11-9. コイツ、ほっとけないんで
(✳︎未依沙視点)
バスケ部の臨時マネージャーとして
参加した合宿。
無事に終わってホッとしたのも束の間、
今夜の打ち上げは、わたしにとって
針のむしろだった。
前々から視線を感じていた先輩が、
お酒の勢いを借りて、今は
超があからさまな態度で距離を詰めてきている。
周りの部員たちも、面白がって、
あるいは応援するような目で
ニヤニヤとこっちを見守るだけだ。
今日に限って、林田先輩は
打ち上げに参加していない。
たまきちゃんも西条先輩も、
遠くの席で楽しそうにしているのが見える。
困った…
どうやってやり過ごそう。
わたし、お酒全然飲めないのに…
「未依沙ちゃん、お酒全然進んでないね?一緒にもっと飲もうよ」
グラスを差し出す先輩の体温が
すぐ近くに迫ってきて、
息が詰まりそうになる。
逃げ出したいのに、同じ席のみんなは
見守りに徹してる感じ。
先輩に乗せられて、
いつもより多めに飲んでしまった。
ヤバい、気持ち悪い…
お手洗いに駆け込む。
大丈夫?とトイレに
ついてこようとしたけれど、
振り切るようにわたしだけ席を立った。
一歩踏み出した瞬間、
世界がぐわんぐわんと激しく歪んだ。
自分の体じゃないみたいに
足元が重くて、まともに立てない。
……こんなに酷い吐き気と、
張り裂けそうな心臓のバクバクは初めてだった。
怖い。
あそこに戻ったら、
またあの先輩に捕まってしまう……。
1番最初に頭に浮かんだのは、
かげちゃだった。
イタリアに行く前に振られてしまったけれど、
頼りたいと思うのはやっぱり彼だった。
でも、それが叶うことはない。
お酒が回った頭で必死に考える。
誰かお願い、助けて…
その瞬間、瑠飛からメッセージが来た。
「環境社会の宿題だけどさ…」
LINEの続きを読まずに、
すかさず瑠飛に電話した。
「もしもし、瑠飛?」
「未依沙、こんな夜遅くにどうした?何かあった?」
「今、バスケ部の打ち上げに来てるんだけど、気持ち悪すぎてヤバいの…」
「大丈夫かよ?そんなに飲んだのか?場所は?」
「駅前の『きよし』っていう居酒屋にいる。こんなにお酒飲んだの、初めてかもしれない…」
「俺も今、駅前にいる!今から行くわ。」
すぐに電話が切られた。
便座に座って必死に呼吸を整えた。
ずいぶん時間が経ち、
這うようにしてなんとか立ち上がる。
このままお水をもらいにいこうかと
トイレのドアを開けた瞬間。
——『未依沙!!』
居酒屋の喧騒を切り裂くように、
息を切らした強い声が響いた。
驚いて顔を上げるより早く、
勢いよく滑り込んできた瑠飛の、
鍛えられた大きな体がわたしの視界を塞ぐ。
「っ……!」
フラフラの体が倒れる前に、
男らしい力強い腕が、
わたしの体をさっと抱き止めてくれた。
その瑠飛の肩越しに、
薄暗い廊下の向こうから、
ニヤニヤとわたしを連れ戻しにきていた
先輩の影が見えた。
「ごめんね、未依沙ちゃん。ペース考えずにお酒勧めちゃって。」
先輩が冗談っぽい声を出した。
瑠飛をその瞬間、先輩に鋭い視線を向けた。
「隣にいたのに、未依沙がしんどいの気づかなかったんですか?」
瑠飛の、まるで地を這うような低い怒声に、
わたしは一気に血の気が引いた。
まさか、ここでケンカになっちゃうの……!?
と、焦りで心臓が破裂しそうになる。
「いや、未依沙ちゃんと飲むのが楽しくてつい…次から気をつけるね。」
先輩がとぼける感じで返していて、
ケンカになることはなさそうで
少し安心する。
「コイツ、ほっとけないんで、未依沙は俺が連れて帰ります。」
わたしを抱き抱えながら席に戻り、
わたしのカバンを取ると一緒にお店を出た。
「先輩、残念でしたね。未依沙ちゃん、かっこいい彼氏がいたんですね」
後ろからそんな会話が聞こえたけれど、
私の頭は全然働かなかった。




