3-17. 中3の夏休み 全中にて
(*景虎視点)
この地元ではバレー強豪校として
名のとおる南部中学は順調に
県大会を勝ち進んでいた。
今のベストメンバーで臨む、
俺たちにとってラストの大会だ。
バレー関係者も観に来ているらしい。
変に意識せず、これまでのように
自分の力を出し切るだけだ。
全中出場の夢を叶えるために、
チーム一丸となって戦った。
✳︎
試合が終わり、クールダウンをする。
俺たちのチームは決勝で惜しくも敗れた。
涙を流す3年生のエネルギーが
みんなへと広がっていく。
「後田先輩!」
振り向くと2年の松井だった。
悔し涙を溜めて、顔が
ぐちゃぐちゃになっている。
「どした?松井、泣きすぎだろ」
俺は松井の髪の毛をかきむしった。
「後田先輩…俺、悔しくて…。何度もトスをあげてくれたのに、相手にブロックされて、拾われてばっかりで…」
腕で目元を隠し、
泣き顔を見せたいと必死だ。
「松井、それは俺の責任でもある。俺が相手に捕まるような試合展開をしてしまったから」
「違います!俺の実力不足です。後田先輩のトスに、ちゃんと答えることができなくて…」
「はいはーい、反省はそこまでにしようね。」
瑠飛が後ろから松井の肩を抱き、
向こうへ連れて行ってくれた。
松井はやる気があって、
誰よりも向上心がある。
一緒にプレーしていて、
本当にいい刺激になった。
熱くなりすぎて、たまに
こんな風に暴走するが、
可愛い後輩の1人だった。
最後の試合で、大事な後輩に
もっと活躍する機会を作りたかったな…
悔しさが残った。
下を向くと涙がどんどん
目元に溜まっていくのを感じる。
でも、顔を上げると泣いているのがバレてしまう。
目を瞑り、呼吸を落ち着かせた。
もっとみんなと戦いたかった…
俺の心の中にはただひとつ、
この想いだけが虚しく響いていた。
俺たちがそれぞれいろんな感情を抱きながら、
クールダウンをしている時、
その後ろでは、ある話が進んでいた。
✳︎
(南部中学、吉本監督目線)
「今年の南部中は目立つ選手がいたね」
「そう言っていただき、光栄です」
試合が終わってから、
そうそうに声をかけてきたのは、
バレー名門校の水流高校の篠田監督だった。
「うちに”あのコンビ”を引き抜きたいのだが、他にも声はかかっているかね?」
“あのコンビ”だけで通じてしまうほど、
後田とマルセルは注目を集めていた。
圧倒的な阿吽の呼吸、
お互いを信じていることが
プレーから伝わる。
小学生からの名コンビとして、
名を轟かせていた。
「まだ本人たちには伝えてないのですが、ちょこちょこお声はかけていただいてます。」
「そうか…聞くところによると、あのコンビは小学生の頃からだそうじゃないか。このまま高校でもさらに強くなっていくと、わたしは確信しているよ」
バレーの名門校の監督が、
名コンビのことを知らないはずがない。
正直、後田とマルセルには、
それぞれいろんなところから声がかかっている。
「各々も素晴らしい選手ですが、2人揃うと更に磨きがかかるので…一緒に同じところへ行けるのは2人にとってもいいのかもしれません。」
水流高校は”2人一緒に”と条件を出してきた。
タイミングを合わせる時間を取らずに、
最強のコンビがいるのなら…
高校にとっても、こんなに美味しい話はない。
2人はどこへ進むんだ…?
2人の意思をまずは確認しよう。
生徒たちが待つところへ、
わたしは歩みを進めるのだった。




