3-8. 神様、ありがとうございます!
(✳︎未依沙視点)
ついに、席替えの時間になった。
生徒一人一人がくじを引いていく。
わたしの番号は「9番」。
担任の先生が黒板の席に1から順番に、
ランダムに数字を書いていく。
わたしの席は廊下側で前から3列目。
席は悪くない。
でも、わたしは少し落ち込んでいた。
わたしの席が1番廊下側ってことは、
右側の列がないってこと。
かげちゃんと近くなる確率が、
その分低くなるってことだよね?
番号が書かれて、生徒たちが盛り上がっていく。
「うわー!俺1番前じゃん!」
「やったー!1番後ろの角!ラッキー!」
「何番だった?」
かげちゃん、どこになるんだろう…
きっと、こんなに近い席になることはないだろうな…
クラスの空気と反対に、わたしの心は沈んでいく。
ショックを受けたくないから、
かげちゃんに番号はあえて聞かなかった。
「よし、じゃあ、席替え開始!」
先生の合図でクラスメートたちが
自分の机を持って一斉に動き出す。
「机を引きひきずるなー!ちゃんと持ち上げろ〜」
教科書がパンパンに入った机を持ち上げるのは一苦労だ。
わたしは一旦、クラスの前の方に出て、
空いたところをぬって移動していく。
かげちゃんをチラッとみると、
後ろ側へ行ってしまった。
そっか、かげちゃん、後ろの席なんだ…
前に行った後、廊下側から自分の席へ向かうと、
かげちゃんもこちらに向かってくるのか見える。
あれ?
後ろの席だと思ってたのに、ここらへんの席なんだ。
やっと自分の席に着いた。
わたしの胸はドクンドクンと高鳴り続けていた。
横には、なんと!かげちゃんがいる!!!
席替えで、席が隣になった!
嬉しすぎる!
斜め後ろだったかげちゃんが、
席替えでまさかの隣に!
こんなにラッキーなことってある!と
内心飛び跳そう。
でも、わたしはその気持ちを隠して
冷静を装いながら椅子に座った。
「かげちゃん、隣だったんだね。てっきり後ろの席かと思ったのに」
「いや、真ん中がごった返してたから、後ろからいこうと思って。未依沙だって、すぐに前に行っちゃったから、てっきり前の方の席かと思ったよ」
あれ?かげちゃん、
わたしの行方を見てたってこと?
これって、自意識過剰?
どうしよう、ニヤけが止まらない…
わたしは両手で口元を隠した。
「わたしもかげちゃんと同じ考えだった。真ん中が混んでたから、前から行ったんだ〜。それにしても、横の席って、本当にビックリ!」
本当は嬉しいって言いたかったけど、
これは恥ずかしくて言えなかった。
しかも、今気づいたけど、
廊下側の席だから、わたしの隣はかげちゃんだけ。
忘れ物をしたら、かげちゃんに見せてもらうしかない。
もう、この席、完璧すぎる。
神様、ありがとうございます!
ところで、中学校って、
何で置き勉したらダメって決まりがあるんだろう…
重たい教科書たちを持っていくのが辛すぎる…
そのせいもあって、わざとじゃないんだけど、
わたし、けっこう忘れ物しちゃうんだよね。
直したいところの一つだよ…
✳︎
さっそく、席替えした今日も忘れ物してた…
いや、席替えで席が隣になったのは今日だから、
わざと忘れ物したわけじゃないよ。
でも、忘れ物してラッキーって
思っちゃってる自分もいて…。
わたし、悪い子だ(笑)
「かげちゃん、ごめん、社会科の資料集持ってる?忘れてきちゃって…見せてもらってもいい?」
「いいよ。」
わたしが席を移動しなきゃなのに、
かげちゃんの方がさっと机を合わせてくれた。
ガチっと机がぶつかり、
わたしの心臓が跳ね上がる。
あれ?隣の席って、こんなに近いんだっけ…?
これまでも忘れ物で隣の人に見せてもらうことはあったのに、
かげちゃんになると無駄に緊張する。
まるで、体温が伝わってくるかのように感じて、
わたしまで体が熱くなる。
「見える?」
と、わたしに教科書を見せてくれる。
自分の気持ちを自覚してからクラスが一緒になって、
彼の一つ一つの行動をますます意識してしまう。
覗き込むように聞いてくるかげちゃんの優しい顔に、
不意にトキメク。
「うん、見えるよ。ありがとう。」
…
「ここ、テスト出すぞ〜」
先生の声を聞いて、パッとその箇所に
線を引くかげちゃん。
腕まくりをしているから、ペンを動かすたびに、
腕の筋が浮き上がる。
右腕がわたしに触れそうになって、
わたしの体は、つい緊張してしまう。
彼の手元に目を向けると、毎日バレーの練習をしている指が
ゴツゴツしていることに気づいた。
こんなに近くで見たこと、なかったかも…
見過ぎちゃダメだ。
資料を見せてもらうときに、
ちょこっとだけさりげなく見る。
かげちゃんに、バレてないよね?
こんなにハラハラするなら、やめないとだ。
なんだか、勝手に冷や汗をかきそうになる。
あ、かげちゃん、先生が大事って言うところに
色ペンをつけてる。
そういう小さな発見に喜びを感じてしまう。
ちょっとわたしの方に体を寄せて、
真剣な眼差しで線を引いている。
少し近くなる距離に、わたしは
呼吸するのを忘れてしてしまいそうになる。
資料集を見ている横顔にも釘付けになってしまうし…
見すぎたら怪しすぎるよ、目を逸らさないと…
私の視線は先生に向けているけれど、
意識は完全にかげちゃんに持ってかれてる。
どうしよう、心の中がかげちゃんでいっぱいだ…
どうか、かげちゃんにバレませんように。




