9-7. 世界の音が消えた場所で
(*景虎視点)
「かげちゃん、髪の毛が目に入っちゃうよ」
バレーシューズの靴紐を直そうと
屈んでいた俺の前に、未依沙がしゃがみ込んだ。
伸ばした白くて細い手が
俺の前髪をそっとかき分ける。
ふっと顔を上げた瞬間――
すぐそこに、未依沙の瞳があった。
「かげちゃん、前髪あげるのもいいね」
……
その瞬間、時間が止まった気がした。
この目の前にいる存在が、
たまらなく愛しく思えた。
――あぁ、やっとわかった。
俺は、未依沙のことが好きなんだ。
誰かに取られたくないとか、
他の男と話してるとモヤモヤするとか、
そんな感情ばかりが渦巻いてたけど。
そうじゃない。
ただ、俺の前に未依沙がいてくれる。
それだけで、心が軽くなる。
力が湧いてくる。
もっとバレーを頑張りたいって思える。
未依沙の存在が、
俺にとってどれほど大きいか、
ようやくわかった。
――俺も、未依沙の笑顔を守りたい。
俺にとっての頑張る理由になって欲しい。
その想いが溢れた瞬間、
気づけば言葉が口を突いて出ていた。
「……好き」
「え?」
未依沙が目を丸くした。
息を飲む音が、すぐそばで聞こえる。
「好き…?」
「うん」
……沈黙。
だけど、不思議と怖くなかった。
この想いを隠す方が、もう苦しかった。
未依沙の腕に手を伸ばし、そっと掴む。
「俺、未依沙のことが好きだ。――幼馴染としてじゃなくて、一人の女の子として 」
大きな涙の粒が、未依沙の綺麗な頬を伝って
ぽろぽろとこぼれ落ちる。
「う、嬉しい……ありがとう、かげちゃん」
その表情は今まで見たどの瞬間よりも
輝くような笑顔だった。
胸が熱くなって、息が詰まった。
「気持ちに気づくのが遅くなって、ごめん。……俺、本気だから」
その言葉に、未依沙がそっと俺の手を握り返した。
彼女の指先が温かくて、
世界の音が全部遠ざかっていく。
ただ、二人の鼓動だけが重なっていた。
あのー、お二人さん、ここ体育館ですよ
ってツッコみたくなりますね(笑)




