11-12. あなたへと続く軌跡を走る
(*未依沙視点)
留学前に大好きな人に振られた。
意味がわからなかった。
『未依沙を俺に縛りたくない。』
その言葉を聞いた時、
心臓が止まるかと思った。
縛るってなに?
わたしは一度たりとも、
かげちゃんに縛られたことなんてない。
むしろ、心を囚われていたのはわたしの方。
わたしがかげちゃんを独り占めしたいって思って、
勝手に執着していただけなのに。
やっと恋人になれたと思ったのに、
かげちゃんはいつかわたしのことを
手放すかもと思いながら
ずっと付き合っていたってこと?
いつまでも手を出してこなかったのも、
別れる前提だったから…?
私の中の暗い部分が露わになって、
ぐるぐる考えることが止められない。
そんなの悲しすぎるよ…って
かげちゃんを責めたくなる。
二人の未来を見ていたのは、
わたしだけだったのかなって思って落ち込む。
かげちゃんがわたしのことを思って、
別れを選択した。
それはわかるんだけど…
勝手にかげちゃんの中で
完結してほしくなかったな。
……なんて、どれだけ部屋で一人で拗ねてみても、
私の結論は最初から決まっている。
離れていても、会えなくても、
私の心はあの人のままだ。
今日は、かげちゃんの誕生日。
留学に行ってからは、
一度も連絡を取っていない。
でも、かげちゃんの誕生日を忘れることは
絶対にない。
大切な人が生まれた、
かけがえのない日だから。
朝早く起きて、ランニングに出かけた。
真夏の太陽が照り付ける8月。
暑くなる前の少し涼しい空気を吸い込んで
体を動かすと、曇っていた頭が
すっと冴えていくのがわかる。
こんな風に朝の光を浴びて走っていると、
それだけで、今日という日が
何か特別なものに変わっていくような気がする。
そして、今日はわたしから
サプライズを仕掛ける!
どんな風に思われてもいい。
決してなげやりなわけではなくて、
わたしの人生はかげちゃんと歩みたいって
別れてもその気持ちは変わらなかった。
だから、どうしても伝えたかった。
あの一年に一度の日という免罪符を利用して、
わたしの思いのたけを届けたい。
あぁ、晴れてくれて良かった。
まず最初に向かうのは、
わたしが初めてかげちゃんと出会った場所。
瑠飛と一緒にバレーをしていたかげちゃん。
ゼーゼーと息を切らしながら
河川敷の土手を駆け上がると、
ちょうど地平線から
真っ赤な朝日が顔を出した瞬間だった。
遮るもののない空がじわじわと
鮮やかなオレンジ色に染まっていき、
朝日に背を押されるようにして、
わたしの長い影が前方の地面へ
すうっと伸びていく。
次は小学校。
同じ小学校に通ったわたしたち。
学校を背景に運動場を歩く。
わたしが溝に落ちた場所。
田んぼに入って泥だらけになっているところを、
実はかげちゃんに見られていたと、
後から知って恥ずかしくなった。
当時、わたしの方が背が高くて
彼より頭ひとつ分大きかった。
それなのに、小さな身体で
わたしを一生懸命おんぶして、
家まで送り届けてくれた。
小さくて、でも誰よりも頼もしかった背中。
あれが、かげちゃんがわたしの
ヒーローになった瞬間だった。
中学校の正面玄関。
毎日この門を潜って登校したな。
わたしはバスケ部に入って、
いつも隣のバレー部の練習を見ていた。
高校の門の前に来ると、
『バレー部県大会突破!』
と書かれた大きな横断幕が目に飛び込んできた。
さすが強豪校。
かげちゃんが誰よりも汗を流して、
泥臭く守り抜いたあのコートの熱量は、
今もこうして後輩たちに
受け継がれているんだな、と胸が熱くなる。
そして、少しずつ距離を意識しながら
最後のランニングを走り切る。
あと少し。
もうちょっとだ。
よし、今日のランニングはここまで。
わたしはメーターを止めた。




