10-3. 困らせる天才、照れる天才
(*未依沙視点)
買ってきてくれたケーキを二つ置いて、
紅茶を準備する。
初めてかげちゃんが部屋に来てくれたのに、
とっても自然に過ごせてるのが不思議だった。
男の人からのアプローチや接近で、
なんとなく雰囲気で、
相手の考えていることがわかることがある。
男女の仲になりたいというか、
下心があるというか…
わたしはそのエネルギーを感じると、
居心地が悪く感じる。
だから、追われると逃げたくなるんだよね。
でも、かげちゃんは
どこまでも誠実で純粋だから、
そういう濁った気配をまったく放たなくて、
本当に安心できる。
だけど、一人の女の子として
大切にされている特別感も
しっかり伝わってくる。
かげちゃんの距離感がとても心地いいんだよね。
やっぱりかげちゃんが好きだなぁと
彼への愛しさが、これからも
大きくなっていくことが容易に想像できた。
ソファに二人で腰掛けて、ケーキをいただく。
「ケーキ美味しそう!どっちにするか迷うな〜」
「どっちも食べたらいいよ。半分こしよ」
半分こしよって言い方が、
まるで子どもみたいで可愛かった。
小学生のころに出会った可愛い少年が、
今はこんな大人の男性になっちゃって。
そして、その隣にいられる奇跡を噛み締めた。
わたし、よく頑張ったなと
自分を褒めたくなった。
ケーキを半分ずつ食べ進めて、
ちょうどお互いの味を
取り替えるタイミングになった。
「かげちゃんのちょうだい。」
とあーんをして見せた。
かげちゃんが戸惑っている。
わたし、かげちゃんを困らせる天才なのでは…
いいのか悪いのかわからない。
赤くなってるかげちゃんを見られるなんて、
わたしにとっては幸せでしかないんだけど。
「あーんってこと?」
またかげちゃんの顔が赤くなってる。
恐る恐るケーキをフォークで運んでくる。
わたしは腕に手を添えて、
パクっとケーキを食べた。
あーんをしてもらって
大満足のわたしを見つめながら
「甘えるってこういうこと?」
と照れながらかげちゃんが聞いてきた。
「ふふふ」
と笑いかけた。
そして、次はわたしのケーキを一口とって、
かげちゃんの口へ運ぶ。
わたしはかげちゃんの左側に座っているから、
体を少しひねって、かげちゃんの
正面にフォークを差し出そうとした。
すると、かげちゃんはわたしの
フォークを持った手を掴んで、
彼の口へ持って行った。
不意にきゅっと掴まれた手首から、
かげちゃんの体温がダイレクトに伝わってきて、
わたしの心臓はうるさいくらいに跳ね上がった。
熱が一気に顔に昇っていくのが自分でもわかる。
それを見たかげちゃんも、
ハッと我に返ったように慌てて手を離した。
うそ…
この人、何も考えずにしたの?
かげちゃん、その無自覚さが1番最強なんだよ…。
二人で照れて、二人で笑い出す。
その時間がずっと続いて欲しいと思った。
「そろそろお暇するね。」
ゆっくり過ごした後、かげちゃんは
さっとお皿とマグカップを洗ってくれた。
このまま帰らずに一緒に
過ごせるようになるのはいつだろう…?と
想像してしまうわたし。
健全なお付き合いをしてくれるかげちゃんに
感謝だなと思った。
「また来てくれる?」
玄関でお別れを言うと、
なんだか急に寂しい気持ちになった。
「うん、またお邪魔させてもらうね。あと…次は俺の家にも来てね…?」
照れながら次の提案をしてくれて、
次があるんだと嬉しくなった。
ゆっくりでいい、私たちのスピードでいい。
1番楽しいこの時間を大切にしたいと思った。




