11-3. 親友はクソやろうだ
(*瑠飛視点)
「未依沙〜、かげ、イタリア留学決まったな」
未依沙に気軽に話しかけたが、
俺は表情を見た瞬間、
最悪の未来が実現したと察した。
…
「未依沙、どうした?かげから聞いてるよな…?」
俯く未依沙の瞳にどんどん涙がたまっていく。
「瑠飛…ごめん、わたしもうダメかも」
そう言って手で顔を覆う痛々しい姿が
俺の胸を打った。
「お前ら、もしかして…別れたのか…」
嘘であってくれ!と願ったけれど、
未依沙は顔を埋めたまま、小さく頷いた。
「嘘だろ…?何でだよ…」
「ひっく、うっ…」
俺は未依沙を胸に抱き寄せた。
腕の中の未依沙は驚くほど小さくて、
しゃくり上げるたびにその細い肩が
激しく震えている。
――俺が代わりに泣いてやれたらいいのに。
そんなくだらないことを
思ってってしまうくらい、
未依沙の涙が痛かった。
「かげちゃんに…俺に縛りたくないって言われた…」
一層激しく泣く未依沙。
きっと、自分で言って
ますます辛くなったんだ。
「縛りたくないだって?何偉そうなこと言ってんだ、アイツ」
俺はかげへの怒りが湧いてきた。
未依沙のこと、アイツが
縛ってると思ってるのか?
勘違いも大概にしろよ。
かげ、お前の愛情の示し方を、
俺は理解できない。
いや、理解したくもないな。
大切だから手放すなんて、
辛いのはお前もだろうが…
「未依沙、ごめん、俺ちょっと行ってくる。また後で話は聞くから、な?」
泣いている未依沙からゆっくり離れ、
頭をポンポンした。
俺は部活の練習場所へ急いだ。
心のどこかで、止められない
衝動だとわかっていた。
けど、何もしなかったら、
俺は一生“クソやろう”になる気がした。
かげを見つけた瞬間、俺は襟元を掴んだ。
「お前、自分が何したかわかってんのか!」
勢いよく掴み掛かったのに、
かげは無抵抗だった。
「わかってる」
下を向きながら悔しそうに呟く。
「何もわかってねぇよ、ボケがっ」
周りにいた部員たちに止められ、
俺はかげと引き剥がされた。
「縛りたくないじゃねぇよ!受け止めるのが怖いだけだろうが!」
俺の言葉をかげはどこまで理解できるだろうか。
かげはすぐに練習に溶け込んでいってしまった。
まるで何事もなかったかのように。
その姿を見るのが俺も辛かったのは、
まるで未依沙とのことが白紙のように
思えたからかもしれない。
……
かげの留学決定後、別れた2人は
結局よりを戻すことはなかった。
未依沙の姿を見る度、何とかしてあげたい
という思いが込み上げる。
でも、俺にできるのはそばにいてやることくらい。
2人が別れたと知った日、あの日、
俺が一方的に怒りをぶちまけて以来、
かげは腫れ物に触るでもなく、
妙に淡々と普通に接してきた。
その態度が、余計に俺をモヤモヤさせた。
あいつ、本当に全部
白紙にするつもりなのかよ、って。
イタリアへ旅立つ日、
空港に未依沙の姿はなかった。
あいつのことだ、きっと最後に
かげを困らせたくなくて、自分なりの
『応援』のつもりで来なかったんだろう。
……バカ真面目で、どこまでも優しい
未依沙らしい選択だった。
そんな未依沙の気持ちなんて、
これっぽちもわかってないんだろうな…
「未依沙を頼む…」
俺の肩をたたきながら、つぶやいた声。
「わかった」
かげに気づいてほしいと思う反面、
本人が気づくまで待つしかないかとも感じる。
どうか、気づいてくれ…
俺は期待を込めて、かげの後ろ姿を見送った。
かげがいない間、俺が未依沙を支えよう。
あいつが変な男に捕まったり、
一人で無理して倒れたりしないように、
俺がずっと近くで見守ってやる。
それが、あいつの背中を見送った俺の役目だ。




