11-11. 恋じゃなくて、命がけ
(✳︎瑠飛視点)
朝、目を覚ますといつもと違う景色が
目の前に飛び込んできた。
そっか、昨日、未依沙とラブホに来たんだった。
横を見ると未依沙がうつ伏せで寝ていた。
未依沙って、犬みたいに寝るんだな。
すぅーと規則正しい寝息が聞こえる。
寝顔を見ながら思った。
俺だから何もなかったけど、
他の男だったら確実に襲われてたからな!
状況が状況だけに、
ラブホがベストな選択肢ではあったけど、
かげに悪いことしたな。
頭の中で悶々とする。
このことをアイツに言うべきか?
黙っておくべきか?
100%言わなくてもいいことではある。
知ったところでいい気分に
なるはずがないから。
ただ、黙っている=悪いことをしている
みたいに感じるのは俺だけか?
俺は、未依沙を守りたかった。
ただそれだけだ。
そして、かげの場所も守ってやりたかった。
かげは未依沙を振ってイタリアへ行った。
俺は小さい頃からかげを知ってるが、
その時初めて俺はかげにキレた。
あのとき、未依沙を頼むって言った
アイツの不器用な顔を思い出す。
俺は怒ってた。逃げるなよ、って。
未依沙はきっと、昨日1番に
助けを求めたかったのは、かげ、お前だ。
イタリアに行っていようが、
未依沙の心の中を占めているのは、
かげなんだ。
未依沙の好きなヤツがかげじゃなければ、
俺がとっくに未依沙を奪ってたよ。
でも、かげだから、
俺は未依沙もかげも守りたいんだ。
頼まれたわけじゃないけど、
俺がそうしたいんだ。
胸の中に熱い思いが巡っていた。
未依沙の手が俺に伸びてきた。
まるで誰かを探すように。
「かげちゃん…」
寝ぼけながらそっと呟く。
そうだ、俺の入る隙間なんて、
そもそも1ミリもないんだよ。
やっぱり俺は見守り役だ。
大切な二人がちゃんと結ばれる瞬間を。
ぶっちゃけ、同じベッドに
年頃の女が寝てりゃ、男として
身体が反応しないわけがない。
けど、それはただの生理現象だ。
俺が未依沙に抱いてるこのクソデカい感情は、
そんな安っぽい恋心なんかじゃない。
もっと……そう、命をかけてでもこの日常を、
こいつの笑顔を守りたいっていう、
家族に対するみたいなやつなんだ。
頭の中でぐるぐる考えていたら
未依沙がゆっくりと目を開けた。
「おはよう、瑠飛。」
目を開けてすぐは少し固まっていたが、
何度も瞬きをしてようやく起きたみたいだ。
少し声が枯れていて、寝起き感満載だ。
パチッと目が合った瞬間、
ヤバ、寝顔ジロジロ見てたのバレたか……!?
と、咄嗟に心臓が跳ね上がった。
「おう、おはよう。…よく眠れたか?俺も今、目が覚めたとこ」
「寝れた。思いの外スッキリしてる。昨日は本当にごめんね。そして、ありがとう。本当に助かった」
「俺もマジでビビったわ〜。まさか未依沙とラブホに来ることになるなんて」
俺は冗談っぽく言った。
何もなかったわけだから、
未依沙にかげに対して後ろめたい気持ちを
持ってほしくなかった。
「いや〜本当にしんどかった。お酒、もう飲むのやめようかな」
未依沙も笑いながら軽い感じで返してくれて、
ちょっと安心する。
「俺さ、昨日部活の後、駅前で飲んでてさ、風呂入ってないんだよね。今、シャワーだけ浴びていい?」
「もちろん、いいよ。」
シャワーから出ると、
次は未依沙もシャワーに入るらしい。
男女がシャワーに入るって、
なんか生々しいな…
そんなことを思っていたら、
未依沙は結構早くシャワーから上がってきた。
カーテンの隙間から差し込む朝日の光が、
すっぴんになった未依沙の顔を
真っ直ぐに射抜いていた。
昨日の怪しげな照明が嘘みたいに、
光の中に佇む彼女は驚くほど透明で、
どこか幼い子供のようにも見える。
――不思議と、もうドキッとしなかった。
あぁ、やっぱりそうだ。
未依沙への想いは、
家族みたいなもんなんだ。
自分の中でそのことが腑に落ちて、
なんだか安心した。
これは不毛な恋じゃない。
俺も自由に恋愛できるんだ。
まさか、ラブホに来て
この境地に至るなんて、
誰が想像するかよ。
ラブホを出る前に、
未依沙がふと聞く——
「昨日、何か…変なこと言ってなかった? 寝ぼけてたかもだけど」
「あぁ、“かげちゃん”って言ってた」
「やっぱり…ごめん…」
「謝るな。むしろ安心した。未依沙が、ちゃんと未依沙でよかった」
よし、かげに言おう。
あったことを。
そして繋ぐんだ。
「俺はお前の場所を守った。次はお前の番だ」
ってな。




