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一番近くて、一番遠いーネット越しの恋を、君とー  作者: りなる あい
最終章:繋ぐ

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11-8.  イタリアでの非常事態 

(✳︎景虎視点)


イタリアでの日々は一瞬で過ぎていく

嵐のようだった。

日本の大学の講義をオンラインで受け、

現地の大学の授業もとらせてもらい、

言語の勉強もし、 もちろんバレーボールも…

1日が終わって寮に帰れば、いかに早く

ベットへ辿り着けるかの戦いだった。


そんな中で、人生最大の

非常事態が起きていた。

——なんと、俺に前代未聞の

モテ期が到来しているのだ。


決して冴えない顔で

身長もそんなに高くない俺だけれど、

なぜかイタリア人美女たちに

カッコいいと言われ

若干チヤホヤされている。


「かげ!おはよう!今日も素敵ね!」


「ねぇ、バレーボールの練習がない日、デートに行こうよ」


「あなたの瞳、すごく吸い込まれそう」


正直、最初の方は、

嘘だろ!と思っていた。

イタリアってこんな文化なのかなって

軽く流していた。


でも、数人から「本気」だと言われ、

俺はかなり戸惑った。


「見た目だけじゃなく、あなたの一生懸命なところ、誠実なところ、本当に魅力的なの」


「あなたの性格を知れば知るほど、好きになっちゃうな」


これまでの人生では聞いたことのない

情熱的な言葉を、現地の言葉で

見聞きする日々だった。


必死にイタリア語のシャワーを

浴び続けた甲斐あって、最近ようやく、

チームメイトたちの冗談が

なんとなく聞き取れるようになってきた。

……けれど、言葉が分かるようになった

俺を待っていたのは、万国共通の、

あの騒がしい『男子トーク』の洗礼だった。


「かげ!めっちゃアプローチされてるじゃん!かげはどの子がタイプなの?」


「めっちゃモテてるな〜!選び放題じゃん」


そんな言葉をかけられる人生が来るなんて…

日本にいる時はまったく想像できなかった。


「いや…俺、日本人で珍しいから、みんな日本人マジックにかかってるんだよ。」


「まあ、アジア人がタイプなイタリア人も多いからな〜!得じゃん!で、どの子とデート行くんだよ」


「いや、でも女子たちは見た目だけじゃなくて、かげの中身がいい!って熱く語ってたぞ」


チームメイトも気になるみたいだった。

そんなある日、事件は起こった…



……



練習が終わり、荷物を持って外へ出ると、

セリーヌが待っていた。


「かげ!練習終わったのー?」


ザ・イタリアな陽気な性格で、

小柄で可愛らしい子だった。

たくさんアピールしてくる大学の同級生だ。


「うん、終わった。セリーヌは何してるの?」


その瞬間、小さな彼女の手で

ぐいっと首の後ろを引っ張られ、

俺は思わず上体を屈めた。

——チュッ、と、西日に照らされた右の頬に、

驚くほど温かくて柔らかい感触が走る。


「えっ、セ、セリーヌ?!」


「かげ、わたしがどれだけアピールしてもなびかないんだから。わたしから行くことにするわ」


腕は俺の首に巻きついたまま、

至近距離での上目遣い。

ふわっと甘い香水の香りが鼻を掠める。

イタリア人女性、積極的すぎる…!


「待って、セリーヌ、一旦離れよう。俺、めっちゃ汗もかいてるし」


肩に手を置き、俺は必死に

彼女から距離を取ろうとした。


「そういうウブで照れちゃうところも大好きなの」


目から光線が出てるのか?と思うほど、

俺への好意が溢れ出ていた。


「セリーヌ!かげが困ってるだろ。そんなところにしとけよ〜」


出てきた部員たちが、俺の姿を見た瞬間、

助け舟を出してくれた。


「仕方ないわね。まあ、今日はキスできたらよしとするわ。今度デートに行きましょう!またね」


解放された俺は胸を撫で下ろした。


「かげ、大丈夫か?」


「うん、ビックリしただけ。」


「イタリア人女性は、甘く見ないほうがいいぞ。とことん追いかけてくるからな。ははは」


「は…はは」


俺は苦笑いしかできなかった。


はぁ…こんな時、ふと未依沙を思い出す…

元気にしてるのかな…

俺から別れを告げておきながら、

そんなことを考えてるなんて…

未依沙はそのことを

知ったらどう思うんだろう…



……



イタリア人女性からの

アプローチは続いていたが、

俺はやんわりと断り続けていた。

一線を越えようとしてくる人には

しっかりと線引きをした。


俺はイタリアに遊びに来たんじゃない。

そして、何より…

俺の心の中にはまだ未依沙がいる。


女性からの真っ直ぐな誘い文句や、

濁りのない褒め言葉を浴び続けるうち、

俺の胸の奥で、カチリ、とパズルの

最後のピースがはまるような感覚があった。


——その瞬間、ある重大な、

本当にかけがえのない真実に

気がついてしまったんだ。


今まで一番大切な人が、

そばでずっと伝えてくれていたことを

俺は受け取って無かったんだということに…


未依沙はどんな時も、あの優しくて、

ひだまりみたいな笑顔で、


「かげちゃんはカッコいいよ」


「かげちゃんが大好きだよ」


って、何度も、何度も、俺に

届かないかもしれない言葉を

諦めずに伝えてくれたんだ。

遠いイタリアの地で、見ず知らずの、

それもたくさんの女性たちに

否定されることなく全肯定されて、

俺は初めて「一人の男としての自信」

というものを手に入れた。


……だけど、そんな自信をもらって初めて、

未依沙の言葉の本当の意味を

受け取れるようになるなんて…


俺、本当に情けないよ……。


自分の小さな世界で、

自分自身を認めることができなかったんだから。


未依沙はそれを見抜いた上で、

俺に届けようとしてくれてた……?


今になって、その有難さを思い知るなんて…


もし、まだ未依沙の中に気持ちが残ってるなら、

また俺と一緒に時を刻んでほしい。


そう伝えるんだ。

もう一度。


次はちゃんと、未依沙の言葉を、

そして想いをしっかりと受け止めるんだ。



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