしまった。


ちょこちょこ走ってきた

未依沙に向かって俺は言った。


「部活の後なのに、めっちゃ元気じゃん」


「えへへ、かげちゃんを見つけたから」


え?何だそれ?

何でそんな言い方するんだ?

全男子が勘違いするワード選びだろ…!


反応に困っていたら

後ろから瑠飛がやってきた。


「よぉ、未依沙。部活終わり?」


「うん。今終わったところ。」


瑠飛はさっと未依沙の横に並ぶ。

あまりにも自然で流れるような動きに、

なぜかさすがだなぁと感心してしまった。


「あ、ちょうど聞きたかったんだけどさ、気分転換に何したらいいと思う?」


瑠飛が話を振り始めた。


「気分転換?瑠飛が気分転換したいの?」


「いや、俺じゃないんだけどさ、かげがしたらいいじゃないかと思って。」


「ん?かげちゃんが?」


首を傾げながら、

キョロっと俺の方を見つめてくる。


瑠飛には話したし、未依沙にも話すか…


「いや、最近、プレッシャーを感じてさ。なんて言うか、手に力が入らないというか、体育館に行くのが少し億劫な感じなんだ…」


「うん、そうだったんだね。辛かったね。」


そっか、俺は辛かったんだ。

未依沙の言葉に包まれた気がした。


未依沙の声を聞くだけで、

心が少し軽くなる気がした。

自分の中にある感情に気づかないフリをしてたけど、

未依沙に見つけて認めてもらった感覚だった。


「うん…。それで、瑠飛に気分転換したら?って言われたけど、何したらいいかな〜って」


「なるほどね。何がいいかな〜」


みんなで一緒に考えてみるけど、

いい案は浮かばない。


「未依沙とかげでどこか出かけてくれば?かげはさ、俺といるとやっぱバレーの話になるじゃん。未依沙だったら、バレーから一旦離れてリセットできるんじゃね?」


「私でよければ力になるよ」


未依沙はなぜか嬉しそうに俺を見てきた。

あれ?なんか、尻尾が見えるような…?


「よし、じゃあ、決まりな。二人でどっか出かけてこい!」


「は?瑠飛が決めるの?」


「だって、誰かが決めないとかげは自分から動かなそうじゃん〜。お出かけの後、レポートよろしくな」


そんな話をしながら3人で一緒に帰ったけれど、

俺の頭の中はどこへ行ったらいいんだろう?

と思考を巡らせていた。  


どこへ行こう。

ただ、未依沙と一緒にいられるなら、

どこでもいい気がした。



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