11-2. 優しさという名の刃
(*未依沙視点)
「未依沙、俺、イタリア留学が決まった」
その言葉を聞いた時、
喜ばしいことだと思った。
でも、かげちゃんの目を見たら
わかってしまった。
かげちゃんは、もう
すべてを覚悟してここにいるのだと。
「おめでとう!本場でバレーが学べるね」
何とか笑って返したけど、
わたしの心にずっしりと重くなった。
なんでだろ、急に息がしづらくなったみたい。
「イタリアに一年行くんだ…」
「そっか、寂しくなるね…」
あぁ、ダメだ。
これ以上、彼の口から
言葉を紡がせないで。
もう、何も言わないで。お願い――。
耳を塞ぐことすらできなかった
わたしの鼓膜に、一番恐れていた
刃が突き刺さった。
「未依沙、俺と別れてほしい」
やっぱり…
薄々感じてた違和感は、
これだったんだ…
いつか言われるかもって、
何となく感じていたから。
「ど…して…?もう、わたしのこと好きじゃなくなった…?」
涙が勝手に溢れてくる。
目の前のかげちゃんの顔がぐにゃりと歪んで、
涙を止める方法が思い出せないや…
「いや…そうじゃない…俺は…未依沙を縛りたくないんだ…」
…
好きじゃなくなった訳ではないなら、
なんで…
かげちゃんはわたしを縛り付けてなんか…
でも、今の彼には……わたしの言葉が
すり抜けてしまう気がした…
何か言いたいのに、声が出ない…
頭がぐちゃぐちゃだった。
「未依沙には…もっと素敵な人がいると思う。俺が留学に行っている間、縛るのは違うと思うんだ」
「どうして…どうしてそんなこと言うの。わたしはかげちゃんだけなのに」
こんなに悲しいことってあるのかな…
わたしの想いが届かないなんて…
「だからなんだ。だから、他の人も見るべきだ。」
かげちゃんの瞳の奥で、
何かが必死に揺れているのが見えた。
その揺れが、わたしの涙よりも
苦しそうで、見ていられなかった。
かげちゃんは最後に、
掠れた声で「ごめん」と言って、
一度も振り返ることなく
歩き出してしまった。
遠ざかっていく、あの広い背中。
――ずっと、ずっと追いかけてきて、
やっと隣に立てたと思ったのに。
もう終わったんだ。
この現実を突きつけられたことを
受け止めることができなくて、
わたしはただ立っていることだけで
精一杯だった。




