11-1. この部屋から、一歩も出たくなかった
本日より最終章が始まります!
(*景虎視点)
あの真冬のお泊まりの夜から、
気づけば半年が経っていた。
窓の外から容赦なく
ギラギラした日差しが差し込んでいる
蒸し暑い部屋なのに、
一歩も出たくなかった。
エアコンをつける気すら起きなくて、
俺はただ、座ってぼーっと
床の一点を見つめていた。
あこがれていたイタリア留学。
大学生になったら絶対に
叶えたいと思っていた。
イタリア語を学び、
その本場でバレーボールをしたい。
そのために、日本にいる間、
必死に言葉を頭に叩き込んだ。
ひとつ気がかりだったのは、
未依沙のことだった。
幼馴染で、ずっと傍で見てきた彼女は
本当に完璧な女の子だ。
可愛くて、性格も良くて、頭もいい。
欠点なんて一つもない人間が、
この世にいるんだな、と思った。
ちょうど一年ほど前の秋、
俺はそんな完璧な女の子の彼氏になった。
……本当は、好きになっちゃいけない相手だと
何度も自分にブレーキをかけていたのに。
あまりにも純粋でまっすぐに届けられ、
俺の本当の想いを自覚するほかなかった。
正直、付き合っている時、嫌なところとか、
直してほしいところはなかった。
でも、なぜだろう…
彼女の完璧さを思い知る程、
俺は自信をなくしていった。
『誰よりもカッコいい』
『かげちゃんが好き』
たくさんの言葉をくれた。
本当にありがたかった。
だけど……俺は、その言葉を
まっすぐ受け取れるほど
強い男じゃなかった。
彼女に褒められるたび、心の中で
『俺はそんなカッコよくない』
『そんなことないのに』
と、卑屈な言い訳ばかりが浮かんでしまうんだ。
それと同時に、彼女への愛しさは
強くなっていくばかりだった。
離れたくない、一緒にいたい、
俺を好きでいてほしい。
完璧な彼女だからこそ、
この人と離れたら
一生こんな人と出会えないんじゃないかって…
放したくない…
――机に突っ伏したまま、
自分の髪を乱暴にかきむしる。
この想いが危険であることを、
俺は痛いほど知っている。
自分のものにしようとしたら、
それは未依沙を俺の都合で
縛りつけるってことだ。
そんなの、愛じゃない。
付き合った時に決めたんだ。
彼女の意思を尊重すると。
だから、コントロールしたいって
気持ちが生まれた時、
初めて俺の心が警報を鳴らした。
これ以上行ったら、もう戻れなくなる。
そんな怖さもあった。
好きすぎて狂ってしまいそうで…
こんな状態で離れたら、
未依沙が誰かのことを
好きになるんじゃないか?
誰かに奪われるんじゃないか?
そんな暗くてドロドロした感情が渦巻いて、
大きくなって、いつか
飲み込まれてしまうんじゃないか。
せっかくイタリアに行っても、
遠くにいる未依沙のことで
目の前のことに集中できないんじゃないか?
自問自答する日々が続いた。
俺は、弱いんだ。
自分のことで精一杯な俺が、
大切な人を守れる気がしない…
相手を縛って、自分の不安を埋める。
そのために未依沙が存在するのは違うよな…
なんでだろう…
今の俺は明るい未来が…見えない…
ごめん、未依沙。
こんな状態でイタリアになんて行けないよ




