11-15. 繋ぐ、100点の君へ
最後のエピソードです。
(*景虎視点)
イタリアから帰国して、
未依沙と復縁してから数ヶ月。
大学卒業まで残り1年半というタイミングで、
俺は今、大学の寮に入っている。
離れていた時間を埋めるように、
俺たちは穏やかで、
愛おしい日常を積み重ねていた。
前みたいに俺の家に泊まりに
来ることができなかったから、
たまにこうやって未依沙の家で
一緒に過ごしていた。
ある休日の朝。
未依沙が一生懸命朝ごはんを作ってくれている。
相変わらずお皿の並べ方ひとつ、
お味噌汁の具の配置ひとつにまで
「ちゃんとしなきゃ」と
小さく眉をひそめて頑張っている後ろ姿を見て、
胸の奥がぎゅっと切なくなった。
俺はそっと後ろから近づき、
その細い腰を抱きしめて、耳元で呟いた。
「未依沙、そのまんまでいいよ」
「かげちゃん、急にどうしたの…?」
「いや、なんか、伝えたくなってさ…頑張り屋の未依沙にわかってほしいことがあるんだ」
腕の中の未依沙をこちらに向かせ、
その綺麗な瞳を真っ直ぐ見つめた。
「俺は、未依沙が勉強ができなくても、料理が下手でも、怠け者さんでも…どんな未依沙でも、俺は好きだよ」
「かげちゃん…」
未依沙の瞳がうるうるして、
どんどん涙がたまっていく。
熱い思いがぐっと沸き起こって、
俺は思わず未依沙を抱き寄せた。
自分の中に、誰かを
こんなに愛しく思う感情があるなんて…
未依沙と向き合うようになって、
たくさんの新しい自分に出会ってる。
「俺さ、未依沙がずっと頑張ってきたの、知ってるんだ…。俺が中学、高校の時はわからなかったけれど、今はそれが身に染みてわかる。未依沙が部活も勉強も、いろんなことを頑張ってたのって…自意識過剰じゃないといいんだけど、きっと、俺と並びたかったからだよね…?」
俺の声に耳を傾け、
俺の腕の中で小さくうなずいている。
抱きしめた瞬間はピンと力が入っていたけれど、
今は体を俺に預けてくれるのが伝わる。
「未依沙はいつも、俺のことを遠い存在だっていうじゃん?俺に追いつきたい、隣に立てるようになりたいって。」
ゆっくり息を吸って、まるで泣かないように
我慢してるように感じた。
「未依沙、もう十分だよ。最初から、不足してるところなんて何もなかったよ?」
俺が伝えたいこと、
伝わってるかな…
未依沙の涙の中に、これまで我慢してた
感情があった気がして、
その全部を受け止めたいと思った。
「わたしは、まだまだだ。だから、もっと頑張らないとって、もう思わなくていい。俺の隣に、未依沙がいてくれたら、俺はそれだけで嬉しいよ。未依沙は、十分完璧だよ?」
俺の背中に回す手にぐっと力が入った。
俺も壊れないように優しく、
でも想いを込めて力を入れた。
大丈夫だよ、未依沙。
俺は、高嶺の花だった君が届けてくれた
たくさんの愛で自分を
認めることができたんだ。
だから、君にも自分に100点をあげてほしいんだ。
腕がほどけて顔を上げた未依沙の頬から
綺麗な一筋の涙がこぼれた。
左手で目元にそっと触れると、
まるで猫のようにすりつけてくる。
みんなの前では鉄壁の女と言わる存在の彼女が、
俺の前ではありのままでいてくれる。
それが何より嬉しかった。
こんなに愛しい人が、
自分の世界にいることが、
ただただ幸せだった。
どうか、未依沙を大切に思う気持ちが
伝わりますように…
「もう、頑張らなくていいの…?」
泣き笑いではにかみながら聞いてきた未依沙に
一番送りたかった言葉を紡いだ。
「今まで、たくさん俺のことを支えてくれてありがとう。次は、俺が未依沙のことを守りたい。大学を卒業したら、婚約しよう?」
俺の最後の一言を聞いた瞬間、
未依沙は目を丸くして完全に固まってしまった。
あれ?ちゃんと呼吸できてる?
と心配になるくらいフリーズしている。
すると、どんどん顔が赤くなって、
照れている姿が愛おしい。
「かげちゃん、えっと…これはプロポーズってことだよね?」
「あ…確かに…!えっと、ちゃんとしたのは、別の機会にするけど、今はプロポーズの予約をさせてもらった」
「なにそれ~」
笑いながら抱きしめ合った。
愛する人と互いに大切に思い合えるって、
本当に奇跡だな。
「はい、じゃあ、プロポーズの予約、受け付けました。」
これからもきっと二人で乗り越えることは
たさくさんある。
でも、俺たちならきっと大丈夫だ。
幼馴染で一番近くて一番遠い存在だったあの頃は、
まるでバレーのネットがいつも両者の間に
たちはだかっているようだった。
越えたくても越えられない、
その壁と何度、対峙したことだろう…
そんな俺たちが、互いに恋をして引かれ合った。
一度は別れる選択をしたけれど
これからは同じ方向を向いて、
一緒に繋いでいこうと思う。
これまでこの作品を応援してくださり、ありがとうございました!
この作品に出会い、読んでくださったことに感謝でいっぱいです。
長い作品となりましたが、無事に完結を迎えることができました。
本当に、本当にありがとうございました。
オランダから愛をこめて。
Dank je wel!(ありがとう!)
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