2-18. 冷たい風と、とけないチョコ
(*未依沙視点)
今日は朝から学年集会。
今の時期に体育館に体育座りって
寒いから嫌なんだよな…
先生方から大切な話があると集められたら、
内容はバレンタインに関するものだった。
「学校にチョコレートを持ってきてはいけません。」
念押しに念押しをされた。
きっと毎年、そのルールを破って
持ってくる強者がいるから
先生も集会を開いてるんだろうなと思った。
集会が終わり生徒たちの会話は
バレンタインでいっぱい。
むしろ渡す気持ちを煽ってない?と、
わたしは心の中でツッコミを入れた。
「うえのっちとそっちゃんはチョコレート渡すの〜?」
さっきーが集会後、真っ先に聞いてきた。
「わたし、瑠飛くんに渡したいんだけど…学校で渡せないんだったら家に届けるしかないのかな…うえのっち、どうしよう〜」
「瑠飛に渡すの!すごいね!学校に持って来れないとしたら、それしかないよね」
小学校が違うから、瑠飛の家まで遠くて大変だろうな…
と思いながら言った。
「さっきーは誰かに渡すの?」
わたしはさっきーのバレンタイン相手も気になる。
「わたしは今野くんに渡せたらいいな。でも、わたしもどうやって渡そう…」
学年集会後、女子たちの会話は
バレンタイン一色だった。
✳︎
わたしは毎年、幼馴染の瑠飛とかげちゃんに
チョコを作っていた。
今年はどんなチョコにしようかな?
2人とも意外と甘党だから、
毎年ちょっと気合が入るんだよね。
バレンタインは平日。
しかも、部活もある。
どうやって渡そう…
瑠飛は家が目の前だからいいとして、
かげちゃんにはやっぱり家に行くしかないか…
✳︎
バレンタイン当日。
わたしはフォンダンショコラを作った。
我ながらいい出来。
これなら安心して渡せる。
部活から帰って夕ご飯を食べたあと、
まず瑠飛の家へ向かった。
「おお、未依沙か!もしかしてチョコ持って来てくれた?」
相変わらず明るい瑠飛の笑顔に、
いつもつられてしまう。
「はい、バレンタインのチョコ。今年はフォンダンショコラを作ったよ」
「マジか〜ヤバ〜、めっちゃ嬉しい!ありがとな。ところで、未依沙、今からかげに渡しに行くだろ?俺も一緒に行こうか?」
まさかの提案で少し驚いた。
「え?瑠飛も一緒に行くの?」
「冬で寒いし暗いし、1人で行くの危ないだろ?俺とチャリでさっと行ってこようぜ」
「うん、そうだね。じゃあ、一緒に行ってくれる?」
わたしと瑠飛は自転車に飛び乗ると
2人でかげちゃんの家に向かった。
自転車ならすぐの距離だから、
そんなに心配しなくてもいいのに。
でも、瑠飛ってこういうところ、
本当に優しいんだよね。
心がフワッとあたたかくなる。
インターホンを鳴らすと、
かげちゃんが出てきた。
「あれ?未依沙。瑠飛も?」
かげちゃんはとぼけた顔をしていた。
毎年バレンタインでチョコを渡してるのに、
何この反応…
ちょっと不安になる。
「はい、かげちゃん。バレンタインのチョコ」
差し出した箱を見て、
かげちゃんはすぐには受け取らなかった。
その「間」が、冬の冷たい空気よりも鋭く胸に刺さる。
「…ありがとう。でも、俺もらっていいの?」
チョコを受け取るまで
ためらいがあったのが違和感だった。
「ん?なんで?毎年渡してるじゃん」
わたしは平然を装って
ニコッとかげちゃんに微笑んだ。
「いや、未依沙がサッカー部の先輩といい感じだって聞いてたから、付き合ったのかな?と思ってた」
そっか、だからかげちゃんの反応が
変だったんだ。
納得した一方で、モヤモヤした気持ちも
同時に感じた。
かげちゃんは、わたしと先輩が
付き合うと思ってたんだ…
なんだか、そのことがショックで、
心がザワついた。
「まあ、かなり噂になってたもんな〜。かげがそう思うのも仕方ないかもな」
と瑠飛が言った。
先輩とのことがそんなに噂になってるとは
知らなかった。
「瑠飛はそう思わなかったの?」
「うん、なんとなくだけど、未依沙は先輩と付き合わない気がしてた。噂もさ、尾びれ背びれが付いてくものだしさ」
瑠飛のこういう落ち着いたところが
好きだなと思う。
「そうだよ、かげちゃん。噂を信じちゃだめだよ。わたし、先輩と付き合ってないから」
なぜか強調して伝えたくなった。
かげちゃんには誤解されたくなかったから。
「そっか…そうだったんだ…今年はチョコないんだろうなと思ってたから…もらえて嬉しいよ。ありがとうね。」
あれ?
かげちゃん、少し照れてる?
鼻をツンツンいじるのは恥ずかしい時の癖。
「あと。今度から、噂は信じずに、直接未依沙に聞くことにするよ」
素直に言うところはかげちゃんのいいところ。
かげちゃんの家から帰りながら、
瑠飛がふとわたしに言った。
「今日、チョコ渡せてよかったな。」
「うん。2人に渡せてよかった。」
「かげの誤解も解けたしな」
意味深な顔で私を見てくる瑠飛の視線が、
なぜか居心地が悪かった。
まるで、誤解が解けてほっとしてるみたいで、
なんだか落ち着かない。
でも、誤解が解けて良かったって思ってしまう自分もいて…
そのことにも少し戸惑った。
いろんな思考が飛び交い、
1人で忙しくしていた。
「未依沙、考えすぎは良くないぞ。もっとシンプルでいいじゃん。」
まるでわたしの脳内を
見透かしたかのような発言に、
思わず瑠飛の顔を見た。
「なによ、急に」
「別に〜。さあ、寒いから急ごうぜ!」
自転車のこぐスピードを早めて
ピューっと先に行こうとする瑠飛に必死についていく。
一生懸命自転車を漕いでいるからかな?
冷たい空気の中なのに、
胸のあたりは不思議とあたたかかった。
次から第三章です!




