11-5. 俺が伝えたいのは…
(✳︎瑠飛視点)
未依沙になんと伝えたらいいんだろう…
俺が未依沙を水族館に誘ったのは、
肩の力を抜いて、ゆっくりして
もらいたかったから。
未依沙と話していくうちに、
やっぱり、胸の奥に
冷たいものが引っかかった。
……この違和感の正体は、なんだ?
変わろうと努力してるのはわかるんだけど、
今の未依沙は、自分はまだまだだ…とか、
何とかしないと…って、
どこか苦しそうに見えるんよな…
でも、自分の中でも
上手く言語化できないモヤモヤを
相手に伝えることなんでできないし…
それで傷つけるのは嫌だしな…
頭の中でぐるぐる考えながらも、
水族館での時間は少しずつ過ぎていく。
二人でイルカショーを見ることになった。
今日は天候に恵まれたおかげで、
水しぶきを上げるイルカたちが
キラキラ輝いていた。
周囲の歓声や、イルカが
跳ねるたびに上がる激しい水しぶき。
そんな賑やかさの中で、
未依沙だけが静かに、
優しい目を水面に向けていた。
「きれい……」
小さく呟いたその横顔は、
水槽の青い光がゆらゆらと反射して、
どこか儚げに見える。
イルカを見るのも忘れて、
俺はただ、必死に前を向こうとしている
その姿を見つめていた。
頑張らなくても、お前は
十分きれいなのに、って。
気づいた時には、
言葉が自然と口から滑り落ちていた。
「…未依沙もきれいだよ」
イルカの躍動よりも、
俺の目は彼女から離せなかった。
自分の中にあたたかく、でも熱い想いが
あふれていた。
未依沙、君は頑張らなくても、
十分きれいだよって…
「えっ…?」
俺の言葉に驚いた未依沙は
イルカではなく俺を見上げている。
「イルカたちを『きれい』って言ってる未依沙もきれいだなって思って。」
俺はニヤっと笑って伝えた。
未依沙、俺、
本当に伝えたいことがわかったよ。
でも、今は、あえてこの言葉を
伝えたいって思った。
君は、何を感じる?何を思う…?
「ちょ、え?どうしたの?」
「いや、なんか伝えたくなった。」
「瑠飛、変なの~!でも、ありがとうね」
イルカショーが終わったら、
伝えよう、未依沙に…
……
「未依沙。自分の中でまとまってないんだけど、思ったことそのまま言っていい?」
「うん」
「なんかさ、かげの隣に立つ未依沙を見ていてさ、どこか、苦しそうに見えたんだ。」
「うん」
「未依沙が頑張ってるのは十分伝わってた。自分が成長したいっていう未依沙の気持ちもよくわかるんだ。」
「うん」
俺が言葉をつなぐのを、真剣に
聞いてくれるのが
嬉しかった。
俺も、どうやったら伝わるか…
そのことに必死だった。
「でもさ…」
『でもさ…』と言った瞬間、未依沙の体に
力が入って身構えたのを俺は見逃さなかった。
まだ俺の伝えたいことを受け止めるのは
難しいかもしれないと
その時なんとなく直感した。
「景虎のために変わらなきゃいけないなんて、誰が決めたんだ?」
息をするのを忘れ、一瞬時が
止まったかのようだった。
「か、変わらなきゃって思ってるわけでは…ないんだけど…」
なんとか絞り出した涙声は少し震えていた。
俺は未依沙の目をみて、ゆっくりと、
心に届くように世界に言葉を置いた。
「頑張らなくても、未依沙は十分、景虎の隣に立ってもいい女だよ」
未依沙は大きな目をこれ以上ないほど見開いて、
フッと体から力を抜いた。
それから、堪えきれなくなったように
涙がポロポロと溢れ出す。
水族館の青い光のなか、
周囲の目を気にして必死に声を
殺そうとするその華奢な姿が、
無性に愛おしくて、気づけば腕が動いていた。
「おいで。泣いていいよ」
俺が隠してやるから、思いっきり泣いてくれ。
俺は未依沙の頭にふれ、顔を胸に引き寄せた。
声を押さえなが、涙を流す未依沙を、
ただ腕の中に包んでいた。
俺の中で泣く未依沙に届くように、俺は祈った。
そのままで大丈夫だよ…って。
……
水族館でのデートが終わった。
駅で未依沙と別れてから、
一つの強い思いが湧き上がった。
今日、きっと未依沙はどんな自分も
受け入れてくれるというエネルギーに触れて、
何かしらの変化が起きたはずだ。
でも、万が一、ここで未依沙が俺を選んだら、
俺は全力で拒否する。
未依沙にとって癒しをくれる、
100%全肯定してくれる存在を求めているから、
選ばれたに過ぎない。
もし俺がその寂しさに付け込んで
手を伸ばしたら、それは未依沙を
ただの『守られるだけのお姫様』にしちまう。
そんなの、ただの依存だ。
本当の『好き』なんかじゃない。
そうじゃない…
未依沙は守られるべき存在じゃない。
自分の足で人生を切り開ける、
幸せになれるって俺は信じてる。
ま、こんな心配なんて、
ただの杞憂になっちまうだろうけどな…(苦笑)
今日の出来事がどんな未来に繋がるのかなんて、
俺はわからない。
でも、どんな未来になったとしても、
今日という日は無駄じゃなかった、
俺は自分のやりたいことを
やりきることができたって胸を張って言える。
一人暮らしの静かな部屋の中で、
心はあたたかく、希望に満ちていた。




