11-4. 水族館行こうぜ
(*未依沙視点)
「未依沙、今週の日曜日、空いてる?」
大学で会った瑠飛は、
いつもの笑顔を見せてくる。
かげちゃんと別れてから、
瑠飛がなんだかんだわたしを
気にかけてくれてるのが伝わる。
「今週の日曜日かぁ…時間、つくるよ!」
心配させたくなくて、
わたしは口角を上げて、
明るい声を出そうと意識した。
「じゃあ、水族館行こうぜ!」
「水族館?!いいね~。最近、全然行ってないかも」
「だよな!久々に行こうぜ」
「了解!誘ってくれて、ありがとう。これは、他に友達来たりする?」
「いや、俺たちだけのつもりだった。気軽に二人で行こう」
「うん。二人いいね。ちょうど、息抜きしたかったし。」
「じゃあ、決まりな。また連絡するわ」
瑠飛は部活があるからと
すぐに夕日に背を向けて行ってしまった。
きっと、落ち込んでるかもしれないって
わたしを励ますためだよね…?
瑠飛は昔から、本当に気が利く。
その優しさに何度も助けられてきた。
そして、純粋に水族館へ行くのが楽しみ。
もうひと踏ん張りしよう。
*
「週末だけど、開園と同時だと結構空いてるね~」
わたしたちは朝の10時につくように、
早めに出発していた。
瑠飛は魚の説明などを読むのが好きみたいで
驚いたこととか、知ったことを
すぐにわたしにシェアしてくれる。
頭の芯が、じわっと
解けていくような感覚になった。
最近のわたし、ちょっと
張り詰めすぎていたのかも……
まるで海底の洞窟のようなエリアに入ると、
視界が一変した。
水槽から漏れるゆらゆらとした青い光が、
私たちの足元や壁を波模様に照らしている。
その光の中で、色とりどりの魚たちが
驚くほど活き活きと泳いでいた。
瑠飛は水槽とは逆の方向へ歩き出した。
ベンチを見つけたみたいで、
わたしに手招きをする。
ポンポンと促され、
わたしも腰を下ろした。
遠くで小さく水の音が響いて、
時折、通り過ぎる人の気配が遠ざかっていく。
静かな青い光のなかで、ただぼーっと
大きな水槽を眺めているうちに、
わたしは胸の奥に溜まっていたものを
吐き出すように、ふぅーっと長い息を吐いていた。
「どした?疲れてるの?」
瑠飛の優しい目がわたしをとらえた。
「いや、気が抜けてリラックスしてる」
「よかった。リラックスできて。それが目的だったから」
すっとわたしの方を見る瞳は、
優しさの中にも本質を見抜いているような
鋭さもあった。
「誘ってくれて、ありがとうね。瑠飛」
「うん。未依沙、手の抜き方覚えた方がいいぞ」
あ…これは、瑠飛が何か伝えようとしてる
なぜかわたしは直感した。
「うん。そうかもしれないね…でも、なんでそう思ったの?」
「なんていうか、焦ってるように見えたんだよな。一生懸命なんだけど、必死っていうかさ」
「実は…エンジニアになるために実績がほしくて、今はとにかく動いてるんだよね。瑠飛もそれを感じちゃったかな?」
前を向いて努力することは
正しいはずなのに、
瑠飛の言葉からは、
どこか心配そうな響きが感じられた。
「未依沙がそんなに頑張る理由って何?別に、責めてるとか、突き止めたいとかではないんだけどさ、やる気の源ってなんだんだろ?って疑問に思ってさ」
「わたし、かげちゃんのこと、諦めたつもりはないの。イタリアから帰ってきたときに、成長したわたしでいたいと思って。だから、今は頑張り時だと思ってる。」
「そっか…成長したわたしか。未依沙らしいな…」
ふっと視線を落とし、
そこから瑠飛は黙ってしまった。
正直、瑠飛は何を考えているのか
わからないことがある。
みんなから策士と言われることも多いし…
ブー、ブーっ
わたしのケータイが振動した。
仕事のことかも?と思い、
ケータイを手に持ったら
瑠飛の大きな手のひらが、
上からわたしの手を包み込むように、
とっさに、でも優しく重ねられた。
ごつごつした男らしい大きな手から
あたたかいぬくもりが伝わってきて
体がビクッとした。
暗闇で輝く栗色の瞳がわたしを射貫く。
「言い忘れてたけど、今日はケータイ禁止ね?未依沙、すぐ仕事モードになっちゃうから」
まさか、そんなことを
言われるとは思ってなくて、
わたしは一瞬、
目を丸くして固まってしまった。
重ねられた手の温もりにドキドキしながら、
私は慌ててケータイを
バッグの奥に仕舞い込んだ。
いつも無意識に画面を開くのが
癖になっていたから、
手元にそれがないだけで、
なんだか意外なほどそわそわしてしまう。
「今日の未依沙は、ぼーっとすることが仕事ね?」
なにやらたくらんでいるのか?
でも、瑠飛はわたしにとって
いいことしかしないってわかってるから
その提案をのんでみることにした。




