10-6. 手を繋ぎたい(未依沙)
(✳︎未依沙視点)
「未依沙」
名前を呼ばれて振り返ったら、
すっと後ろから手を握られた。
まるでお姫様をエスコートする
王子様みたい。
かげちゃん、こんなこともできるの…
わたしの心臓がもたないよ…
恋人繋ぎをする指と指が触れる箇所から
自分の脈が大きく波打っているのを感じて
急に恥ずかしくなる。
うっそ…わたしの心臓、すっごくうるさい…
「さっきのことなんだけど…」
少しうつむいて、言葉をさがすかげちゃん。
わたしは彼の言葉を待った。
「うん。」
「未依沙と手を繋ぐのが嫌とか、恋愛報道とかじゃなくてさ…」
「うん」
かげちゃんが一生懸命伝えようとしてくれてる、
それだけでとっても嬉しい。
わたしと向き合おうとしてくれてるみたい。
風がすっと二人の間を通り抜け、
わたしの後れ毛がなびく。
だけど、繋いだ手からは
かげちゃんの熱い体温が伝わってきて……
「俺と手を繋ぐってことは、俺は周りから未依沙の彼氏ポジションに見えるわけで…」
少し俯き加減の彼にどうしても伝えたい。
わたしの本音が、自然と口をついて
溢れ出していた。
「うん、かげちゃんはわたしの自慢の彼氏だよ」
かげちゃんをじっと見つめた。
(わたしの気持ち、ちゃんと届いてる…?)
「あ、ありがとう…」
かげちゃんの顔がだんだん赤くなっていった。
しまいには、腕で顔を隠してる。
「でも、未依沙は美人で可愛いから、俺が横にいていいのかな?ってふと思っちゃって…」
照れながら白状する姿を見て、
愛しさが込み上げる。
「かげちゃん!可愛すぎ!そう言うところも全部ひっくるめて、かげちゃんが好きなんだよ。」
恥ずかしがりながらも
かげちゃんから手を繋いでくれた。
こうして並んで歩いているだけで、
周りからは正真正銘のカップルに見えるんだ。
――『わたしたち』という特別な関係を、
世界にそっと証明できたみたいで、
誇らしくて、この上なく嬉しかった。
『手を繋ぎたい』って言葉にすれば、
こうしてちゃんと手を握り返してもらえる関係なんだ。
……そんな当たり前の奇跡を感じて
あたたかくて幸せな気持ちが私を包んだ。
秋の寒さなんてこれっぽちも感じなかった。




