11-7. 最近どう?
(*未依沙視点)
見知らぬ番号からの電話だった。
「こんにちは。上野未依沙さんのお電話でお間違えないですか?」
「はい、そうです」
「わたくし、デ・ボンデ株式会社の小野寺です」
「え? 小野寺さん……。以前、面接ではお世話になりました」
「よかった、覚えていてくれたんですね。実は今日、上野さんにお伝えしたいことがあってお電話させていただきました」
「はい、なんでしょうか……?」
いいこと? 悪いこと?
わたしはドキドキしていた。
不採用になったはずの会社から、
面接官だったあの部長さんが
直々に連絡をくれるなんて……
「多分、上野さんも感じていたと思うんですけれど、面接の時、すごく波長が合う感じがしましたし、わたし個人としては、ぜひ一緒に働きたいと思ったんです。これはお世辞ではなく、本当ですよ」
「そう言っていただき、嬉しいです……!」
「でもね、上野さん。もしうちがあなたを雇ったら、あなたは自分を殺して、どこまでも頑張りすぎてしまう。……あなたを守るために、今回は採用することができなかったんです」
「そう…だったんですか……」
「だからね、上野さんに何かが足りないとか、評価が低かったとかでは決してないんです。今日は、それだけをどうしても伝えたくて。いつかベストなタイミングで、一緒にお仕事できることを願っていますね」
「…わざわざ、お電話をくださりありがとうございました。わたしも、いつかご一緒できると嬉しいです」
電話を切った後も、彼女の言葉が
ずっと胸の奥でリフレインしていた。
自分を殺して、頑張りすぎてしまう。
……私は、そんな風に周りから
見えていたんだ。
でも、自分の評価が低かったわけじゃないと
わざわざ伝えてもらえたことは、
冷えた心にじんわりと
染み渡るように有り難かった。
……
「よ!未依沙!元気?最近どう?」
練習が終わった瑠飛が
こちらに手を振りながら歩いてきた。
「瑠飛〜!練習、お楽しみ様。元気だよ!瑠飛は?」
面接のこと、瑠飛に話したい…
自分が感じてることとかも
全部共有したいと思った。
「うん!俺も相変わらず順調。でも、課題が溜まってるわー」
いつもの明るいエネルギーに、
わたしも自然とこころが救われるようだった。
この流れで、暗くならずに伝えよう。
「瑠飛はバレーと勉強の両立してて本当尊敬するよ。…ところでさ…一つ報告があって」
「ん〜どした?」
いつもより緩い返事が返ってきた。
「実はね、少し早いけど素敵な会社があったから就活してたの。三次まで進んで、将来の上司の方と面接をして手応えはあったんだけど…」
「あったんだけど?」
何か問題でも?という
瑠飛の不思議そうな声に、
わたしは少し戸惑った。
「不採用だったんだよね…。さっき、面接官の方から電話があって『あなたは自分を殺して、どこまでも頑張りすぎてしまう。……あなたを守るために、今回は採用することができなかった』って言われたの…」
「へぇ〜そうだったんだ。で、未依沙はその言葉を聞いてどう思ったの?」
「数回面接をしただけなのに、なんでわたしのことをわかったのかな?って不思議だった。あと、瑠飛と水族館へ行ってから、意識して力を抜くようにしてて…何だかいい流れがきてるなって思ってたから、トントン拍子で採用も決まるかな?って思ってたんだよね。でも、違った」
是非とも受かりたかったから、
苦い思いが胸に広がっていく。
「まあ、これまでがむしゃらにやって来てたから、すぐに力を抜こう!ってしても難しいのかもな?」
てっきり、一緒に落ち込んでくれたり、
慌てて励ましてくれたり
するもんだと思っていた。
なのに、瑠飛の反応は
拍子抜けするほど違っていた。
変に気を遣う様子もなく、
まるで最初からこうなることを
知っていたかのように、
どこまでも穏やかで、
安心しきった顔をしている。
「なんだか不思議だなぁ〜。てっきり、慰めの言葉をくれると思ってたのに」
わたしは冗談っぽく言った。
「俺から見るとさ、その上司の人は未依沙を守ってくれたって感じたけどな〜。はい、また頑張り癖を発動させるつもりですか?そんなの、させませんよ!って。」
ニヤっと笑う瑠飛に、
わたしは釘付けになってしまった。
わたしは『不採用で悲しい』と
思っていた出来事でも、
瑠飛の考え方だと、わたしは
『守ってもらえた』ってことになるんだ…
『あなたを守るために…』という言葉を
ちゃんと受け入れられず
一人悲しみに暮れてしまってた。
目から鱗だった。
そっか、だから瑠飛は
心配せずに安心して聞いてたんだ…
「…たしかに…そんな見方もできるよね…」
ポロっとわたしの心の声が出た。
「…瑠飛ってさ、なんでそんな前向きに考えることができるの?」
「んー、前向きとかネガティブとか難しいことはわかんねぇけどさ。結局、その出来事をどう見るかって、自分次第でどうにでもなるじゃん? だったら俺は、自分が一番ラクで、気分が良くなるように捉えたいんだよね。どうせ自由なんだし」
瑠飛…こんなに大人だったんだ…
幼馴染としてすぐそばにいたはずなのに、
いつの間にかこんな考え方が
できる人になっていたことに驚いた。
「なるほどね…自分で意味付けしていいんだね。なんか、それが知れただけで、心が軽くなったかも。まだまだ自分の考え方の癖は抜けないけれど」
「いや、それでいいんだよ。そんなすぐ変われる人なんていないし。俺でよければいつでも話聞くから。あ…ここでまた頑張ったりすんなよ?」
最後に、部活終わり特有の汗と
タオルの香りを纏った、
少し熱くて大きな手のひらが、
ぽん、とわたしの頭に優しく触れた。
西日に照らされた瑠飛の影が、
私の足元まで長く伸びて、
わたしをすっぽりと包み込んでいる。
その瞬間、胸の奥に固まっていた
「不採用の塊」が、すうっと温かい涙みたいに
溶けていくのが分かった。
夕日に向かって歩く瑠飛。
どんどん遠くなる背中なのに、
大きくて頼もしく見えた。




