3-5. 男子生徒の悪ノリで気づいた気持ち
(*未依沙視点)
次の休み時間、
わたしたちは体育の授業だった。
男子と女子が体育着をもって、
それぞれの更衣室へ向かう。
もう、春の陽気から
暖かさを感じる季節に移り変わっている。
クラスメイトたちも、互いに知るようになり、
より和やかな空気を感じるようになった。
わたしとかげちゃんは名前が近いから、
ロッカーがすぐ横だ。
何となくロッカーに向かうタイミングが同じだった。
「次の体育、何するのかな~?」
と、私がかげちゃんに
気軽に声をかけたときだった。
ドン―
「きゃっ」
わたしは一瞬、呼吸するのを忘れてしまった。
何が起きたのかわからなくて、
気づいた時には、
視界いっぱいに制服の胸元があった。
柔軟剤の清潔な香りの奥に、
少しだけ熱を持った男の子の体温を感じて、
頭が真っ白になった。
かげちゃんとの間で、
私の手がかろうじて少しだけ空間を作っていた。
かげちゃんも驚いた顔をしている。
私の肩をぐっと支え、
抱き着く寸前で止めてくれた。
ガチっと掴まれた肩に、
全部の感覚が引き寄せられた。
この状況どうしよ、早く離れないと…
「未依沙、大丈夫?」
と優しく声をかけた後、すぅーっと息を吸って
「押したの誰だよ」
かげちゃんは出口の方に目を向けた。
「本当にただの幼馴染なのかな~?」
「それにしては仲いいよな~」
クラスの男子の悪ノリだった。
「そんなんじゃないって」
と言いながらかげちゃんは一瞬だけ眉を寄せて、
それから、何もなかったみたいに距離をとった。
クラスの男子の誤解を解くためだって、
頭ではわかってる。
なのに、さっきまであった温度が、
私の中だけに取り残された気がした。
「お前ら、そうゆうのやめろよ」
後ろから恐ろしい声がした。
威厳があって、誰も逆らえないかのような
瑠飛の低い声が響き、教室の空気がピリついた。
いつもは太陽みたいに笑う彼の、
底知れない冷たさに背筋が伸びる。
「俺だってかげの幼馴染なんだけど」
さっきの声とは打って変わって、
わざと茶化すような声を出す瑠飛。
かげちゃんに後ろから飛びついて、
悪ノリした男子に視線を送っている。
声色は怒ってない風だか、
目が全然笑っていない瑠飛の表情に
私の視線が全部持って行かれた。
「お、おう…悪かったな」
そう言って男子二人は走って廊下に出ていった。
「瑠飛~やきもちかよ」
「意外と独占欲、強いのな」
場を和ますように他の男子たちが声をかけていく。
「さあ、着替えようぜ」
その場にいたクラスのメンバーが
ぞろぞろと廊下へ出ていく。
更衣室へ向かいながら、
さっきの光景が何度も頭の中で巻き戻された。
これまではクラスが別だったから、
瑠飛とかげちゃんと学校で話すことは少なかった。
クラスが一緒にならなかったら、
きっと、こんなふうに見られることもなかった。
思い返すと、わたし、
かげちゃんと茶化されたこと、
嫌じゃなかったな…
ただ、恥ずかしかったってだけで…
それなのに、かげちゃんのことを思って、
私と離れた方がいいって
咄嗟に思っちゃったのはなんでだろう…
はぁー、考えすぎて頭が混乱してきた。
そっちゃんやさっきーに相談したい!
このモヤモヤは一体なんだろう…
瑠飛が入ってきて、みんなが笑って、
何事もなかったみたいに終わったのに。
体育へ向かう廊下で1人反省会が
頭の中で繰り広げられていた。
その中でわかったことは…
かげちゃんに抱きつくような形になって
ドキッとした反面、咄嗟に
かげちゃんから離れた方がいいと思ったのは
きっと、かげちゃんに迷惑をかけたくなかったからだ。
わたしと付き合ってると周りに誤解されて
彼に嫌な思いをしてほしくない。
そして何より、そのことがきっかけで
かげちゃんとの関係がギクシャクしてしまうのが怖いんだ…
きっとそう…
私の中だけ、あの一瞬が終わっていなかった。
自分の思いに気づいた途端、急に、
初夏のじりじりした暑さを首筋に感じたのだった。




