3-18. 君たちに話がある
(*景虎視点)
部活の後、吉本監督が
手招きをして俺を呼び寄せた。
「後田、マルセルと一緒にあとで来てくれるか?」
俺が瑠飛にそのことを伝えると、
顔に?が浮かんでいた。
俺も、何のことかわからない。
高校から声がかかることと何か、
関係があるのか?
でも、二人一緒っていうのが、
なぞなんだよな…
*
「失礼します。」
俺と瑠飛は言われたように監督を訪ねた。
いつもよりにこやかな気がするが、
この監督はあまり顔に出ないから、
何を言われるのかドキドキしていた。
「実は、水流高校から声がかかっている。」
水流高校という名前を聞いた瞬間、
はっと息をのんだ。
水流って…4強の一つじゃん…
吉本監督は俺と瑠飛の目を交互に見ると、
こう続けた。
「今日、なんで二人を呼んだかというと、まあ、気づいてるかもしれないが、水流高校の篠田監督から、お前たちコンビで引き抜きたいと連絡があった。」
「マジですか…」
驚きながらも嬉しさの混じった瑠飛の声が
横から聞こえた。
篠田監督といえば、
バレー界でかなり影響力のある人だ。
俺は、正直、信じられなかった。
「コンビでですか…?」
俺の心の声がポロっと出てしまい、
自分でも驚く。
「そうだ。コンビで声がかかることは、相当珍しいぞ。さ、お前たちはどうしたい?実は、ほかにも声がかかっている高校があるんだが…高校の実力、監督の指導力、そしてどうしても二人が欲しい!という熱量で見ても、悪い話ではないと思う。」
いつもよりゆっくりと
俺たちの目を見ながら監督が話す。
でも、まるでその言葉が自分の中に
入ってこないかのように感じた。
あまりにも驚きすぎて、監督の言っていることが、
わかるようでわからない感覚だった。
俺たちが黙っているから、理解したと思い、
吉本監督はそのまま話を続けた。
「もし、水流高校の篠田監督の話を聞いてみたいというなら、直接話す機会を設けよう。どうする?」
「ぜひ、お願いします。」
瑠飛がすかさず返事をした。
俺もとりあえず続けて声を出した。
「僕も、ぜひお願いします。」
「わかった。じゃあ、日程がわかったら連絡するよ」
…
俺たちは並んで家までの道を歩く。
最初に口を開いたのは瑠飛だった。
「マジでびっくりだったな。」
そう言って俺に顔を向ける瑠飛は
優しい笑顔をたたえていた。
瑠飛がまぶしい。
まるで幸せオーラが見えるみたいだった。
「ほんとそれな。マジでびびった。コンビで引き抜かれることってあるんだな…」
自分で発した言葉が現実味を帯びていく。
そっか、俺と瑠飛で使いたいから来てほしいと
言ってくれた高校があるのか…
とても有難かった。
瑠飛とはコンビを組んで一番長い。
でも、もし二人に水流高校から声がかからず、
別々のところから声がかかっていた
可能性だってあったんだ…
瑠飛はこのこと、どう思ってるんだろう…
聞きたいけど、少し怖い気もする…
「かげ、俺がどう思ってるか気になるけど、聞きにくいな~って思ってる?」
まさに、俺の心の声じゃん!
とっさに瑠飛の顔を見た。
「やっぱりな。」
そういって、はははと笑っている瑠飛の声が
静かに響く。
俺の反応から図星だとバレたらしい。
「瑠飛はどう思ってるんだろって、ちょうど気になってた。なんでわかったんだよ」
瑠飛は急に口をつぐみ、
真剣な顔で俺に向いた。
俺はなぜか緊張して唾を飲み込んだ。
「俺は、嬉しい。」
ニコっと笑顔を向けながら発せられた言葉は、
あまりにもあたたかくて優しくて、
耳に心地よかった。
と同時に、その言葉が聞けてとても安心した。
あぁ、瑠飛も同じ気持ちだったのか。
そして、瑠飛が嬉しいと言ったあと、
すっと本気の目になるを俺は見逃さなかった。
『やってやるぞ』という覚悟が宿った瞳だった。
「俺も嬉しい。高校でも、瑠飛と一緒にバレーができたら、それ以上に最高のことはないよ」
「なに言ってんだ。最高のことは春高で優勝だろうが」
バシっと叩かれたけれど、
手からあたたかい気持ちを感じた。
叩かれた肩がじんわりと熱い。
その熱が、不安を全部
溶かしていくみたいだった。
スポーツ推薦の話は聞くけれど、
実際どういうものなのかは、
聞いてみないとわからない。
水流高校の篠田監督と話すことを想像すると、
緊張と期待が入り混じる。
帰り道を歩きながら、ふと思う…
俺は身長がやっと170㎝に届いたのに、
瑠飛は185㎝を超えている。
瑠飛ばかり成長しているようだけど、
俺も負けないようについていきたい。
「水流高校か…」
もう一度、高校の名前を呼ぶ。
憧れの場所が、俺の居場所になるのか…
篠田監督は、俺たちのどこを見てくれたんだろう。
俺と瑠飛が二人で並んでいる姿に、
どんな可能性を感じたんだろう…
そんなことを考えると、
少しだけ背筋が伸びた。
そして、俺の相方は身長もバレーも
成長が止まらないヤツだけど、
こいつとなら大丈夫な気がする。
高校でも、このまぶしい存在と
対等に肩を並べる日が待ち遠しいと思った。




