9-4. 急に訪れた異風
(*未依沙視点)
大学の食堂を歩いていたら、
急に声をかけられた。
「Scusi…この教室、どこですか?」
少し片言の日本語と、
なめらかなイタリア語が混ざった声。
(あ、イタリア語…!)
反射的に、わたしはイタリア語で答えていた。
「È al secondo piano.(2階ですよ)」
目の前の留学生は一瞬驚いた顔をして、
それからパッと笑う。
「Tu parli italiano!?(イタリア語話せるの?)」
「少しだけ。勉強中なの」
「Incredibile…! Sei bravissima!(すごい!君、上手だね)」
イタリア人らしい大げさなリアクションに、
周りの学生がちらちらと見ている。
でも、わたしの中ではふわっと何かが動いた。
あれ…?イタリア語を使って、
こんな風に話せたの、初めてかも。
嬉しくなって心がワクワクした。
「僕はマルコ・ジャンネッリ。君の名前は?」
「わたしは上野未依沙。よろしくね」
「未依沙、よろしく。はぁ、君に出会えるなんて…運命を感じるよ」
今にも手を握ってきそうな勢いだった。
「ふふふ、マルコはおもしろいね。日本語もすごく上手。同じ講義だから、一緒に行こうか 」
『同じ講義だから、案内するよ』。
並んで歩きながら話を聞くと、
彼は今週から日本に来たばかりの
交換留学生だという。
教室に入ると、すでに顔見知りの学生たちと
すぐに打ち解けていた。
陽気なイタリアの空気が、
その場に一気に広がる。
……
授業が終わると、
マルコがまた声をかけてきた。
「未依沙、これから少し時間ある?カフェに行かない?」
「今からはちょっと難しいかな…」
「少しだけでいいから!」
彼のまっすぐな目に少し迷うけど、
今日はどうしても行きたい場所があった。
「わたし、バレーの練習を見に行く予定で…」
「バレー? バレーボールのこと?」
「うん。この大学のバレーボール部だよ」
「それ、僕も行けるかな?」
「いいと思うよ。一緒に行こ」
*
「こんにちは!」
バレー部の練習場に入ると、
いつもの空気が流れる。
「Ciao! Sono Marco Giannelli! Piacere!(やあ!マルコ・ジャンネッリです。よろしく!)」
マルコが陽気にイタリア語で挨拶した、
その瞬間。
コートの奥から、低くて聞き馴染みのある声が、
同じなめらかな発音で自然に響いた。
「Piacere!(よろしく!)」
え…かげちゃん、イタリア語話せるの!?
みんなが驚きの表情でかげちゃんを見ている。
「おお!あなたもイタリア語わかるんだ!イタリアから来ました、マルコ・ジャンネッリです!」
「よろしく〜」
部員たちがざわつく中、
マルコは主将に練習参加の許可をもらっていた。
(マルコもバレーするんだ…)
イタリアといえば、世界の強豪国。
その中で鍛えられたマルコの動きは、
やっぱり本格的だった。
「未依沙、僕のこと見ててね」
ウインクをしながら言うマルコ。
(イタリア人のノリって、ほんと陽気だな…)
でも、わたしの視線は自然と、
コートの反対側に立つ人へ向かっていた。
かげちゃん。
今日も真剣な眼差しで、ボールを追っている。
その姿を見るだけで、胸が熱くなる。
——だけど、このあと。
想像もしなかったことが起こるなんて、
そのときのわたしはまだ知らなかった。
かげと未依沙、いい感じだったのですが、ここで強敵が…!




